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【木漏れ日】
安室透氏の夢小説です。
主人公は米花町で会社勤めをしているOLです。
なお、当方原作漫画はほぼ未読。最近はまったもので、絶賛勉強中です。
初投稿なので至らない部分も多いかと思います。諸々ご注意ください。

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春は出会いの季節である、とは言うものの、運命的な出会いは中々訪れないようで、もう一カ月ほど会社近辺の喫茶店をめぐっているがお眼鏡にかなう店にたどりつけないでいる。
 
今日こそはと意気込んで入った喫茶店は「ポアロ」と言うそうだ。
いらっしゃいませ、と明るい女性の声が響いた。
「1名様ですか?」
 
人差し指で1の数字を示しながら女性は言ったので、はいと頷くとウェイトレスは空いている店内を見渡し、お好きな席へどうぞと続けた。
二人掛けの席に腰かけると、ウェイトレスが水とメニューをテーブルに置いた。
 
メニューを開くと変わった風はない。至って普通の喫茶店のようだ。
ハムサンドにおすすめと一言添えてある。片手で食べられるし、丁度良い。
早速注文を済ませるとウェイトレスはカウンターに戻り、奥にいるらしき人物に声をかけた。
「安室さーん、ハムサンドの注文入りました!お願いしまーす」
 
すると遠くから男性の返事が聞こえ、こちらにやってきいたようだ。ここの店主だろうか。それにしては声が若い気がする。
いずれにしても、ハムサンドが提供されるまで今しばらく時間はかかるだろう。
 
彼女は通勤鞄から一冊の文庫本を取り出した。
学生時代はよく本を読んでいたし、学校帰りに本屋に寄ることも好きだった。
 
だが、新入社員となった頃、毎日の業務や残業、生活に追われ、ゆっくりと読書を楽しむ暇がなくなってしまっていた。
今年度になり業務に慣れてきたこと、定時退社が推奨されるようになったことで余裕が出てきたのだ。
そしてどうせならと少しばかり豪華に、一週間頑張ったささやかな自分へのご褒美の為、金曜日の定時上がり日に喫茶店で夕飯を食べつつ、読書をすることにした。
 
文庫本のページをめくる音、カウンターでレタスを千切る音が聞こえてとても心地よい。
来週もここに来ようと思っていた矢先、お待たせしましたと言う声を共に注文したハムサンドがテーブルに置かれた。
「ご注文いただきましたハムサンドです。」
「ありがとうございます」
 
本から目線を離し顔を上げると、褐色の肌のとても整った男性と目が合った。
こんなに格好いい人はなかなかお目に掛かれない。と思わず見つめていると、ウェイターと思しき男性も同じく呆けたような表情を浮かべながら、こちらを見ていた。
「あ、あの、私の顔に何かついていますか?」
 
お昼から何も食べてはいないけれど、よく食べかすを口の周りに付けている事がある。
まさかとは思うけれど、こんなにまじまじ見られてはその可能性は否定できなかった。
「あ、いえ、すみません。女性をじろじろと」
 
ウェイターは少々きまりが悪かったようで、ごゆっくりと言い残すとそそくさとカウンターへ戻っていった。
すぐに紙ナプキンで口元をぬぐったり、手持ちの鏡でも確認してみたが、何か変なものが付着している形跡はない。
不思議に思いつつ、途中だった本を開きハムサンドに手を伸ばした。
 
温かさが残るハムサンドを口にした途端、豊かで複雑な風味が口いっぱいに広がった。
美味しい!今まで食べたサンドイッチの中で一番美味しい!
 
あっという間に全て食べつくしてしまった。もう少し味わって食べれば良かったと少しばかり後悔していまう。
よし、来週もこのお店に来よう。こんな美味しいハムサンドがあるのだから。
配膳を終えカウンターに戻った安室は、ちらちらと彼女に視線を送る。

一口頬張るごとに「美味しい!」という心情がよく読み取れる。どうやら思ったことがそのまま顔に出てしまう性質らしい。
先ほどから読んでいる本は、恋愛ものだろうか。時折本を閉じてはキラキラした瞳で空を見つめた後、また読み始めるを繰り返している。
くるくる変わる表情が見ていて飽きない。
 
その後、彼女は少しばかり本を続きを読んだ後、美味しかったですと笑顔を残し帰って行った。
安室透は彼女が使っていたテーブルの食器を洗いながら、思い悩んでいた。
 
どこかで会ったことがあるような。警察庁公安部に所属してから関わった人物について忘れるわけがない。
と言うことはそれ以前、警察学校でか。否、それにしては若かった。おそらくまだ20代前半であろう。
 
一体どこで。
それにもう一つ、これは梓に確認する必要がある。
安室は洗い終わった皿を拭きつつ、別の客の皿を下げて着た梓に聞いてみることにした。
「梓さん、少し聞きたいことがあるのですが」
「はいはい、なんでしょうか」
 
「先ほどの読書をしていた女性の周りが光っていたように見えたんです。ですが外からの明かりとも思えません。光源になるようなもの、あのテーブルにありましたか?」
 
拭き終わった皿から視線を動かすと、梓は何からニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
本当にニヤニヤとい効果音が似合う表情である。
「・・・なんですか、その顔は」
 
ただの確認なのに、なぜこんなにやけた顔をしているんだ。
相変わらずニヤニヤした表情を崩さないまま、安室さんわからないんですか?と聞いてきた。
分からないから聞いているというのに。
「まったくわかりませんね。一体どういうからくりなのか、梓さんにはわかっているんでしょう?意地悪しないで教えてくださいよ」
「いやあ、だってそんなの理由は一つしかないじゃないですかー!」

「ずばり、恋ですよ!安室さん!」
梓はウィンクをしつつ、悪戯っぽく笑った。

寸の間、安室はあまりに突拍子のない発言に言葉を失ってしまった。
「・・・はい?恋?そんな、まさか。初めて会ったお客さんにですか?」
 
ありえないですよ。やっと搾り出した言葉は、梓の悪戯心を助長させるだけであった。
「いいえ、これはもう完全に!恋でしかないですよ。どんなJKやどんな美人に言い寄られてもただ綺麗にかわすだけの安室さんからそんな台詞が出てきた時点で!これはもう!恋しかない!」
 
ずいぶんと興奮しているようで、梓はどんどんと距離を詰めてくる。
さらに、少女マンガではよくあることです!と力説を続けているが。
 
今はどんな言葉も届きそうにない。それともこれは梓の言うとおり本当に恋なのだろうか。
だとしても、彼女がまた来店してくるという確証もない。きっとこれきりになるだろう。
「僕は違うと思うんですけどね。仮にそうだとしても、また来店するかもわかりませんし、確かめる術はなさそうですね」
 
この話題はこれにて終わり、と両手を叩き、半ば強制的に終了させた。
梓はまだ何か言いかけたが、一瞬ふて腐れた表情を浮かべた後、元の業務へと戻っていった。
もし、また会えることがあれば、きっとこの謎は解けるだろう。と思いつつ、安室もウェイターとしての仕事に戻っていった。