とうとう退院の日がやって来ました。
夫も私も、この日をどれほど待ち望んでいたことでしょう。
病院へ迎えに行くと、
夫は準備してあった洋服を着て、ベッドに腰掛け、私が来るのを首を長くして待っていました。
手続きを済ませて、いよいよ退院。
看護師さんが忙しい中、手厚いお見送りをしてくれました。
私に腕を抱えられているとはいえ、
夫は自分の足で歩き、外来患者さんに紛れて病院の外へ。
晴れ晴れとした顔をしています。
夫が入院した当初は、
「自分の足で歩いて病院から出られる日が来るなんて」
思ってもみませんでした。
その姿に、グッと込み上げるものがありました。
車に乗り込み、
「さー、何したい?何食べたい?」
と聞くと、
「〇〇の蕎麦が食べたい!」
そっか。
やっぱり大好きな麺が食べたいんだね。
お蕎麦だとトロミついてないけど……
ま、いっか。
そのまま家に戻らず、夫が食べたいと言った蕎麦屋へ向かいました。
座席に着くやいなや、
夫はメニューも見ずに一言。
「ざるそば!」
きっと、ずっと前から決めていたのでしょう。
私は少しでも食べやすくなるよう、とろろをつけてもらうことにしました。
お蕎麦を待つ間に、コップの水で2人で乾杯。
そばが届くと、
夫は自分でお蕎麦を箸ですくって、ツユにつけ、口に運びました。
箸を持ったり、蕎麦を口に運ぶのが大変そうでしたが、
何も言わず、ただ嬉しそうに食べています。
幸せそうに一生懸命お蕎麦を食べる夫の姿を見ながら、私は思いました。
「この先何があっても、この人をずっと支えていこう」
私は心に、そう誓いました。
2人で久しぶりに楽しむ外食。
とても幸せな時間でした。
その後は寄り道もせず、まっすぐ家に帰宅。
夫は家に上がると、すぐに居間にゴロンと横になり、安心したのかそのまま眠ってしまいました。
その日の夕方、
夫婦水入らずで、ささやかな退院パーティーをしました。
これから大変な日々が待っているかもしれない。
でもそれよりも、
「やっと夫が戻ってきた」
「また一緒にいられる」
その喜びで胸がいっぱいでした。
神様からいただいた、大切な夫の命。
医師から
「話すことも、食べることも、歩くこともできない」
と言われたあの日から、ここまで回復してくれた夫。
私はこの先の人生を悔いなく過ごすために、夫と一緒に、全力で生きていこうと改めて誓うのでした。