オイシイものとは何か
それは目薬です。
調布市 ベンジャミン
一日コンピュータに向かってたせいで、カピカピに乾いて閉じなくなった目の疲れをまぎらわせるために、夕方になって杉野女子短大のほうからチャイムが聞こえると、天井から目薬をさします。
天井を見上げて、左手でまぶたを開きながら、口も開けてると、たまごやきをフライパンで作るときのように、眼球全体に、熱く、トロミのある液体がうすくひろがります。
さらにそのうえ、ああ、なんて声を出してしまっていると、そのトロミは温度を下げながら、だんだん奥の方までじわじわと手を伸ばしてくるので、わたしはもう、のどと鼻の境目の、ノドチンコの裏まで、目薬のなすがままです。
するとすぐに、一仕事終わったり一段落ついたりして、タバコを吸ったときのように、少し甘味のある粘液が、咽喉にしみ出てきます。まだ食べたことのない、熱帯の果物トロピカルフルーツの濃いめの果汁みたいに、なんだかネトネトします。
このトロンとした、なつかしいような甘味は、もしかするとメチル硫酸ネオスチグミンかも、なんて思ってると、つい、もう一滴、と量をすごしてしまいます。