タケトシとの別れを決意したのは
決して突然ではなかった。
どこかで、私は彼のことを尊敬できなくなっていったんだと思う。
「なんでこの人は頑張らないんだろう」
「このままフリーターで何も考えてなくて将来に不安はないの?」
そんなことばかり考えるようになっていった。
「彼がいる」ということは
他の同年代の人と一緒で浮くことはない
ガールズトークもうまくいって
世間一般から外れることはない
そんな風に考えていたから
タケトシと別れようとは真剣に考えなかったのかもしれない
だけど、
「自分はこのままでいいの?」
「このまま、掛け持ちのフリーターのままでいいの?」
「ちゃんとした職につくべきなんじゃないの?」
コンプレックスを感じていた。
同年代の女の子に。
大学にいけばよかった。
そうすればもしかしたら
ちゃんとした会社に就職して
スーツ着てお金もそれなりに持ってる男に出会って
ドライブデートとかしてたかもしれない
初めてのボーナスで親に旅行とかプレゼントしていたかもしれない
どうして私は今こうしているんだろう
なんでもっと世の中をよく見なかったんだろう
なんで私は・・・
卑屈になっていた
もともと前向き思考じゃないし
なんだかんだ、悪いことは人のせいにして
生きて
甘えて
自分がいやになってた
嫌いだった
幸いまだ私は20だ。
こんな自分を変えたいと
真剣に思い始めた。
そんなときだ。
ある日タケトシがこんなことを言い出した。
「オレ、漫画家になろうと思ってるんだ~」
私が机に向かって、
いつでも転職できる体勢でいるために
面接試験のための勉強に取り組んでいるときだった。
一瞬固まった。
「なんか書いたことあったっけ?
いきなりなれるものなの?」
怪訝な顔で私はタケトシを見返した。
「いやーやっぱり学校行こうかなと思ってるんだ。
代々木にあるじゃん?有名なとこ」
確かに代々木に学校があったような気がする。
でも・・・・
「マジ?お金あるの?」
「いやーないから、親に出してもらおうと思って」
私は耳を疑った。
24歳になった大の男が?
成人して働いている男が?
自分で工面してならまだしも
今から親に金を出してもらって学校にいく??
この人。。。
どこまで子供なんだ、、
もしうまくいけばいいかもしれない
でも1年ちょっと付き合ってきたけど
私はこの人にそん根性も才能もあるとは正直思えない
終わったと思った。
私のテンションは一気に急降下していった。
「・・・・あのさ」
「24歳にもなって、親からお金払ってもらって学校に行くの?
自分でお金貯めてじゃだめなの?」
「時は金なりっていうだろー?別にお前に迷惑かけてないじゃん」
「・・・そうだね」
そういうと
私は、勉強に戻った。
もう、私の彼に対する思いは
愛情も、同情さえも冷め切っていた
こんな彼氏だったら、いなくてもいい
本気でそう思った。
数日後
私は最寄り駅の改札近くの階段で
彼と待ち合わせをした。
「別れたい。。いろいろ考えたけどやっぱりもうついていけない」
驚くほどスッと言葉が出た。
彼は何も言わずにうつむいていた。
「うちの合鍵、返して」
彼は一瞬とまどったふうだったけど
ポケットから鍵を取り出し、渡してくれた。
「ラーメン屋ももう少ししたら辞めるつもりだから。」
「じゃあね。」
私がそこを立ち去るまで
その間、彼は一言も発しなかった。
もしかしたら彼も二人の間に
埋められない溝ができていることが
わかっていたのかもしれない。
数年後、
彼の友人に会う機会があり
学校には行ったけど
漫画家になる夢はあきらめたらしいと聞いた。
まぁもう、過ぎた話だ。
タケトシと別れた後、
ラーメン屋も辞めた。
転職活動に専念するためだ。
賄いのラーメンが食べれなくなってしまうことや
常連のお客さんに会えなくなることは
すごく残念だったけど仕方ない。
過去を振り返るより
今はとにかく、前に進むことだけを。

」