リゾート感覚で長時間過ごせるラブホテルが増える一方、短時間で退出する客が増加中……。その謎に迫った!
8月の某水曜日。うだるような暑さのなか、ラブホ街で張り込み調査を実施。確かに早く出る客は多い

◆会社員カップルが平日の夕方に入店。即退出する理由とは
近年、テレビや週刊誌でもたびたび取り上げられているラグジュアリーなラブホテル。シェフが作った高級グルメが味わえる、最新のジェットバスやスパを完備、アメニティはブランドもの……。なかにはラブホで延泊する客も現れているそうだが、そんな高級化とは真逆の謎の現象が起きていることをご存じだろうか?
 
「入室したと思ったら、30分もたたずに出ていくんです。なかには20分で帰るカップルもいます」
そう証言するのは渋谷のラブホで清掃係をしている大野亮太氏(仮名・33歳)。リゾート気分でゆったりするどころか、立ち食い蕎麦並みの滞在時間だ。
 
「清掃のため部屋に入るとベッドはしわひとつなく、初めは『女性を呼んで“チェンジ”したのか?』と思ったんですよ。ところがゴミ箱を見るとコンドームやティッシュ、そしてシャンプーの袋が捨ててある。シャワーで汗を流すついでに行為をして、終わると同時に帰っているんです」
ラブホのファストフード化とも言える現象。酷暑だった今夏、汗を流して涼むため、ラブホでひと休みというのはわかるが、なぜすぐに退出してしまうのか? 謎は深まるばかりである。
 
「特に多いのが、夕方の時間帯です。ベッドは手つかずだったり、せいぜい座った形跡がある程度。清掃は床や排水溝の髪の毛を拾うぐらいなので手間はそれほどかかりませんが、回転率が高すぎて休む暇がないんです」
◆風俗利用ではなく一般カップル
ちなみに、この証言をベテラン風俗嬢のアヤカさん(仮名)に当ててみたところ、「風俗利用ではない」との返答が。
「早めにプレイが終わって帰されることもありますが、かなり稀。相手が急いでいる場合は別ですが、さっさと済ませようと手を抜いていたら、お客さんがつかなくなりますよ。パッとヤッて、サッと出たい人はラブホ代がもったいないから、レンタルルームを使いますね」
となると、やはり“ファストフード化”は一般のカップルの間で進んでいるようだ。
 
◆早期退出客が多いのは水曜日
清掃歴10年以上のベテラン、町田隆之氏(仮名・42歳)は次のように語る。
「ウチは休憩タイム2時間なんですが、以前は退出時間ギリギリまでいる客が多かった。最近は1時間もたたずに帰ったり、それこそ30分以下の人も珍しくありません。上はワイシャツやポロシャツに下はスーツパンツと、クールビズ風な見た目なので、おそらくサラリーマンでしょう」
町田氏によれば、こういった早期退出客が特に多いのは水曜日だという。果たして本当にラブホの“ファストフード化”は進んでいるのか? そしてその原因は?
 
さっそく取材班はとある8月の水曜日、3か所に分散して渋谷のラブホ街で張り込み調査を行った。時間帯は15時から19時の4時間。夕方とはいえ、まだまだ暑さの残るラブホ街で、入退出していくカップルの背中を追い続けた結果……。
 
各地点で入室したカップルの数は30~40組。そのうちおよそ3割が1時間以内、全体の約1割が30分以内に退出していた!
渋谷のラブホで清掃係をしている大野亮太氏(仮名・33歳)によれば、「日によっては早く出る人の割合がもっと高いこともある」そう。また、町田氏が指摘したとおり、クールビズ姿の会社員と思しきカップルが多い。
 
「サラリーマン風の人は午前中にも来ますが、50~60代っぽい人が多いです。女性も同年代で不倫カップルといった感じですね(笑)。夕方、入って1時間もたたずに出る人はもっと年齢層が低く、30~40代が多い印象です」(池袋某ホテル・受付係)
◆カラダをスッキリ。ノー残業デーを満喫
では、いったいなぜ彼らはすぐに出ていくのか? 大野氏は意外な推測をする。
「サラリーマンっぽくて、水曜の夕方から特に多い……。ノー残業デーだからじゃないですかね?」
なんと働き方改革がラブホの利用法に影響しているというのだ!
 
経団連が’16年に発表した「ワーク・ライフ・バランスへの取り組み状況」によれば、67.8%の企業が「ノー残業デーの徹底」をしているという。法律で制定されている制度ではないので運用状況は企業によって異なるが、官公庁は水曜日に設定しており、週の真ん中ということもあってそれに倣う企業も多い。
 
この仮説の真偽を検証するべく、1時間もせずに退出したことがあるというラブホユーザーの声を集めると、次のようなコメントが。
「水曜日は早めに帰されるので、仕事終わりにカミさんとデートすることが多い。ただ、夜までベタベタしたカラダで過ごすのはしんどいので、ラブホで一戦、ひとっ風呂浴びてから遊びにいくんです。23区外に住んでいるので、地元は遊ぶ場所が限られるし、一度帰ってから都心に戻るのも面倒。月に2回ぐらいはそうやってラブホを使っています」(男性・35歳・公務員)
 
せっかく入ったなら、目いっぱい休んでいけばいい気もするが。
「僕もはじめは料金がもったいないと思いました(苦笑)。でも、いったん行為が終わると、あとはダラダラ過ごすだけですからね。終電までには帰りたいですし、『遊ぶ時間がなくなる』と尻を叩かれるので……」(同)
 
女性側からもそういった証言を裏づける声が上がった。
「せっかく仕事が早く終わったのに、何時間もホテルに居続けたら意味がない。どうせしたあとはスマホをいじったりするだけですし。よっぽど設備が充実していたり、泊まっていくなら別ですが、汗を流して化粧を直したら、さっさと出たいんですよ。それこそ30分もせずに出ることもあります」(32歳・旅行代理店)
 
ちなみに、こちらの女性も埼玉県在住と「家に帰るのに時間がかかる」ことを理由のひとつに挙げていた。
 
◆ラブホはゴールではなくスタート地点に
ノー残業デーで仕事を“早上がり”。しかし、そのまま遊びにいくには暑すぎるので、ラブホのシャワーで一瞬リフレッシュ……というのが、ファストフード化の真相だったのだ。
 
「これまでラブホといったらデートの“ゴール”でしたけど、今はむしろスタート地点になっているんでしょうね」
当然だが、こういった動きは「ラブホ側にもメリットが大きい」とあるラブホテル経営者は語る。
 
「回転率は高くなるし、平日の浅い時間帯にお客さんがたくさん来るのは助かりますね。長居しないので清掃も楽ですし。まあ涼しい季節になったら、どうなるかわかりませんけど」
酷暑と同時に働き方改革の波が押し寄せ、利用者の使い方も変化したラブホテル。ラグジュアリー化とファストフード化という両極端な傾向は、今後も続くのか? 生温く見守っていきたい。