チノ「リゼさん、大丈夫でしょうか・・・」
ココア「リゼさん?」
―同時刻リゼ―
リゼ「(あったあった!これだけあればしばらくは困らないな)」
敵兵「お前、どこからここに入った?!そこで何をしている!」
リゼ「すまない、ちょっと物資をわけてもらおうと思って・・・ねッ!」
思い切り足を払い、その場に倒れこむ敵兵。
その衝撃で一発の銃弾がリゼの髪留めをかすめ、長く美しい紫があらわになった。
リゼ「ちょっと伸びすぎたかな、そろそろ切らないとな」
敵兵の腕を思い切り踏みつけながらそう言うと、拳銃を奪い取った。腕には靴底の痕が痛々しく残った。
敵兵「っ・・・何者かに襲われた!応答せよ!応答せ・・・」
リゼ「電池入ってないぞ」
一瞬のうちに抜き取られた電池は既に彼女の手の中であった。
リゼ「大声は出すな。大人しく物資をよこせば命までは奪わない。両手を頭に。うつ伏せになれ」
ボディチェックを素早く済ませ、物資の中にあった養生テープで口元をふさぎ、良く聞こえるように耳元で弾を込めた。
リゼ「静かに震えてろよ。かわいそうなBunny(子ウサギ)ちゃん。今度会ったらラテアート描いてやるよ、今のお前の姿をな」
はち切れんばかりに膨らんだリュックとボストンバッグを手に、倉庫を飛び出した。
To be continued
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チノ「もちろん目的地までの道のりわかってますよね?」
ココア「うーん、地図読むの苦手なんだよね」
チノ「・・・」
人を誘拐しておいて行き先がよくわかっていないようだ。
ココア「あの時計台から街全体を見回してみよっと!」
チノ「はぁ、そうですね」
近くに大きな時計台がある。いくら方向音痴でもあそこからならわかるはずだ。
チノ「というかもう帰っていいですか?」
ココア「ええええ!?なんで?さっきのおやつ美味しくなかった?」
チノ「なんだか馬鹿らしくなってきたので」
ココア「お姉ちゃんと旅するのが嫌なの?」
嫌かといえば嫌だ。仮にも誘拐されているわけだし。
チノ「別にココアさんのことが嫌というわけではなくてですね・・・」
ココア「とりあえず気分転換も兼ねて時計台に行こうよ!チノちゃん登ったことある?」
チノ「幼いころに一度」
ココア「じゃあなおさら行ってみようよ!きっと懐かしいはずだよ♪」
チノ「まったく、しょうがないココアさんですね」
時計台までの道中も、私たちは手をつないだままだった。
逃がさないようにする為だと言っていたが、それほど強い力で握るわけでもなく、まるで友達の手を引くかのようであった。
ココア「エレベーター止まってるね」
チノ「さすがに電気は通っていないようですね」
ココア「しょうがないね」
チノ「しょうがないですね。では別のルートを」
ココア「階段で行くしかないね!」
チノ「しょうがないですね・・・」
見上げると、どこまでも続く螺旋階段がある。しばらく運動していなかった私には耐え難い。
ココア「まあまあ、ちょっとした準備運動だと思ってさ、登ってみようよ!」
チノ「準備運動にしてはハードすぎませか・・・ってちょっとまってください!いきますから!」
私が言い終える前に手を引いて登ろうとしている。それもなぜか目を輝かせて。
ほこりっぽい石造りの手すりを掴みながら一歩一歩登って行った。
最上階からはオレンジ色の日差しが差し込んでいる。
時折現れる色ガラスの窓がフィルターとなって、私たちを色とりどりに照らした。
ココア「もうちょっとだから頑張って!はい!いっちにっ!いっちにっ!」
チノ「コ、ココアさんはどうしてそんなに元気なんですか。はぁはぁ・・・」
息を切らす私とは対照的に、彼女の顔からは笑みすらこぼれていた。
ココア「とうちゃ~く!」
チノ「到着・・・です」
彼女は両手を挙げて全身で喜びを表現している。
ココア「きれいだね~~~!!チノちゃんはそれどころじゃなさそうだけど・・・」
チノ「ちょっと休ませてください」
ココア「良いものがあるからちょっとまってね」
そういうと彼女はリュックをおろし、なかから何か取り出した。
その袋から慣れた手つきで骨組みを取り出し、組み立ててみせた。
ココア「どうぞおかけくださいお嬢様」
少しおどけて執事のような振る舞いをしてみせ、私を椅子に座らせた。
ココア「いかがですか?」
チノ「悪く、ないです」
ココア「良かった♪」
時計台から街を見渡すうち、脳裏にある記憶がよみがえった。
幼いころ、母と、父と、ここにきた日のことだ。
どうして今まで忘れてしまっていたのか。
あの日も今と同じ時間だったように思う。
母の透き通るような髪が夕日を吸い込んで、黄金色に輝いていた。
父は終わりゆく今日という日を惜しむように、赤煉瓦の街を見つめていた。
私はというと、母からもらったおやつをボロボロこぼしながら、二人に身をゆだねていた。
ココア「あ、さっきの乾パン余ってるけど食べる?」
チノ「そうですね、いただきます」
懐かしかった
To be continued
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<資料01>
ココアたち「脱兎-DATTO-」メンバーの装備品を一部紹介します。
DATTOのロゴ入りポーチです。
中身をすぐに取り出せるよう、マジックテープで開閉するつくりになっています。
物資が不足している為、布部分は軍用のパップテントを解体したものを使用しています。
リベットやマジックテープ等も、廃材を利用して作らています。
本来はナイフやマグライト、弾丸等を入れることが多いです↓
ココアの場合はアクセサリーやアロマオイル、キャンディー等の雑貨が入っているようです↓
以上。
ココア「ふんふふんふふ~ん♪」
チノ「どうしてそんなにご機嫌なんですか」
ココア「だって嬉しいよー!ずっと探してた人に出会えたんだもん!」
さっき地下室で感じた殺気はどこへやら。彼女はのんきなものであった。
ココア「あ、見て!あの家の壁!ベーグルみたいな形の穴があいてる!かわいい♪」
チノ「かわいい・・・?」
その家には大きな丸い穴があいていた。まるで大砲でも撃ち込まれた様な。
チノ「どの家もボロボロですね。ひどい」
ココア「なんだかおなかが空いてきちゃった。あのベーグルさんのお家に何かないか見てこよっと!」
チノ「あ、ちょっと待ってください!何があるかわかりませんよ!」
ココア「大丈夫だよ~。この街にはもう誰もいないから!」
そう言うと彼女は玄関からではなく、ベーグルの穴から入っていった。
ココア「おっじゃまっしま~っす♪」
チノ「(いいのかな・・・他人のお家に勝手に入って)」
ココア「何か保存の効くもの・・・缶詰とかないかな?」
部屋の中には崩れ落ちたレンガが散らばっていたが、それ以外は整然としていた。
食器棚に几帳面に並べられた食器。四脚のイスがきれいに収まったダイニングテーブル。
テーブルの上の花瓶にはユリの花が生けられており、間もなく枯れかけている。
私は花瓶に水を注いだ。少しでも心穏やかにありたかった。
ココア「あった!乾パンとビーフジャーキー!」
ぐぅ・・・と恥ずかしい音がなって、とっさにお腹を隠した。
ココア「チノちゃんもお腹空いてたんだね!じゃあここでちょっと休憩していこっか♪」
しっかり聞かれていた。
チノ「そ、そういえば私も少しおなかがすいてたんです///」
テーブルのイスを引き、向かい合って座った。
チノ「缶切り持ってます?」
ココア「フッフッフ、お姉ちゃんに任せなさ~い!」
隣の席に置いたリュックをガサゴソとあさり、赤い色をしたソレを取り出した。
チノ「缶切りですか?それ」
ココア「これはマルチツールっていってね、色んな機能がついてるんだよ。ナイフとかハサミとかノコギリとか、もちろん缶切りも」
チノ「そうですか。それじゃ開けてください」
ココア「便利なんだよ~?ってこれ、裏側にプルタブついてる!」
チノ「あ、ほんとですね」
彼女はシュンとしながらマルチツールをリュックに戻し、大人しくプルタブを開けた。
ココア「乾パンって名前なのにパンらしくないね~」
チノ「パンというよりクッキーみたいですね。思ったよりかたいです」
ココア「ビーフジャーキーと一緒に食べるとちょっとしょっぱくて美味しいよ」
乾パンとジャーキーは口の中の水分を全て盗んでいった。
ココア「そうだ、ティーパック持ってるんだった。紅茶でも淹れるよ」
花瓶のユリが嬉しそうに揺れた。
To Be Continued...