近年増えつつある女性向け風俗。現在日本各地に数十店舗程あるそうだ。そのサービス体系として、性感マッサージ、出張ホスト、レズビアン風俗という3つのジャンルがある。これらは、大きく分けて「マッサージ型」と「擬似恋愛型」と2つの要素があり、各店舗によってこの2つのバランスが多種多様である。
さて、私はロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD課程に在籍し、ジェンダー・メディアという観点から女性向けポルノグラフィを研究する、若手の人類学者である。現在、研究資料収集のため長期で帰国中なのだが、「女性向け風俗」というものの存在を耳にした。自らも女性として、そして女性の性欲を日々考える研究者としては無視できず、「実際にどのようなサービスがあり、女性のニーズを満たしているのか」をリサーチするべく、女性向け性感マッサージ店の施術を体験してみることにした。
今回、調査対象にしたのは「性器への接触がないこと」を売りにしている性感マッサージ店「SPA White」。2018年4月にオープンし、確実に集客数を伸ばし続けている。現在、在籍するセラピストは関東・関西合わせて11名。その年齢層は20代~40代と幅広い。セラピストは男性だけでなく女性セラピストも在籍している。店長兼風俗講師のあす香氏(20代・女性)はこう語る。
「私自身、男性向け風俗で働いていたのですが、女性の方々に『実生活でより幸せになっていただきたい。女性向け風俗は日々の日常に疲弊した際のSOSとして利用してほしい』と思うようになり、起業したんです」
あす香氏は、昼間は百貨店内の美容エステシャン、夜を風俗店勤務という経歴を経て、現在は男性向け風俗で働く女性のために風俗講師としても活躍中である。自身のエステシャンだった経歴を生かし、リラクゼーションで得られる多幸感に注目し、女性向け風俗の開業を志すようになったという。
性器への接触、つまり粘膜接触がない、という点については性感染病のリスクを考慮してのことという。近年、性感染症はSTI(Sexually Transmitted Illnesses)と呼ばれ、各自治体でも性感染症検査などの啓発活動が盛んに行われている。
あす香氏曰く、実際、性感帯は性器だけではなく身体全体にあり、それは個々によって異なる。これは確かに「セックス=挿入感」つまり、その前提としてある「生殖としてのセックス」ではない、「セックスの多様性を提唱する」という点でより強調されるべきものである、と私も考える。
セックスを挿入のワンパターンではなく、コミュニケーションとして捉え、心身共にリラックスしてもらうのが、あす香氏の目標だそうだ。
さて、実際に私も施術を経験したわけだが、まずは爽やかなイケメンセラピストと新宿某所で待ち合わせ、というシチュエーションから始まった。
最初は「初めまして」とぎこちなくお互い挨拶をした。イケメンセラピストは満面の笑みで「緊張されているでしょうが、今日は僕におまかせください」と私の手をとり、そのまま私たちは談笑しながらラブホテルへ。
ホテルの部屋に入ると、施術の準備として交互にシャワーに入り、カウンセリングシートで今日の気分や性感について質問された。アロマの香りと森林風のBGMが流れるなか最初は緊張をほぐすためのハグから、そのままオイルマッサージへ。耳元で優しく囁かれながら、背中、鼠蹊部を含む両足、デコルテ、胸とマッサージからのソフトタッチ性感の順で刺激された。普段のマッサージでは触られることのない鼠蹊部、胸、と言ったわかりやすい性感帯をマッサージされ、イヤらしすぎない快感に包まれた。「ものすごく丁寧な前戯」というイメージだろうか。
施術後は再度、お互い別々にシャワーを浴びてオイルを落とし、そのまま一緒にラブホテルをチェックアウト。新宿駅まで手を繋ぎ、談笑しながら帰宅。最後にハグをしてお別れ。終始とても大切に扱っていただき、最初の緊張が嘘のように消えていた。多幸感に包まれ、その夜はぐっすり眠れた。
終始リラックスした雰囲気で奉仕してもらうのは、もちろん気持ちいい。しかし、実際に体験をしてみてからの疑問として「性感マッサージで本当に性欲が解消されるのか否か」という点がある。これは、女性だけでなく人間自体のオーガズム自体が未だちゃんと解明されていないため、今後の研究課題とさせていただきたい。
さて、このタイプの女性用風俗にはどのような利用客が多いのだろうか。あす香氏曰く「6割が男性に対して抵抗感がある女性・男性との性的な経験が少ない女性」とのことで「直接的なエロスを求めている人は少ない」という。むしろ「(人間的に)大切にされる」感覚の提供というものをあす香氏は強調する。男性向け風俗でありがちな「瞬間的な性欲の解消」は女性向け風俗ではあまり求められていないようだ。
また、「SPA White」では月に1回女子会パーティを開催しており、あす香氏を含むセラピスト陣と女性客の交流の場を提供しているという。そこで、10月末日に都内・渋谷区某所のレンタルスペースで開催されたハロウィンパーティに、私も参加させていただいた。
「SPA White」のサービス利用歴有無を問わず、一人参加の方や、さまざまな女性客がいるなかで、始終アットホームでリラックスした雰囲気で開催されたパーティだった。このようなパーティで雰囲気を感じ取ってから利用するか否かを決める、という方もいた。
「他店で本番強要されたりと嫌な思い出があるんですけど、『SPA White』は女性が店長さんだし、こういうパーティもあるから安心です」と語る女性客もいた。このように、店側の透明性・信頼性というのは女性にとって店選びの大切なポイントだと思われる。