国内には約7万7000の寺院があるといわれるが、なかでも“日本一危険”と評されるお寺がある。鳥取県のほぼ中央、三朝町にある『三佛寺投入堂』だ。
どうやってここに建てたのかは今も謎のまま
この投入堂は三佛寺の奥院で、建っている場所は切り立った崖の窪み。706年、修験道の開祖として知られる役小角(えんのおづぬ)が法力の力で仏堂を投げ入れた伝えられている。
近年の科学的調査により平安後期の建築物とされているが、「なぜこんな場所に?」と思わず首を傾げたくなる。現在と違って重機のない時代にどうやって建てたのか、その工法については今も謎のままだ。
しかも、参拝するには高低差160メートル、距離にして700メートルも山道を登らなければ拝むことすらできない。この登山道が曲者で、道とは名ばかりの険しさで過去には滑落による死亡事故も起きている。
調べたところ、2003年以降に投入堂へ向かう途中で亡くなった人は少なくとも5人。参拝途中で命を落とすほどの危険のある寺社なんて聞いたことがないが、どうやら“日本一危険なお寺”というは単なる誇張ではないようだ。
だが、逆にそれで興味が湧いてしまった。ちょうど別件の取材で山陰を訪れる機会があったので、そのついでに投入堂に行ってみることにした。

倉吉駅前のバス乗り場の注意書き
滑落の危険があることを考えれば当然の措置とはいえ、1人で来ていたので正直困った。どうしようかと悩んでいたところ、ちょうど同じバスで投入堂に向かう男性がいたのでお願いして同行させてもらうことに。
靴底チェックでOKがもらえないと参拝登山は不可

三佛寺の本堂。投入堂への登山道はこの先にある
なお、このとき受け付けで靴底のチェックが行われる。滑りやすい凹凸のない靴での入山はできず、かといってスパイクなどの金具が付いている靴も神聖な山を傷つけるとしてNGなのだ。
実際、わらじを履いて登ったという松江から来た20代の女性は、「全然滑らないし、思ったほど履き心地も悪くないないですよ」と絶賛。お土産として持ち帰ることができるため、あえてわらじを選ぶ人も多いそうだ。
参拝登山道の入口。ここにも注意書きが
投入堂に参拝する場合、受け付けで名前と入山時間を記入。私は着用が必須だった軍手を忘れてしまったのでここで購入。最後に参拝に必要な『六根清浄』と書かれたタスキ状の輪袈裟(※要返却)を受け取り、いよいよ登山道へ。
投入堂まで辿り着くも下山中に負傷!
登山道には落石の危険も
最初こそ朱色の立派な橋が架かっているが、そこから先はひたすら獣道のような険しい道が続く。斜面も急で、岩場や木の枝や根っこを掴まないと登れない箇所ばかりだ。所要時間は往復で1時間半~2時間なのでまだ耐えられるが、富士山や北アルプスよりもしんどい。ここは雨が降ったら入山禁止になるのだが、その意味がよくわかった。

投入堂登山道の難所くさり坂。もはや道ではない
なかでも一番キツかったのは、最大の難所のくさり坂。ほぼ壁に近い状態の岩場が10メートルほど続いており、鎖を掴んでよじ登らなければならない。そのため、腕力に加えて踏ん張る足腰の力も必要で、ここで断念する年配の方が何人もいた。

くさり坂の上にある文殊堂。まさに天空のお堂
そんなくさり坂の上にある文殊堂は休憩スポットになっており、しかも縁側からの景色は絶景。ちょうど崖の上にお堂があるので転落したら命にかかわるだろうし、高所恐怖症の方にはオススメできないが、辛い思いをして登ってきた価値があったというものだ。
地蔵堂。こちらも絶景だ
文殊堂の先には大きな鐘がある鐘楼堂、もう1つの絶景スポットになっている地蔵堂がそれぞれあり、ここを過ぎると5分ほどでようやく投入堂に到着。

下山中も一瞬も気が抜けない
ところが、無事辿り着くことができて油断してしまったのか、下山中にうっかり足を滑らせてしまい、右ヒザを岩場に強打して流血。幸い大事には至らなかったが、勾配が急なだけに登るときよりも下山時のほうが危険かもしれない。
まさに身をもって日本一危険であることを体験したわけだが、途中のお堂からの景色は素晴らしいし、登るだけの価値はある。その代償として、3日間の筋肉痛と1週間の右ひざ痛を負ってしまったけど……。