「飛鳥古京から明日香へ-飛鳥地域における歴史的風土の形成過程-」
『明日香村文化財調査研究紀要 第6』(2007年)
明日香村教育委員会

 現在の水田・里山の広がる風景、つまり歴史的風土の形成過程を遺跡及び文献史料を基に、その変遷を跡づけた論考である。
 7世紀の飛鳥時代は、発掘調査によってその景観が徐々に解明されてきた。しかし、都が飛鳥を去った後、現在の景観になるまで、どのような変遷と画期があったのであろうか。これを個々の遺跡の調査により、遺構からわかる変遷と、史料による個々の遺跡の動向を検討した。その結果、藤原京遷都以降の古代を4期、中世を3期、近世を1期に細分した。
 飛鳥の景観が大きく変化した時期はいくつかある。まず、平城京遷都によって宮殿官衙が一部を除いて遷っていった。しかし、まだ、各寺院はその伽藍を大きく聳えていた。この寺院景観が変化するのは、平安末から鎌倉始めの伽藍の焼失である。これによって、古代の景観は完全に失われることになる。その後、寺院は復興するものと、規模の縮小していくものに分かれる。そして、現在の集落の位置が固定化されるのは、鎌倉から室町時代である。この集落の固定によって、現在の景観の骨格ができあがっていった。このような1200年の景観変遷が、「歴史的風土」であると位置づけた。