「真面目に働いていたはずなのに、悲惨な老後が待っていた」。これが今の日本の現実なのだ。普通の勤め人として中流以上の生活を送ってきたのに、彼らはなぜ生活苦に陥ったのか?
ホームレス…50代で会社が倒産。心臓病を患い、貯金も底を突く
厚生労働省による「ホームレスの実態に関する全国調査」(2018年1月実施)によれば、全国の300市区町村で4977人のホームレスが確認され、前年度と比べて557人の減少が見られたという。しかし、巡回による目視調査で得られたこの数値がどこまで正しいのか確かめる術はない。
ブルーシートで作られた路上生活者たちの仮住まいが点在している近くの公園、木陰で休む仙田勇人さん(仮名)に会った。自称では100歳を超えているという。地方出身で20代の頃上京したが、50代で勤めていた会社が倒産。折しも心臓病を患ったために1000万円ほどの貯蓄を取り崩しながらの生活が始まり、「普通の老後」は失われた。
生活保護を受けていた時期もあったが、10年ほど前から路上生活を始め、場所を転々としながら2年前にここへやってきた。大量のビニール袋と毛布が家財道具のすべてだ。
危険と隣り合わせの路上生活で“正気”を保ち続けるのは不可能
話を聞いている最中、公園を巡回しているボランティアが惣菜や弁当の差し入れを淡々と手渡していく。これが、仙田さんの唯一のライフライン。屋外での生活は、孤独よりも不安が先立つという。
「このあたりは外国人の観光客も多いから、たまに悪いヤツもいる。この前、俺の全財産が夜中にかっぱらわれたんだ。寂しいというよりは、怖いよ」
それでも、生活保護は受けないと言う。仙田さんなりの矜持があり、かつての夢は「世界制覇」だという。このあたりから、仙田さんの話は徐々におかしくなっていく。
「KGBとも仕事をしたし、国定忠治は実は俺だよ」
「国内でも、海外でも、いろいろなところで戦ってきたから。由井正雪と知り合いだったし、蒙古襲来のときはすごかった。KGBとも仕事をしたし、毛沢東の息子が白髭橋の手前で事故に遭って脳みそが飛び出したのを助けたこともあったな。脳みそは白子みたいなんだよ。それから、国定忠治は、実は俺だよ。処刑されたのが偽物なんだ」
仙田さんは理路整然と語り、目つきは真剣そのものだった。
「あのな、そこらじゅうに『バケモノ』がいて、壁や木の中に人を吸い込んでそいつと入れ替わっちゃうんだ。俺の実家も全員殺された。兄ちゃんも気をつけろよ」
もはや、仙田さんが話した半生が事実かどうかもわからなくなってきた。しかし、狂気のギリギリ一歩手前で仙田さんを現実と正気に繫ぎ留めているのは、路上生活の「不安」そのものなのかもしれない。