臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、オフィス北野の騒動を渦中の人物たちから分析。
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タレント、ビートたけしの独立騒動が新たな展開を見せている。移籍先の事務所についていろいろと報道はあったものの、とりあえずの円満退社かと思いきや、1日にたけし軍団がこの独立について声明文を発表したのだ。
声明文の内容は、たけしさんが知らない間にオフィス北野の森社長が会社の筆頭株主になっていたこと、役員報酬が容認できない額であることに言及。稼いでいるはずが事務所は赤字に転落、これらに加えて高いという従業員の給与水準などについて、森社長が改善を約束したがそれが実行されず、たけしさんは独立することになったという。
この声明文に異議があるかとマイクを向けられた森社長は「もちろんあります」と即答。「不本意」と言い、「これはそうだよね、とは言えない」と首を横に振った。軍団との関係は大丈夫かと聞かれると、「関係って?」と一瞬、レポーターから視線を外して横を向く。そんなことをわざわざ聞くのか?という感じだ。呆れたのか驚いたのか、「大丈夫なわけがないじゃないですか」と声音が変わった。
「こういう問題、騒動になってしまった」と語気をわずかに強めたのは、森社長自身は、騒動にしたかったわけでも、騒動になるとも思っていなかったのだ。それでも騒動になったからには、「私なりの意見を述べさせていただく」と何度かしっかりと頷いていた。よほど腹に据えかねているのだろう。
この「不本意」という発言に、ガダルカナル・タカさんは「不本意と言われることが不本意」と言いながらも、事務所に残留。ダンカンさんも、ある番組のインタビューでスタッフの給料がタレントよりも高いことに不満を言い、森社長について「一番信用できる、気持ちが通じる人」だったのに、「その人に裏切られた」と頭を掻いた。やりきれない気持ちが強まったのだろう。
そして森社長とは「チームだったのに」と、互いの間に距離ができてしまったことをにじませる。彼らの言う「裏切られた」は、株式や報酬のことだけでなく、森社長が自分たちの側の人間、芸人のことを理解してくれる人間でなくなってしまったことが、一番大きかったのではないだろうか。
ダンカンさんは、報酬の改善が進まず、「(たけしさんが)独立ということになった」と、右耳の穴を掻いた。この仕草は、そんな言葉を聞きたくなかったということ。本当はたけしさんに独立などしてほしくなかったのだ。そのうえで、たけしさんの抜けた事務所に「わだかまりはあるものの残る」と話した。残留を決めた軍団は、それぞれがわだかまりを持ちながら、森社長と一緒にやっていきたいと話している。
今のままの森社長は嫌だけと、一緒にはやっていきたい。彼らが胸の内に抱えているこんな不協和音のことを、心理学では「認知的不協和」という。なぜ、こんなことになったんだ──彼らの中には、そんな思いもくすぶっていただろう。そしてそんな思いをさせる原因になったのは森社長。それでも森社長と一緒にやっていこう。そうすると、心の中では相反する思いがぶつかり合い矛盾が生まれるのだ。
すると、モヤモヤした居心地悪さやイライラした不快感、なんともいえない嫌な感覚が起きてきて、人はそれをどうにかしようとする。だからといって、愛着のある事務所は辞めたくない。辞めるとなると、次の事務所を探さなければならない。森社長が辞任してしまえば、新しい社長を探さなければならない。自分たちの仕事がどうなるかもわからない…。
社長に謝罪してほしくても、頼みとなるたけしさんはもういない。軍団の中では、そんな葛藤を解消するための解決方法が見つからなかったのだ。あんな形で声明文を出したのも、彼らの中で大きくなった「認知的不協和」が引き金になったのだと思う。
うまくやっていきたいという軍団の意向について聞かれた森社長は、「いや」と首を横に振って即答し、週刊誌上でも看過できないと反論した。軍団が望むような解決策は、どうやら難しそうな気配だ。