久々にヨコハマの市営地下鉄に、乗ったときに出くわした「なにか」の話をしよう。
時間はちょうど、日付が変わるころだっただろうか、中王区でのライブを終えて、小官は野営している場所までタクシーか、または徒歩で帰るしかないだろうと、そこそこ混雑していた電車のなかで、ぼんやりと考えていた。
ふと、隣に立っていた女性が「やめて、噛まないで」と呟いた。
疑いをかけられるといけないから、小官は銃兎からアドバイスをもらったように、つり革を両手で掴み、天井を見上げていた。
「だめよ、もうすぐ家でしょう。着いたら、ちゃんとあげますからね」
ずいぶんと、丁寧な口調で、諭すように話している。
「ここは電車で、人がたくさんいるでしょう?」
ね、と女性は自分の、左耳の上、小官の側から見えるほうをそっと触れた。
髪の毛がきゅううっと、そこへ吸い込まれていくのが分かった。
「ああ、食べないで。痛いのよ。べたべたするし、本当に……」
小官の視線に気づいたのか、女性はうつむいて、黙ってしまった。
髪の毛がはらりと、耳をはさんで垂れた間に、べろりと赤い舌がのぞいた。
ごめんなさいねえ、この子、とてもおなかがすいているんです。
女性は小官に告げると、下車していった。
日付が変わるころは、日本ではいろいろなものが、うごめくのだろうか?
小官の話は、これで終わりだ。