本当は、何も起きずに始まって、何も起きずに終わると思っていた。
いや、思いたかっただけなのかもしれない。
月組『GUYS AND DOLLS』。配役が出たときから楽しみにしていた。「ハイソサエティの女」なんて、もう、白河りりにぴったりじゃないかと、膝を打った。いや、打ってないけど、そのくらいの気持ちではあった。
で、先日のお知らせ。
「白河りり、怪我のため全日程休演」
ああ……と思った。いや、もっと言うと、ため息すら出なかった。ただ、情報としてすとんと胸の奥に落ちて、そこからじわじわと「残念」と「心配」が溶け出してくる感じ。
「りりちゃんの“あの感じ”でやるハイソサエティの女が見たかった」という気持ちは、未練として確実にある。でも、それと同じくらい「今、ちゃんと身体を休めてほしい」という気持ちもある。怪我で休演するという事実に、本人がどれだけ無念を抱えているかを考えると、こちらはもう、観客として静かに受け止めるしかない。
代役はすでに発表されている。
実力も華もある娘役さんだ。間違いなく素晴らしい舞台になる。きっとまた違うアプローチの「高慢で華やかで余裕のある女」が出てくる。楽しみはある。でも、だからといって、りりちゃんで観たかったという気持ちがゼロになるわけじゃない。観劇ってそういうものだ。期待と現実のどちらかを選ぶんじゃなくて、その間にできた空白ごと、味わうものなんだと思う。
舞台に立てなかった白河りりさんにも、そして急遽その穴を埋めることになった代役の方にも、それぞれに拍手を送りたい。スポットライトは、たった一方向からしか照らされないけれど、その裏には無数の努力と、静かな決意がある。
今日もどこかで、誰かが照明の下に立ち、
そして誰かが、舞台袖でその明かりを見つめている。
