クリスマスに年末年始、節分、恵方巻。そして今年もやってくる「バレンタイン」商戦。ワイドショーでは高級チョコ、変わり種チョコを販売するデパートやメーカーが報じられ、男性はソワソワする季節……なのか?

「忙しい業務に加えて、今年もやんなきゃって。超ユーウツですよ」

 こううなだれるのは、都内の中堅商社に勤務する星川マユミさん。バレンタインが憂鬱だと感じる女性も少なくないのである。

 

チョコ

男性にとっては楽しみ(!?)なバレンタインだが、女性からは「ユーウツ」という声も…

バレンタインが憂鬱な女性の声


 星川さんの所属部署は50代後半の部長をはじめ、20代前半までの男性が9割。女性は5名ほどで彼女の下には新卒2年目の契約社員しかいない。毎年バレンタイン前のこの時期に、星川さんに課せられるのは部署の男性にプレゼントするための「チョコ選び」である。

「まさにお局の女性上司(40代・独身)の方針で、女性社員でお金を出し合いチョコを買うんですが、そこらへんで適当に買おうものなら烈火の如く怒られます。だからあなたは仕事ができない、男もいないとか……。その上司だって独身で彼氏無しのクセに」

 昨年、星川さんは高級チョコブランドの海外限定版パック、それに表参道の有名チョコ店のバレンタインギフト、有名パティシエが監修したチョコ詰め合わせを女性上司に提案したが、あれこれと難癖をつけられてすべて却下。結局、上司が独断で決めたのは、若い女性に人気の洗剤・ソープメーカーの小さな石鹸と、社名入りのオーダー「チロルチョコ」を男性陣に配る、というものだった。

「外国のモノとか、有名店のモノを選ぶなんて田舎者、有名パティシエなんて名ばかりでミーハーすぎると、とにかく何を持っていっても文句を言われました。挙句、上司が選んだのは自分がハマっている石鹸メーカーの商品ですよ? 女性社員はそれなりの金額を徴収されているのに、計算も合いません。絶対に余ったお金で自分の欲しい商品を買っているんですよ」

 悲劇はこれで終わらなかった。バレンタイン当日、石鹸とチョコを男性上司に持参したところ……。

「なんだこりゃ? と鼻で笑われましたが、『女性上司が決めた』と耳打ちすると、みんな押し黙っちゃって。他の男性社員から『もしかして、お返し期待してるの?』なんて言われましたが……。いやいやいや、お返しなんかいらないし、そもそもあげたくないんだから!」

 ホワイトデーの際には、「これ石鹸のお返し」とコンビニでも買える入浴剤に加え、同じくチロルチョコを貰ったという星川さん。一方で、女性上司と言えば、若い男性社員から他の女性社員には渡さない高級店のチョコを受け取ってご満悦。

 そのチョコは、もともと星川さんが提案したものと同じメーカーだったというから、彼女が殺意を抱いたのも当然だろう。

 

社会人にとっては“誰得”なイベント


 とはいえ、バレンタインを疎ましく思っているのは女性だけではない。都内の官公庁に勤める公務員の吉川弘樹さん(仮名・20代)が訴える。

「義理でーす、とか言われながらチョコを貰ってもうれしくないというか。僕が独身で若い女性社員から貰うんだったら話は別ですけどね。だいたい、貰うものとお返しのバランスがおかしくないですか? 女性社員からはチョコの詰め合わせのうち一個をもらうだけなんですが、うちは女性社員が少ないぶん、彼女たちへのお返しはその数倍の金額になります」

 昨年のバレンタイン、吉川さんが女性社員たちから貰ったのは、ブラックサンダー二個とハンカチ、しめて数百円分。しかし、女性社員へのお返しということで徴収された金額は、なんと3000円だったのである。

 ホレたハレたと初々しい学生ならまだしも、社会人にとってのバレンタインなど、本当に「誰得」というほかない悪しき慣習……と思っていたが、そうでもない。

 

 

 昨年、「一部の業者がカネ儲けするための偽りのイベントだ!」などと熱弁していた筆者の元にやってきたのは、新入社員のA子ちゃん。「先輩、あんなこと言ってましたけど、良かったら食べてくださいね」と手渡されたチロルチョコ。これが涙が出るほどうまかったのである。