理鶯と左馬刻、ふたりから聞いた話の総括を、俺が任された形になる、ということかな?

個人情報につき、あまり掘り下げては言えないが、左馬刻が物騒な方法でドアを開けて、見つけた二人にはさっきの話どおり、傷が無数にあった。そこから出血していたこと、またシャワーが流れっぱなしになっていたせいで皮膚があたたまり、出血も多くなっていた。

 ひとまず救急車で病院に搬送され、二人が意識を取り戻し、通常に会話できる状態だと医師からの許可を得たうえで、取り調べをすることが決まった。

 俺はヨコハマ署組織犯罪対策部に所属だから、事件や事故とかは微妙に違うが、そいつらの見つかり方があまりにも普通じゃないことと、噛み傷に混ざって静脈注射をしている跡がちらほら見えたせいで、こっちで調べろと上から命令が下ったんだ。

 血液検査や尿検査等の結果から、奴らはやはり化学系ドラッグ、いわゆる危険ドラッグを常用していることがわかった。

 そこで、理鶯が見たものと関連性がうまれる。

 危険ドラッグは、法律に違反していない化学物質や、既存の薬品、自然界に存在するものを掛け合わせて作る方法が、一般的だ。

今回、あの二人が使用していた危険ドラッグには、生物由来の物質が配合されていた。

 

 その生物が、タランチュラだったのさ。

 タランチュラが牙に持っている毒はタランチュラトキシンと呼ばれる壊血性毒物でな、組織破壊や壊疽等を引き起こす。ひどい時は咬まれた部分が、そのまま欠損するほど、毒に侵されることがあるそうだ。

 悪用、という行為はそれら危険なものをもっと、依存性ある、危険な薬物として姿を変えさせる。ずぶずぶと人の精神を破壊して、生活を破壊して、なにもかもを奪っていく。それが薬物だ、手を染めれば最後、戻れなくなる。

 

 あの二人も、ようやく取り調べができるようになり、病室で話を聞くことになったが、まともな受け答えはできないようだった。

 薬をよこせ、子どもを返せ、あたしは悪くない。

 薬をよこせ、俺は悪くない、悪いのは俺らに薬をすすめた奴だ。

 

 言い訳だけは、どんなに頭があれでも一人前みたいだなと毒づいて、お前が病院でこうして生きているのは、左馬刻のおかげだというと、震えあがっていた。

 ああ、あいつはお前が潰した組の下っ端さ。

 左馬刻、って名前が出たとたん、いい子になって話し始めた。

 

 タランチュラ採取を、あいつはいい小遣い稼ぎだと、上から頼まれて積み荷に混ざるタランチュラを採っては、最初は単純にそいつを渡しているだけだった。

 そのうちに、合法ドラッグの実験台にされて、タランチュラで稼いだ金はぜんぶ組の資金になった。まあ、よくある話だろうな。

 

 幻覚でふらふらしながら、内縁の妻である女と関係を持ち、金がなくなれば女に稼がせていた。子どもにも暴力をふるったから、薬物に斡旋に虐待と、まあ落とし穴もいいとこだ。きちんと話せば、考えてやると前置きしたら、すんなり吐き出した。おかげで、ひとつの組織を取り締まることができた。

 

 もうひとつ、気になるのは稲荷神社、狐のほうだ。

 

 女は取り調べ中、しきりに、周囲を気にしてちらちらと見ているんだ。

 どうした、と訊けばこんな質問を俺に向けてきた。

「ねえ刑事さん、病院で、動物なんか飼わないよね?」

 もちろん、と答えると女は「だよねえ」と首をかしげた。

「あたし、部屋もペット禁止だから、飼ってないんだよ。だけど……子どものまわりに、ぴょんぴょん、跳ねてる何かがいたんだって」

「それは、お前が薬物で見た幻覚じゃないのか?」

 違うよ、と女は声を荒らげた。

「ここにもいるんだよ、あたしの周りに、牙をむき出しにした狐が、あたしに噛みつこうと狙っているんだよ!」

 噛みつく、という一言に俺はひっかかった。

「噛み傷は、その狐がつけた……ということか?」

 非科学的な話だが、女は「そうだよ」と答えた。

「あの子を追い出して、あいつと会っていたらいきなり、壁から飛び出してきたんだよ!何匹も何匹も出てきて、あたしと、男に噛みついてきたんだよ!」

 

 左馬刻が話していた、いなりずしを握りしめていた少年。

 少年は本当に、稲荷神社の使いに、守られていたのかもしれない。

 とにかく薬物には手を出さないこと。俺の話は、これで終わりにする。