中高年になると、地味目ファッションになりがちな日本女性。ですが、年相応なんて気にせず、生涯好きなものを着たら楽しいですよね。
私の母は若い時からカッコイイ系のファッションが大好きで、出掛ける時はパンツスーツやジャケットなどワーキングウーマン風のルックスが特徴的でした。
そんな彼女も御年70歳。さすがにスーツを着ることは少なくなってきましたが、クールなイメージの服装を変える気はないらしいのです。
あえて淡い色味ではなく黒やグレーなどを基調とした服を選んでいる模様。特によく目にしていたのが、黒いTシャツやカットソー。これにグレーのスキニージーンズを合わせるのが定番のようでした。
◆年々派手になる母親の服装
しかしながら、黒やグレーで無地というのもつまらないと感じたらしい母。徐々にその服にはキラキラしたスパンコールや英字のプリント、スカルのイラストなどが目立つように。実家に帰るたびに派手になっていく母に、娘としてつい口を出してしまいました。
「お母さん、だんだんクールというかパンクに近くなってきたね……」
「そう? でも、年寄りが大人しい服装をしてても面白味ないでしょ?」
「まあ、そうかもしれんけど……」
ちなみに、その日の母のジーンズにはポケットの付近にスタッズが付いていました。これに髪型はショートカットのオールバックでルージュが真紅。気が付くと母は好きな音楽が演歌だとは到底思えないビジュアルになっていました。
◆友人をつれて帰省することに
そしてとある夏の日。私は友人数名を連れて、埼玉にある実家に帰ることにしました。母にそれを伝えたところ、大張り切りでご馳走をたくさん作ると宣言。ビールは1ケース買った、焼酎と日本酒も一升瓶を用意したなど、過剰なくらいの用意をしてくれていたようです。
マンションの廊下にも、料理の美味しそうな匂いが流れてきて友人たちも期待を高めていました。
「ただいま~友達連れてきたよ~」
「いらっしゃい! どうぞ、上がって!」
玄関の扉を開けてにこやかにそう言った母。しかし、彼女の着ている黒いTシャツの胸元にはデカデカと銀色のスパンコールでこう書かれていました。
◆笑いをこらえる友人たち
「KILL YOU」
私の後ろに控えていた友人たちが、そのTシャツを見てゴクリと生唾を飲んだのがわかりました。娘の友人を出迎えるタイミングでギラギラと輝く「KILL YOU(ぶっ殺す)」。しかし、その空気に全く気付いていない母に、その場でツッコむことは出来ませんでした。
「えっ……あんたのお母さん、山姥なん?」
「ご馳走食べさせて太らせて……とか?」
「つーか、あの満面の笑みで『KILL YOU』て……」
みんな笑いをこらえながら、母のもてなしを受けていました。料理は美味しく、お酒も飲み放題状態の大宴会。帰り際まで母のTシャツが絶えず話題に上がっていました。
当の母はその後も「KILL YOU」Tシャツをしばらく愛用。今はボロボロになってきたのでパジャマとして使っているようです。私は酔っ払って実家に泊まることがあるのですが、深夜に暗い玄関先に現れる「KILL YOU」には、たまに戦慄を覚えます。
この話は「KILL YOU母ちゃん」として、いまだに友人たちの中でネタにされ続けております。