里穂「くしな ゆきあちゃん、二人にお願いがあるの」

ゆきあ「何?」

里穂「このパンを隣村に届けて欲しいの」

くしな「いいよ、任せて」

里穂「寄り道したり知らない人に付いて行ったら駄目だからね?」

里穂「分かった?」

ゆきあゆ「分かった!」

里穂「よし、じゃあお願いね」

ゆきあゆ「行って来るー」


萌「大丈夫?」

里穂「隣村までそんなに遠くないから」

ちばな「でも、野犬が出るって話だよ」

里穂「そうなの?」

萌「私も聞いた事あるよ」

里穂「き、きっと大丈夫」

ちばな「まぁ、昼間からうろうろしてる話は聞かないからね」


くしな「二人でお使いは初めてだね」

ゆきあ「うん、冒険だね」

くしな「ゆきあちゃん、怖くない?」

ゆきあ「怖くないよ、くしなと二人だもん」

くしな「頑張ったらさ、ご褒美貰えるかな?」

ゆきあ「ゆきあはドーナツが良いな」

くしな「くしなもドーナツ」

ゆきあ「一緒に食べようね」

くしな「うん、楽しみだね」

ゆきあ「あっ…」

くしな「どうしたの?あっ…」

ゆきあ「橋が壊れてるよ」

くしな「大人なら楽に渡れるのに」

ゆきあ「どうしようかな、最初のボスだねこれは」

くしな「何だか、RPGゲームみたいだね」

ゆきあ「ゆきあゆの大冒険だ」

くしな「でも、ジャンプしなきゃ届かないね」

ゆきあ「う、うん…」

くしな「私、先に行くね」

ゆきあ「えっ?ちょ、ちょっと…」

くしな「よっと」ぴょん

くしな「ゆきあちゃんもほら」

ゆきあ「…」

くしな「ゆきあちゃん?」

ゆきあ「怖いよ…」

くしな「思いっ切り飛べば大丈夫だから」

ゆきあ「でも…」

くしな「でも?」

ゆきあ「着地に失敗して転びそうだもん」

くしな「大丈夫、くしながしっかり支えてあげるからね」

ゆきあ「本当?」

くしな「うん、くしなを信じて」

ゆきあ「行く!」

くしな「うん、頑張れ!」

ゆきあ「えいっ!」ぴょん

くしな「よし来た!」がしっ







ゆきあ「と、飛べた…」


くしな「ゆきあちゃん、偉いよ」

ゆきあ「怖かった…」

ゆきあ「ありがとう、くしな」

くしな「どう致しまして」



里穂「遅いな、大丈夫かな…」

萌「いやいや、さっき出たばかりだし」

里穂「そうだけど…」

ちばな「そんなに心配なら行かせなきゃ良かったのに」

里穂「うん…」

萌「あの二人なら大丈夫だって」

ちばな「何だかんだで二人なら上手くやるよ」

里穂「だよね…」


くしな「もうすぐ隣村だね」

ゆきあ「二人で行けばあっという間だ」

くしな「あそこじゃない?」

ゆきあ「ほんとだ、ごめんくださーい」

おばさん「はーい、あら」

おばさん「あゆちゃん ゆきあちゃん、どうしたの?」

くしな「里穂ちゃんからパンを届けるように言われたの」

ゆきあ「二人でお使いに来たの」

おばさん「まぁ、偉いわね」

おばさん「二人とも、ありがとう」

くしな「じゃあ、私達は帰るね」

おばさん「待って、ご褒美あげる」

ゆきあ「わーお菓子だ!」

くしな「いいの?」

おばさん「頑張ったからね」

ゆきあゆ「ありがとう!」

おばさん「気をつけて帰るんだよ」



里穂「遅い…」

萌「あのさ、今くらいに着いた頃だよ?」

里穂「うん…」

ちばな「全速力で往復しないとこんな早く帰れないって」

里穂「だよね…」

萌「迎えに行こうか?」

里穂「それは二人の為にならないから…」

ちばな「頑固だね全く」

里穂「…」


くしな「里穂ちゃん、心配してるかな?」

ゆきあ「早く帰ってあげなきゃ」

くしな「そだね、あれ?わんちゃんだ」

ゆきあ「ほんとだ、大きいね」

犬「がるるる」

くしな「私達は怖くないよ」

ゆきあ「お、怒ってるよ怖い…」

くしな「大丈夫だよ、おいで」

犬「わんわんわん!」

くしな「わっ!」

犬「がるるる」

ゆきあ「くしな!わんちゃん駄目!」

くしな「か、噛まないで…」

犬「がるるる」

ゆきあ「駄目!」どんっ

犬「きゃん」

くしな「こ、怖かった…」

ゆきあ「逃げよう!」

くしな「で、でも」

ゆきあ「いいから逃げるの!」

くしな「う、うん」



ゆきあ「はぁはぁ逃げ切れたね…」

くしな「ね、ねぇ」

ゆきあ「何?」

くしな「ここどこ…?」

ゆきあ「あっ…」

くしな「来た事ない場所だよ、どうしよ…」

ゆきあ「えっとえっと…」



里穂「遅い…」

萌「…」

ちばな「…」

里穂「…」

萌「行くよ」

里穂「どこに…?」

ちばな「探しに行くんだよ」

里穂「うん…私が悪いんだ…」

萌「そんな事ないから行くよ」

ちばな「ほらっ、立って」

里穂「うん」


くしな「…」

ゆきあ「…」

くしな「どうしよ…」

ゆきあ「くしな、ごめん…」

くしな「ゆきあちゃんが悪いわけじゃないよ」

ゆきあ「ゆきあが逃げようって言わなかったら…」

ゆきあ「ゆきあがもっと考えて逃げてたら…」

くしな「…」

ゆきあ「ごめん…」

くしな「私、ゆきあちゃんの良い所いっぱい知ってるよ」

ゆきあ「…」

くしな「ゆきあちゃんはくしなと遊んでくれるし」

くしな「いつもいっぱい一緒に居てくれるし」

くしな「優しくて可愛いもん」

ゆきあ「く、くしなだって…」

ゆきあ「ゆきあの事考えてくれて優しくて可愛くて」

ゆきあ「いっぱいいっぱい一緒に居てくれるもん」

くしな「同じような事言ってるよ?」

ゆきあ「あっ…」

ゆきあゆ「…」

ゆきあゆ「あっははは」

くしな「大丈夫、きっと里穂ちゃん達が助けてくれるよ」

ゆきあ「うん、ここに居たら必ずだね」

くしな「うん、必ずだよ」


里穂「もう、どこ行ったのよ…」

萌「大丈夫、きっと見つかるよ」

ちばな「おーい、二人ともどこに居るの」

犬「…」


くしな「お腹空いたね…」

ゆきあ「うん…」

くしな「そうだ、お菓子があったんだ」

ゆきあ「食べよ食べよ」

くしな「少しずつ食べようよ」

ゆきあ「うん、少し食べただけで違うね」

くしな「美味しいね」

ゆきあ「く、くしなあれ…」

くしな「どうしたの?あっ…」

犬「…」

ゆきあ「きっと、追いかけて来たんだよ…」

くしな「わんちゃん、私達は何にもしないよ」

犬「わんわんわん!」

くしな「ひっ!」

ゆきあ「わんちゃん!」

犬「…」

ゆきあ「私達は動物が大好きだよ」

犬「…」

ゆきあ「でも、もし何にもしてないくしなを噛んだら…」

ゆきあ「幾ら、わんちゃんでも」

ゆきあ「ゆきあは怒るよ!」





犬「…」

くしな「ゆきあちゃん…」

くしな「くしなもゆきあちゃん噛んだら怒るよ!」

ゆきあゆ「本気だよ!」

犬「…」

犬「くぅーん」ペロペロ

くしな「わんちゃん、分かってくれた」

ゆきあ「いい子だね、わんちゃん」

犬「わんわん」

くしな「どうしたの?何か言いたいの?」

犬「わんわん」くいくい

ゆきあ「付いて来いって言ってるのかな?」

犬「わんわん」

くしな「行ってみよう」

ゆきあ「うん」


里穂「居ない…私が…私が悪いんだ…」

萌「諦めないでよ、村人も探してくれてるから」

ちばな「や、野犬だ…」

犬「…」

里穂「わ、私は動物苦手なんだよ」

萌「でも、敵意は感じないよ」

犬「わんわん!」

くしな「もう、わんちゃん走るの早いって」

ゆきあ「もう少しゆっくり走ってくれなきゃ追いつけないよ…」

ゆきあゆ「あっ…」

里穂「くしな、ゆきあちゃん…」

ゆきあゆ「里穂ちゃゃぁぁん」

里穂「良かった無事で本当に良かった…」

ゆきあゆ「ごめんなさぁぁい」

萌「全く、心配させてもう」

ちばな「兎に角、家に帰ろう」

ちばな「お腹空いたでしょう」

ゆきあゆ「うん…」ぐすっ


里穂「何で遅くなったの?」

くしな「うん、実はね」


ちばな「成程ね」

萌「多分、最初から敵意はなかったのかもしれないよ」

里穂「そうなの?」

萌「きっと、お腹空いててお菓子の匂いに釣られたんだと思う」

ちばな「危害を加えると言うより食べ物を奪おうとしたんだね」

里穂「体が大きいから飛びつかれたら怖いもんね」

くしな「わんちゃん、山で食べ物見つかったかな?」

萌「どうだろうね、群れに属してる訳じゃないみたいだから」

萌「難しいかもね」

くしな「里穂ちゃん、飼ったら駄目かな?」

里穂「私は動物苦手なんだって…」

ゆきあ「お願い、二人でちゃんとお世話するから!」

里穂「本当に出来る?」

ゆきあゆ「やる!」

里穂「じゃあ、良いよ」

ゆきあゆ「やったー!」

ちばな「明日、山に探しに行こうよ」

萌「だね、うろうろしてるかもだしね」

里穂「じゃあ、明日に備えて寝るよ」

ゆきあゆ「うん、おやすみなさい」

翌日

里穂「二人とも起きて」

里穂「山に行くんでしょ?」

くしな「うん、わんちゃん探すんだ」

ゆきあ「わんちゃん、大丈夫かな」

きゃんきゃん

ちばな「何?あれって昨日の野犬だ!」

萌「と、止めないと!」

里穂「何て酷い事を…」



おじさん「この馬鹿犬!」

犬「きゃんきゃん!」

くしな「止めてぇぇっ!!!!」

ゆきあ「何でこんな酷い事をするのよ!」

おじさん「皆を困らせる犬だからだ!」

くしな「私達が飼うからやめて!」

おじさん「お前達も昨日酷い目に遭ったんだろ」

ゆきあ「びっくりしただけだよ」

くしな「わんちゃん、ちゃんと分かってくれたもん!」

おじさん「し、しかしだな」

ゆきあ「ゆきあ、そんな事するおじさん嫌い」

くしな「くしなも嫌い」

おじさん「わ、わかったよ…」

ゆきあ「ありがとう、おじさん」

くしな「わんちゃん、大丈夫?」

犬「くぅーん」

ゆきあ「食べ物持って来てあげるから」

くしな「良い子で待っててね」

犬「くぅーん」

ゆきあゆ「わんちゃん、叩いたら駄目だよ!」

おじさん「分かった…」

里穂「食べ物って何あげる気だろ?」

ちばな「それにしても、二人とも凄い迫力だったね」

萌「意外に強いね」


くしな「ほらっ、お肉だよ」

ゆきあ「わんちゃん、食べて」

里穂「ちょっとちょっと、そのお肉は…」

ちばな「お肉くらい気にしないの」

萌「後でまた買いに行こうよ」

里穂「あれは、二人が買い物ちゃんと出来たご褒美に買った」

里穂「特別な高いお肉なのに…」

ちばな&萌「後でお仕置き決定」

里穂(値段で決めるんだ)

ちばな「何てね、冗談だよ」

萌「うん、冗談」

里穂「目が笑ってないよ?」

ちばな「私達もお金出すから」

萌「後で買いに行こうよ」

里穂「仕方ないな」


くしな「凄く美味そうに食べるね」

ゆきあ「よっぽど、お腹空いてたんだね」

犬「わんわん!」ガツガツ


里穂「そりゃ、美味しかろうよ」

ちばな「でも、あれだけ美味そうに食べてくれたら何だか許せるよ」

萌「大変だったんだね、あの子も」


ゆきあ「名前決めなきゃ」

くしな「ごまにしようよ」

ゆきあ「ごま?可愛いね」

くしな「今日から君はごまだよ」

ごま「わんわん!」ペロペロ

ゆきあゆ「くすぐったいよ」


里穂「すっかり懐いてるね」

ちばな「何とかなりそうだ」

その後

くしな「ごま、お散歩行こう」

ゆきあ「それから、お風呂入って一緒に寝ようね」

ごま「わんわん」

里穂「どこへ行くにも」

ちばな「何をするにも」

萌「四六時中一緒に居るね」

里穂「幸せそうで良かったよ」

ちばな「最初はどうなるかと思ってたけど」

萌「お世話するどころか無くてはならない存在だね、ごまは」

ゆきあゆ「行こう、ごま!」

ごま「わんわん」

終わり