地下アイドルとファンの距離感は意外と近い。週に何回もライブやイベントの現場があり、いっしょにチェキを撮るなどすれば、密に接することができる。
 
 アイドルといえど、ひとりの人間だ。頻繁に会い、応援してくれるファンに対して情が生まれないとは言い切れない。その結果、アイドルとファンが“繋がり”、交際に発展することだってあるのだ。
ステージの上で輝いて見えるアイドル。遠い存在に思えるが、ファンと繋がり、真剣交際に発展することだってある。果たして、その顛末とは……

私はこうしてファンと繋がった
 実際にファンと付き合った経験のあるサエコさん(27歳・仮名)がこう話す。
「もう3~4年前の話ですが、当時加入していたアイドルユニットのファンとお付き合いしていました。じつは、付き合うキッカケというか、そもそも繋がったキッカケ自体を私が作ったんです(苦笑)」
 
 “繋がる”というのは、アイドルとファンが個人的に連絡が取れる状況になることだ。本来アイドルとファンはTwitterやブログを通さなければコンタクトが取れない。彼女はどんな方法でいちファンと繋がったのだろうか?
 
「比較的ゆるい運営だったんで、ファンレターの内容確認とかがなかったんです。何回かファンレターをもらって、返事をマメに返してたんです。6回目ぐらいの手紙で普通にLINEのIDが書いてあったんで、私から連絡しました。彼は8歳上で身長170cmぐらいの中肉中背。
 
 別にタイプでもなんでもなかったけど、私、本当にファンが少なくて……。だから、純粋にファンとして応援してくれたらなって。彼は基本的には箱推し(※ユニット全員を応援すること)でしたが、他のメンバーの太客でもあったんですよ。それで、この人が私に“推し変”して欲しいなって」
 
 小柄で童顔。10代にしか見えないサエコさんにファンがいなかったというのはにわかに信じがたい事実だが、メンバー内では1番推しが少なかったという。推しの少ないアイドルが肩身の狭い思いをするのは、イベント終了後などに行われる物販のときだ。
 
「私のファンは2~3人。それもたまにライブに来るくらいでチェキもあんまり撮ってくれないから、物販の時間が地獄でした。他の子には
何人もファンが並んでいるのに、私の前にはだれもいない。もはや、利益のバックとかお金の問題じゃなく、もうあの時間が耐えられなくて。
 だから彼にどストレートに『私にはファンがいないから、私を応援して欲しい』ってお願いしました。彼の推していたAちゃんは人気メンバーで、ファンが1人いなくなっても問題ないけど、私にはアナタが必要だよって」
 
ファンと裏でつながり、気づけばファンも増え…
 最初は躊躇していたものの、頻繁にLINEしたり、プライベートでご飯に行ったりするようになった。その頻度が増えるにつれ、彼の気持ちにも変化があったという。
 
「ステージでしか見れない推しより、プライベートで会える干されメンの私が良く見えたのかな(笑)。結局、私に推しを変えてくれました。Aちゃんにも『サエコに推し変する』ってハッキリ言ってくれました。もちろん、裏で繋がってたことも推し変を頼んだことも言わずに。我ながらセコいなぁ~とは思いましたけど、私も私で必死だったんです」
 
 物販の際、彼がサエコさんの列に並ぶようになってから、不思議とファンが増えていった。
 
「物販の列が過疎ってる子を“助けてあげたい”とか“かわいそうだなぁ~”と並ぶヲタもいれば、多少ファンがいる子の方が良いって人もいるんですよね。しかも彼はヲタ友達が多かったんで、対バンのときは他ユニットのヲタさんが彼と話すついでに、私とチェキを撮るよう促してくれました。あとは、ワンマンライブの個人ノルマにもかなり貢献してくれました」
 
 ライブには毎回訪れ、チェキを何十枚と撮る。プライベートでも高級な焼肉屋に連れて行ってくれたり、薄給な地下アイドルが手を出しにくいブランド物やデパートコスメをプレゼントしてくれたりもした。

真剣交際に発展、しかし…
 当初はいちファンとして見ていたが、アイドルとしてのサポートも、私生活のサポートもしてくれる彼にだんだん惹かれていく。
 
「情が生まれてきたんですかね。公私ともに支えてもらって、気がついたら好きになってました。タイプじゃないし、元々ただのヲタだし……って、自分でも認めたくなかったんですけどね。私から告白して付き合うようになりました」
 
 自分の気持ちに気がついたサエコさんから告白し、2人はただの繋がりから恋人同士となる。
 
「付き合うようになっても現場には来てくれたし……プライベートで会ったときにキスとかするようになったぐらいで、特に大きな変化はなかったかな。でも、むしろ私が彼にゾッコンになっちゃったんです。彼のサポートのおかげもあって、ユニット内で人気も出てきたけど、アイドルとして自分の限界は感じていたし、他にやれる仕事もやりたいこともないから、だんだん彼と結婚したいなって思うようになったんです。
 それでユニットを脱退して、芸能界から引退しました。それからはトントン拍子で彼の家に押し掛けて同棲をスタートしました。バイトも始めて毎日御飯作ったり、お風呂洗ったり、刺激はないけど結構楽しかったです」

いきなり「別れてください」と手紙が
 だが、幸せな時間がこのまま続くと信じていたサエコさんに、突然不幸が訪れる。
 
「付き合って半年ぐらい経った頃、バイトから帰ったら、『別れてください。2週間以内に出ていってください。ごめんなさい』と書かれた手紙と、10万円が置いてありました。LINEは既読にならず、電話は留守電のまま。10日間待ちましたが、諦めて実家に帰りました」
 
 なぜいきなりこんなことになってしまったのだろうか。自問自答していたサエコさんに彼の元推しメンから連絡がきた。
 
「私が脱退したタイミングで、彼にもヲタ活卒業してもらってたんです。でも、実は私に隠れて、現場に行っていたみたいなんです。まわりには、絶対私に言わないでって口止めして。しかも、Aに対して、私から彼と繋がったこと、推し変を頼んだことも全て暴露したみたいなんです。『サエコに頼まれて断れなかったけど、やっぱりAの応援がしたい』って。Aからは『あんた、裏でセコいことやってたんだね』とか散々言われて、脱退したとはいえ気まずかったですね」
 
 こうしてキッパリ彼を諦めたサエコさん。
 
「結局、私と一緒にいるより、Aのヲタでいる方が楽しかったみたいですね。私は真剣に将来を考えていましたが、彼は普通の幸せよりもヲタ活する時間が大切だったみたいです」
 
 そう言ってサエコさんは力なく笑った。アイドルとファンの恋にこんな切ない顛末があるとは――。