チョコを口にほおばりながら歩く。
ちょっと食べるつもりが、ほとんど食べてしまう。
ペットボトルのお茶を飲みながら口を拭う。
途中で沢を渡る。
水は飲めないという表示がある。
足を屈め、水をすくう。
冷たく透明で、きらきらと光っている。

山頂への道は、登り道ばかりではない。
平坦になったり、少し下る場所もある。
頂上が遠くなるようで、早く登り道が始まらないかと思う。
いつも平地から眺める六甲の山塊は、陰影に富んでいる。
その山塊のどのあたりに自分がいるか想像する。
山頂の手前に見えるゴルフ場を通り過ぎてかなり経つ。
山頂は遠くないと想像する。

大声で、遅れる父を呼ぶ男の子がいる。
幼い頃の自分を思い出す。
父を追い越し、いい気分だった。
山頂も次への通過点だった。

山頂まで目と鼻の先にある一軒茶屋に到着する。
高校生の頃の最高到達点である。
ここで好きだった女の子とジュースを飲んだ。
ジュースを買った自動販売機もそのままである。
自動車道路を渡り、少し坂道を登ると山頂である。
山頂の三角点は立派である。
それをちょっと触り、登頂完了。
早速街を見下ろす。
雲間から、遠く大阪の高層ビルに光が射している。
平野いっぱいに拡がる街並みを睥睨する。
人間の営みの集積を誇らしく思う。
同時に後戻りできない息苦しさも少し感じる。
遠くの海が霞んでいる。
おにぎりを食べながら、もうしばらく眺めることにする。
(おわり)