イタリアまで海流に乗って届いたデモテープ…なわけもなく、事実はこうだった。
特殊な金属の材料を運ぶ大型の貿易船が北九州市若松区の洞海湾というところに停泊していて¥暇な時間を使って甲板から釣りをしていた船員の釣り針にひっかかったというのが真相(笑)。
 長い船旅を退屈しているイタリアーノたちには格好の暇つぶしになったようで、本国に着くまで船内放送でガンガン流されたみたい。その船の中に、叔母たちへ連絡をくれた新興レーベルのオーナーとなる人がいて(レーベルを立ち上げるための資金稼ぎに船に乗っていたとのこと)、イタリアに着いてから叔母たちにアクセスしたらしい。叔母曰く
「何百回も聴かされると、つまんない音楽のそれなりに聴こえてくるものなの。」
つまり、叔母たちが放ったデモテープは、数百メートル流されただけでイタリアに渡ったんだ。計画通りにはいかなかったけど、目的は果たしたということかな。
 当時は、メールもなかったため、もっぱらエアーメール(手紙)で連絡をとっていたらしい。だから、話も遅々として進まない。そこで、夏休みを使って3人はイタリアに行くことにした。もちろん、学校には内緒だ。
「聞き分けのない生徒たちを相手にしてもニコニコ笑いながら諭せるくらいに心に余裕が出来たわ。それくらいイタリア行きを楽しみにしていたわ。」
叔母は当時のことを振り返っていつも言う。
 そして、待ちに待った夏休み到来。
 1週間の予定でイタリアへ…半分以上、いやほとんどが旅行気分だったので和気藹々と機内でトランプなんかを楽しんでいた。すると、同じ飛行機に乗っていた外国人が雑誌のようなものを差し出してきてサインしてくれと言う。その雑誌を見た3人は気絶しそうになった。雑誌の表紙は、彼ら3人だったのだ。
 雑誌と思った本は機内誌で、各座席に設置していた。そこに撮影の覚えがないカット…それも、笑わせるためのコスプレのような3枚がデカデカと表紙を飾っていたのだ。
「フライトの間に、50人くらいにサインしたわよ。サインなんかしたこともない3人でね。おもしろかった。でたらめにクネクネ書き殴るだけのサイン会。それより、問題は、何故デビューもしていない私たちの写真が機内誌に載っているか。悪夢なら早く目が覚めてと思ったわよ。目覚めることもなくイタリアに着いたけどね。」
イタリアでは、それ以上のことが待っていたらしいけど。