今までのあらすじはこちらをクリック
5年生の春休み、あゆは母と2人で空港にいた。
「じゃあね、あゆちゃん。何か分からなかったらお姉さんに聞くんよ」
「うん」
そう頷くとあゆは、1人ゲートをくぐり小型飛行機に乗ろうとしていた。
自分の声が聞こえないほど飛行機の音が大きく響いた。
ワクワクした気持ちで飛行機の中に乗り込んだ。
母からも何度も聞かされたし、紙にもちゃんと書いてあるから大丈夫。
まずは、飛行機に乗って金沢に着いたらそこから、空港にいるお姉さんに案内してもらってバスに乗る。
駅についたら降りて、そこからタクシー乗り場に行き、運転手さんに紙を見せて、ここに行って下さいと言うだけでいい。
あゆには、難しいことではなかった。
これだけで遠くまで行けるんだ。
あゆの胸には、
[ちびっ子一人旅]という名札がつけられていた。
4年生の時にも一度、子供だけで参加するディズニーランドへ行ったことがあった。
1人でどこかへ行くことは、あゆにとってとても楽しいことだった。
行った先では必ず新しい友達ができるからだ。
話せない自分を知らない場所に行って友達を作れることが嬉しかった。
今回は、金沢で塾を開いている先生の合宿に参加することになった。
そこには、小学校1年生から大学生までの子供たちが10人くらい集まっていた。
そこにあゆと同い年のみっちゃんという女の子がいた。
あゆは、すぐにみっちゃんとうちとけて仲良くなった。
朝は、先生が作ってくれたモーニングに美味しい紅茶。
あゆは、生まれて初めてこんなに美味しい飲み物があることを知った。
午前中は、勉強の時間があった。
出されたプリントをやったり、学校から出た宿題をやったりしていた。
勉強が好きではなかったあゆは、適当にプリントに書き込んでいた。
だけど先生には怒られなくて、適当に勉強していてもいいことに安心した。
お昼ご飯を食べるとその後は自由休憩だ。
お昼からの時間が大好きだった。
合宿に来ていた一番年上の大学生のお姉さんがいた。
ウォークマンで音楽を聞いていて、あゆとみっちゃんが
「何の曲を聞いてるの?」
と聞いてみた。
「オーケストラだよ」
そう言って、あゆとみっちゃんにイヤホンを渡して聞かせてくれた。
それ以来、お姉さんのあだ名はオーケストラさんになった。
2人は、オーケストラさんにふざけて甘えたり、飛びついたり、からかったりした。
それでもオーケストラさんは、優しく笑顔で受け止めてくれた。
あゆは、オーケストラさんとみっちゃんと話すことが嬉しかった。
楽しかった。
非日常な世界で大好きな友達と大好きなお姉さんと優しい先生と他の参加者の人たちと、あゆは、本当の自分を出し、
人と関われる幸せを
人と笑いあえる幸せを
そして人と話すことができる幸せを
心から感じていた。

