この四半世紀で日本の産業構造は大きく変わった。
製造業で言えば、自動車と並んで盤石であった家電は今や日本のリーディング産業ではないし、情報通信環境の変化は、金融業界、旅行業界、広告業界、新聞・テレビ・ラジオのマスコミ業界に構造転換を迫っている。
にもかかわらず、不思議な事に新卒学生の就職人気企業は四半世紀前とそれほど大きく変化していない。やや翳りが見えるとはいえ、メガバンクはまだ就職人気企業ランキングで上位だし、大手広告代理店もマスコミも相変わらず狭き門だ。
中でもひと際不可解なのが、旅行代理店の就職人気。JTBは毎年文系の就職人気企業ランキング一桁の超人気企業だし、エイチ・アイ・エスもランキング100位には必ず顔を出す。
斜陽とはいえ、メガバンク、大手広告代理店、マスコミの場合、先行きは兎も角、今のところ給与水準も高いし、それなりに人材育成システムがしっかりしていたり、スキルアップや人脈づくりの機会もまだそれなりに期待できそうだから、転職を視野に入れれば、その志望動機も理解できないわけではない。
しかし旅行代理店についていえば、キャリアチェンジのイメージも湧きにくいし、現在の旅行サイト全盛の環境からすると、この先業界が消滅しても不思議とは言えないのに…。と思っていたところに英国の老舗旅行代理店トーマス・クック破綻のニュースが飛び込んできた。これで来年の2021年以降の新卒者就職人気企業ランキングがどうなるか、注視したいと思う。
旅行代理店のツアーコンダクターが人気職業だったのは、大体30年以上前の話だ。当時の人気テレビドラマ『男女7人夏物語』『男女7人秋物語』で主人公を演じた明石家さんま師匠の職業がツアコンだったのをご記憶の方もあるだろう。そう考えればやはり、学生の職業イメージというのは、親の世代の影響を強く受けているように感じる。今の学生の親との距離の近さ(それ自体が別に悪いわけではない)、親世代の晩婚化とも相まって、かなりリアルな産業構造と隔たりのあるものとして、学生の職業観、就活観が形成されているのではなかろうか。そういう仮説が成り立つように私には思える。
もちろん、損得勘定だけで職業を選ぶべきではない。そうではないけれども、主観的な要素にあまりに偏って職業選択をしていくのも如何なものか。「好きを仕事にするのが一番」というご意見もあろうけれど、皆がプロ野球選手とかプロサッカー選手を目指すわけではない。むしろ「何が一番好きかわからない」という人の方が多いのではないかと考えれば、少しは客観的視線を持って、親の呪縛からも逃れて、ファーストキャリアを踏み出すというのも一つの考え方ではなかろうか。そこで初めて自分にとって何が譲れて何が譲れないかも見えてくるものだと思うから。
