「これほど短期間で身体機能が衰え新型コロナウイルス感染拡大の影響で、在宅の要介護者を一時的に預かるデイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所)が休業したり、利用者が通所を控えたりして、これまで通りの介護やリハビリを受けられず、要介護者の状態の悪化や家族の負担増が懸念されている。名古屋市など一時、休業要請の出た自治体では施設の職員が自宅を訪問したり、電話をかけたりしたが、今も手探りで、経営は厳しさを増している。 るとは…」
 三重県内で義母(83)を在宅介護する女性(59)は、デイサービスに行けなくなった義母が三週間で自立歩行ができなくなった姿に、やるせない気持ちでいる。
 義母は要介護3。同じ施設で週五日のデイサービスと月一回のショートステイを利用してきたが、四月中旬、ショートステイを利用中に三七・五度の発熱があり、引き取りを求められた。風邪と診断され、熱は下がったが、せきが続き施設から利用を断られたという。
 デイサービスで体操などをすることで、筋力を維持してきたが、今は車いすの生活に。オムツも使い始め、自宅には歩行を支える手すりも設置した。せきのなくなった五月中旬から施設に通えるようになったが、「どんどん、衰えていく義母を見ているのがつらかった」。
 一方、石川県の女性(65)は施設での感染を恐れ、同居する要介護1の義母(95)が週二回利用していたデイサービスを三月中旬から休ませている。夫(71)と三人暮らしで、「誰かが感染したら、共倒れ。外出しないようにするしかない」。
 ただ、義母はデイサービスの前の晩に洋服を用意するなどして曜日の感覚を保っていた。最近は「今日は何曜日」と聞くように。電気ポットのボタンが分からなくなり、睡眠薬を昼に飲んで倒れたこともあった。
 食事は女性が細かく刻んだり、とろみをつけたりする必要がある。週二回のデイサービスの日は昼食を作らずに済んだが、今は三食全てを準備。また、義母が先月、夜中にトイレの際に転倒し、以降夫が隣の居間で寝る。「ストレスがたまるが、我慢するしかない」
 共働きで、小学生から大学生まで三人の子どもがいる北陸地方の女性(44)は近所で一人暮らしをする義母(79)を「家族総動員で」介護する。要支援2の義母は週一回デイサービスに通っていたが、三月から施設の呼び掛けで、約二カ月間利用を自粛。生きがいのコーラスサークルも休止で、以降もの忘れがひどくなった。テレビ会議で他県の親族らと顔を見て話してもらい、女性の子どもたちも日々の食事作りを手伝う。
 厚生労働省の調査では、四月二十日現在、自治体の要請や事業所の判断などで通所施設を中心に、全国で八百五十八の事業所が休業。全体の1%ほどだが、在宅介護に詳しい東洋大の高野龍昭准教授(56)は「休業はしていなくても一日の定員を減らしたり、サービスを絞ったりして多くの事業者が業務を縮小しているのが実態」と話す。
 淑徳大の結城康博教授(50)が五月に全国のケアマネジャーら約五百人に行ったインターネット調査では六割以上が、デイサービスなどの利用控えなどで利用者に心身の機能低下があると指摘した。
 自由記述では「社会から離れ、うつ状態」「転倒して自力歩行が困難」などと本人の症状悪化が顕著に。一方、「ストレスから虐待も増えている」「認知症の人が外に出られず、暴言を吐き、家族も疲弊」などと、介護者の切実な現状を訴える声もあった。
 原宿リハビリテーション病院名誉院長の林泰史さん(80)によると、高齢者が全く運動をせず安静にしていると筋力は三週間で半分ほどに衰え、戻すには三〜五倍の時間がかかるという。林さんは「社会との交流が減り、高齢者が生きる気力も失ってしまうことが心配。デイサービスなどを休んでいる場合は一日二十〜三十分は散歩して筋力維持を」と呼び掛ける。