今年の執筆論文は4本。

 奈良大学紀要に書いたのは、初期寺院と高市大寺に続いて、国家寺院の整理について検討したもの。この時代になると遺跡だけの検討ではなく、僧尼令や官寺制や経典など、史料の検討も必要である。そこで史料の検討と考古学的検討を行った。結論的には、天武朝に国家寺院の誕生があり、百済大寺から天武9年までは、天皇の私的な寺「天皇の寺」の段階を設けた。この国家寺院が変貌するのは、聖武朝の大仏や国分寺創建の時と理解した。

 一方、条里制・古代都市研究に書いたのは、狂心渠のルートを復元である。これまで不明であった大官大寺周辺と、藤原から天理までの経路を検討。天理の豊田山からは、布留川北北流を下り、下ツ道の側溝運河を遡り、米川・中の川と推定。狂心渠の実態は、下ツ道の側溝を運河規模に拡幅することと考えた。

 由良研究紀要は、山田研究の共同研究者として参加した烽に関するもの。特に、飛鳥地域の烽は、律令期烽とは、異なることを指摘し、「ヒフリ」地名による伝達網を復元した。これについては、今年から来年にかけて、王寺町での実験をすることができ、再考するところも見えてきた。

 淡海文化財論叢には近江京の住民の居住形態について検討したもの。史料から推測すると、近江京には多くの官人がいたはずである。しかし、発掘調査では、それ以前の渡来系集落が、近江遷都とともに撤去され、一部に正方位の溝も見られるが、宅地になった形跡がみられない。これをどう考えるか? 唯一、遺構がありそうなのは浜大津ではあるが、今後の調査が期待される。ということで、今回はあくまでも覚書であ。

 

 この他に、今年は高松塚古墳壁画発見50年でもあり、高松塚壁画館の図録の改訂版を依頼されて作成した。これまで、壁画館の図録は4冊刊行されているが、このうち私は3冊担当。さすがに、もうないだろう。同様に、古都飛鳥保存財団で壁画発見50周年の紙上座談会や、文化協会会誌に高松塚の裏話を書く。

 『ならら』は、今年も2ヶ月に一回連載を継続している。今回は、聖徳太子・高松塚・狂心渠・牽牛子塚・壬申の乱・苑池について。飛鳥遊訪マガジンは、発掘調査に合わせた旬が多いが、今年は壬申の乱1350年なので、サボっていたが、10回連載を開始。来年は、連載を滞らないように、がんばろう。

 

(論文)

・「国家寺院の誕生と展開」『奈良大学紀要 第50号』奈良大学 2月
・「古代大和の舟運利用の実態-斉明朝の『狂心渠』を中心に-」

 『条里制・古代都市研究 第37号』条里制・古代都市研究会 3月
・「史料からみる古代律令期の烽」「飛鳥烽群の再検討」
 『研究紀要 第26号』由良大和古代文化研究協会 7月
・「近江京における都市住民の存在形態(覚書)」
 『淡海文化財論叢 第十四輯』淡海文化財論叢刊行会 10月

(図録)
・『高松塚古墳壁画の世界-高松塚壁画館案内-』古都飛鳥保存財団 高松塚壁画館 3月
 

(その他)
・「重見泰著『日本古代都城の形成と王権』」『古代文化 第73巻第4号』古代学協会 3月
・「高松塚古墳壁画発見50周年記念 紙上座談会」『飛鳥びと 2022年春から夏へ No.14』古都飛鳥保存財団 3月
・「飛鳥京跡苑池からみる古代庭園の継承と変革」『近畿文化 第873号』近畿文化会 8月
・「高松塚古墳回顧-『飛鳥美人』の未来-」『明日香 明日香村文化協会会誌 第44号』明日香村文化協会 8月

 

・「奈良大学考古学講座 飛鳥の遺跡を学ぶ⑨聖徳太子(厩戸皇子)の実像」

 『月刊大和路 ならら280号』なら文化交流機構 1月
・「奈良大学考古学講座 飛鳥の遺跡を学ぶ⑩『飛鳥美人』が語るもの」
 『月刊大和路 ならら282号』なら文化交流機構 3月
・「奈良大学考古学講座 飛鳥の遺跡を学ぶ⑪斉明の造った壮大な運河『狂心渠』」
 『月刊大和路 ならら284号』なら文化交流機構 5月
・「奈良大学考古学講座 飛鳥の遺跡を学ぶ⑫あさがおが咲く丘に、女帝の陵が蘇る」
 『月刊大和路 ならら286号』なら文化交流機構 7月
・「奈良大学考古学講座 飛鳥の遺跡を学ぶ⑬天武は『壬申の乱』から何を学んだか?」
 『月刊大和路 ならら288号』なら文化交流機構 9月
・「奈良大学考古学講座 飛鳥の遺跡を学ぶ⑭古代庭園史からみる飛鳥京跡苑池」
 『月刊大和路 ならら290号』なら文化交流機構 11月


・「飛鳥・藤原の考古学 石組方形池は「池」なのか-清水谷遺跡 第2・3次の調査から-」

 『飛鳥遊訪マガジン Vol.389』両槻会 1月14日
・「『飛鳥・藤原の考古学』は壬申の乱へ-飛鳥遊歩マガジン創刊400号記念-」
 『飛鳥遊訪マガジン Vol.400』両槻会 6月17日
・「飛鳥・藤原の考古学 大極殿の後殿を考える-藤原宮大極殿院(飛鳥藤原第210次)の調査から-」
 『飛鳥遊訪マガジン Vol.404』両槻会 8月12日
・「飛鳥・藤原の考古学 飛鳥宮内郭北方官衙の性格-飛鳥宮内郭北辺の調査(第189次)の調査から-」
 『飛鳥遊訪マガジン Vol.410』両槻会 11月18日
・「飛鳥・藤原の考古学 壬申の乱の意味するもの①-天智・天武の政策と『壬申の乱』-」

 『飛鳥遊訪マガジン Vol.412』両槻会 12月16日