ピザをくわえたまま“ドン”は天井を見上げたまま微動だにしなかった。そして、そのまま大泣きしはじめたらしい。熊が遠吠えするように。叔母たちも困ってしまって、うつむいたままかなりの時間が過ぎた。すると、“ドン”はぴたりと泣きやんでこう言った。
「まあ、そう落ち込むな。」
 まったくもっておめでたい人で助かったと叔母は言ってた。なんでも、“ボス”はヨーロッパでもう一花咲かせようと思っていたYMOが自分を頼って来たと思っていたらしい。その大きな勘違いに気付いて大泣きしてしまったけど、“ボス”は叔母たちがもっと落胆しているだろうと勘違いに勘違いを重ねたとのこと。
「まあ、そう落ち込むな。前向きに生きていかなきゃ、この国では取り残されてしまうぜ。お前たちがYMOだろうとJHOだろうとどうでもよくなった。明日からのことは明日考える。楽しくやろうぜぃ。」

 “ボス”の勘違いから来てしまったイタリアで叔母たちがどうやって過ごしたかというと、これまた不思議というか、いい加減で、かなりの数のテレビや雑誌のインタビューを受けたらしい。例の写真は、“ボス”の知り合いのルーマニア人が作ったらしく、“ボス”のデザインイメージ「東洋の神秘」「謎の日本人」というものに沿って、叔母たちが事前に送っていた写真を加工して作られたとのこと。ルーマニア人にとっての日本のイメージがあの3枚だったんだろうね(苦笑)。インタビュー資料としては、“ボス”の作った大げさなプロフィールと例の写真だったらしいけど、そのプルフィールはさながら「日本のトップスターがイタリアを拠点に再出発!」みたいなノリだったらしく、当時のオリエンタルブームにのっかって、叔母たちがイタリアに行く前からかなり盛り上がっていたみたい。“ボス”のマスコミに対する手腕は、かなりドンピシャだった。叔母たちもしぶしぶながらインタビューを受けているうちにもっともらしい受け答えが出来るようになり、いつのまにか『鋭意レコーディング中』ということにまでなった。当然、レコーディングの予定なんてなく“ボス”は
「音のほうはまだだけど、ジャケットは資料に入っている写真を使う。だから、どんどん宣伝してくれ。」
なんてことを本気顔で言っている。
そんなこんなで叔母たちは帰国することになった。それなりに楽しいイタリアを後にして。