商品が消えた瞬間、体に緊張が走る-。「何を、いくつ、どこに入れたか」。万引犯が店を出るまで、一瞬たりとも目が離せない。福井県内の警備会社に勤める万引Gメン歴18年の男性(64)と12年の女性(43)は、例えばスーパーでは、かごを持ち私服姿で買い物客に紛れながら目を光らせる。

 2月下旬のある日、午前10時の福井市内の量販店。女性Gメンは客とすれ違う瞬間、買い物かごの中身を横目で確認した。時には商品棚の陰に潜んで様子をうかがう。かごに入った商品の種類や置き方などを覚え、かばんが開いたままの客がいれば動向を観察していた。

 2人によると、万引犯を見つけ取り押さえるには、並々ならぬ集中力が必要だという。商品をかばんや服の中に隠したのを確認すれば、そこからは一度たりとも目を離さない。トイレにも行かずに1、2時間尾行することもある。相手に気取られないよう細心の注意を払いながら、盗んだ商品、数、場所、時間などをメモしていく。

 誤認を防ぐため、取り押さえるのは「100パーセントの確信があるとき」だけ。精算せずに店外に出たとき、初めて万引犯に声を掛ける。ほとんどが素直に応じるが、中には暴れ出す場合もある。2人とも腕や太ももをかまれた経験があるという。強引に取り押さえず、「暴れないで」とひたすら相手が落ち着くのを待つ。

 万引を見抜くポイントは、一瞬の「違和感」。普通に歩いているようでも、急に視線を泳がせたり、物陰に立ちすくんだりするなど怪しい動作を見せることがある。長年の経験から、すれ違うだけで「もしかしてこの人…」と勘が働くことも。特に犯行が多いのは昼食前と夕食前だが、従業員が休憩に入る午後1~2時を狙った犯行もあり、「いつ発生するか分からない」と気は休まらない。

 目を疑うような手口も見てきた。ふんわりとしたスカートの女性が、スパッツと足の間にパンや刺し身など10点以上の食料品を隠していたり、家電量販店で液晶テレビを店外まで堂々と引きずって出たり。「万引は1回成功すると必ず何度もする。量も金額も増え、手口も大胆になる」という。「死んでやる」「呪ってやる」と罵声を浴びることや、病気を理由に許しを請われたこともある。

 2人は月に数人、今までにそれぞれ千人近くの万引犯を取り押さえてきた。「一番の目的は店の被害防止。でも、捕まえるのは本人のためでもある」と男性Gメン。過去に捕まえた女子高生と偶然会ったことがあった。「あの時はありがとう。私あれで目が覚めて」と声を掛けられた。万引に二度と手を染めなくなったのだという。「それが一番のやりがい」と、男性Gメンは少し表情を崩した。

 【万引Gメン】一般客に紛れ、万引がないか監視する私服保安員。取材した福井県内の警備会社では、警備員になるための30時間以上の講習に加え、保安員になるために3カ月の講習と現場研修を受ける。「Gメン」は、米連邦捜査局(FBI)捜査官の通称に由来するとされている。