あのう、百物語の最初に話したと思いますが、俺と一二三が住んでいるマンション、部屋に「居る」んです。
首をくくった奴らとか、一二三のもとお客様とか、なにか・・・・・・通り路にでもなっているような、そんな気がします。
これは、たまたま自分でよかった、という話です。
明け方、大きい案件が一段落したので今日は休めと、珍しく上機嫌な課長に言われ、休暇届を出して帰宅した時のことです。
とりあえずシャワーを浴びて、汗を流して洗濯機に下着とか、着ていたものを放り込んで、さっぱりしたあとでルームウェアに着替えてベッドに寝転んだら、気絶するように熟睡してしまいました。
目をさますと、もう夕方でした。疲れていたし、仕方がないな、やりたいこともあったんだけどと思いながら、薄暗い部屋をぐるりと見回したんです。
花嫁衣装を着た女がぼんやりと、部屋の隅に立っていました。
え?なんでこんなところにお嫁さん?と寝起きの頭が疑問だらけになっていると、ざざざざざって耳元で衣擦れの音がしたんです。
私を、よろこばせてちょうだいな。
花嫁が、俺に覆い被さり、赤い口しかない顔で、にたりと嗤いました。
そこで気を失い、一二三に揺り動かされ、目が覚めたんです。
なんか、おしろいっぽいにおいがするけど、夜遊びした?
一二三に、珍しいねとも言いたげに訊かれました。
起き上がり、顔でも洗おうと洗面所に行ったら、首筋に、赤い唇の跡がついていました。
よろこばせてちょうだいって、どんな意味かわかって、改めてぞっとした出来事でした。
俺の話はこれで終わりです。