前回の記事では、第三図(△43銀まで)から▲45歩と突く、へなちょこ急戦流の「5筋位取り」の仕掛けを見てきました。

 

 

ただ、一言に「5筋位取り」と言っても、居飛車の陣形のパターンは色々あります。

 

右銀ではなく左銀を繰り出してくるパターンもありますし、第三図から▲68銀と指して中央の守りを厚くするパターンもあります。

 

むしろ、へなちょこ急戦のように57を守っているのが右金だけという状況の方がレアパターンかもしれません。

 

この57の利きが2枚か1枚かという違いのは、へなちょこ急戦の#1でも言及した47への利きが2枚か1枚か問題にも似ていて、局面が定性的に変わってきます。

 

具体的には、前回は▲24歩を△同角と取って△56歩の垂らしを狙うのが有力でしたが、57が厚くなると△56歩で拠点は作れるものの歩成の手ではないので、響きが薄くなってしまいます。

 

定性的に変化するという事は、もはや別の将棋レベルになってくるわけでして、へなちょこ急戦流の時は振り飛車が5筋から反撃する展開が多かったですが、57の利きが2枚の場合は同じ方針ではあまり芳しくないという事です。

 

そこで、へなちょこ急戦で「5筋位取り」を扱った流れに乗って、違う形(▲68銀型)の「5筋位取り」の将棋についても、このタイミングで少し見ていきたいと思います。

 

 

第三図から▲68銀と指した局面を第四図とします。

 

 

実戦では▲56銀より▲68銀の方が先だったりするかもしれませんが、「5筋位取り」を相手にすれば、似たような局面にはなると思います。別パターンとして、左銀が56にいて、右銀が48にいるケースもあると思います。

 

また、今回は扱いませんが、居飛車は▲68銀に代えて▲66歩から持久戦を目指す指し方も有力です。

 

(1)第四図から△84歩

 

この手は推奨手ではありませんが、前回の記事の形との違いを理解するために、触りだけ変化を見ます。

 

居飛車は予定通り▲45歩と仕掛けます。△同歩は前回の記事と同様に居飛車よし。よって、△54歩と反撃してみます。

 

前回の記事でも触れましたが、△54歩と反撃する喫緊の理由は、次の▲44歩の取り込みに対して△同銀では▲45歩で銀が取られ、△同角では▲24歩から居飛車に捌かれてしまうからです。

 

 

△54歩と突いておけば、▲44歩△同銀▲45歩には△55銀とぶつけ、▲同銀△同歩の局面が次に振り飛車に△46銀▲27飛(▲48金には△47歩)△35歩があります。

 

前回の記事の本線の変化は、この△54歩に▲24歩と突く変化でした。前回はここで△同角が推奨手でしたが、この局面では前述の通り居飛車陣の57が厚いため、△同角と△同歩で形勢にそこまで差がなくなってきます。

 

 

これが前回との違いになります。もちろん、△同角と取って前回と同様の変化を辿ってもそこそこやれるのですが、へなちょこ急戦流を相手にした時と比べると、振り飛車が指しにくいと思います。

 

 

(2)第四図から△41飛

 

では代案として、第四図で△41飛と指しておくとどうでしょうか?

 

 

この手は▲45歩に△同歩と取り、▲同桂に△51角を用意した意味があります。△51角はなかなか好位置で、(△81桂型のため)△73角や△84角の余地もあります。特に今回の場合は居飛車の角道が止まっているので、引き角のラインに引きやすい事情もあります。

 

▲45同桂に対しては、この場合は△15角と出れます。▲27飛△44歩▲16歩△51角で振り飛車が指しやすいでしょう。

 

 

▲45同銀の場合、△54銀!がこの形の手筋で、▲同歩には△88角成▲同玉△55角があります。

 

 

△54銀には▲44歩が一例ですが、△65銀(実は△45銀も有力)と出ます。▲35歩は△15角▲27飛△33桂▲36銀△44飛、▲34銀は△15角▲27飛△44飛と切り返せます。

 

代えて△65銀に対して▲24歩と突いた場合、△同歩は▲29飛(後の△49飛成を消しておく)の後▲34銀を狙われると捌きにくくなります。

 

しかし、△同歩に代えて△同角と応じれば、居飛車も明快な手順は作りにくいところです。

 

 

以下、▲54歩△同歩▲34銀△31飛▲45銀△33飛▲25桂△53飛▲34銀△42歩▲43歩成△同歩▲11角成△46角▲29飛△55角が一例で、振り飛車が耐えています。▲同馬△同歩で5筋の歩が伸びてくると、次に△56歩が△55角や△46桂などを狙って楽しくなりそうです。

 

 

(3)第四図から△41飛▲16歩△12香

 

という事で、△41飛は有力に見えましたが、▲16歩として居飛車が税金を払った時にどうでしょうか?

 

振り飛車は△12香として、▲11角成を緩和しておきます。▲45歩を△同歩と取る方針の場合、△41飛や△12香が有効手になります。

 

まずは、▲45歩△同歩▲同桂から見ていきます。

 

△51角に▲24歩△同角は、▲54歩が手抜けず△同銀▲22角成△45銀に▲23馬があります。

 

△46角と切り返しますが、▲41馬△28角成▲22飛(下図)で部分的にしびれます。以下、△19馬▲63馬△56銀▲72馬△同金▲63銀が一例で、AIは形勢互角と言いますが、実戦的には玉が薄い振り飛車が少し勝ちにくそうです。

 

 

そこで▲24歩に△同歩と応じます。

 

この戦型では▲24歩に△同歩か△同角かが局面によって変わってきますが、1つの基準としては、△41飛型の時に△同角に対して▲54歩△同銀▲22角成がある場合は、△同歩で取るのが正解の場合が多いようです。

 

逆に、例えば先程の(2)で検討したような▲44歩型の局面であれば、すぐにその手がないため、△同角の方が押さえ込まれにくくなるようです。

 

さて、△24同歩▲54歩△同銀(△同歩は△41飛の飛車先が通らないため疑問手)に▲22角成は微妙で、振り飛車は△45銀で桂を取れます。ただ油断は大敵で、以下、▲32馬△56銀▲41馬△33角▲32飛(次に▲63馬)に△62金引がこの場合の好手。

 

 

△62金引に代えて△42歩では、▲44歩が手筋で△同角だと▲63馬△同銀▲42飛成で△52桂と打たされます。▲32飛に代えて、先に▲44歩なら△46歩と垂らして振り飛車十分です。

 

そこで居飛車は、▲22角成に代えて▲42歩の焦点の手筋を使います。これに△同飛は▲24飛を許して紛れるので、△同角と応じます。そこで▲22角成は先程の変化と同様どころか居飛車の一歩損。

 

そこで、▲48飛で▲45桂を支えますが、△46歩▲同飛△33角(下図)が振り飛車らしい捌き。▲55歩△65銀▲同銀△同歩▲57銀△11角のように第二ラウンドに入りますが、振り飛車まずまず指せるでしょう。

 

 

また、戻りまして▲45歩△同歩▲同銀には、やはり△54銀と出たいところです。

 

▲44歩△65銀▲35歩には、△44角▲同銀△同飛で駒損にはなりますが、居飛車は歩切れなのが悩ましく、▲59金寄にはふわっと△46飛(▲54歩の飛車取りをあらかじめ避けておく意味もある)が好手で、△36飛、△76飛、△56銀などを狙って振り飛車よしです。

 

 

ただ、△54銀に▲48飛なら、△65銀に▲44歩(下図)と押さえ込まれ、振り飛車が指しにくいでしょう。△76銀には▲54歩△同歩(△同金▲同銀も居飛車満足)▲34銀といった感じです。

 

 

△65銀に代えて△45銀なら、▲同飛に△44飛(△同飛では▲同桂と捌かれ、△44角▲42飛で居飛車よし)が好手で、▲同飛△同角▲42飛には△26角と切り返して、まずまず戦えます。

 

 

といった感じでして、△41飛+△12香型であれば、▲45歩△同歩と応じて振り飛車はそれなりに指せそうです。

 

ただ、振り飛車が勝ちやすい展開が多いかと言えば正直疑問で、居飛車の攻めがわかりやすい一方、受け続ける振り飛車の方は緩めないため、実戦的に大変と感じる方もいるかもしれません。

 

また、△41飛や△12香は意味のある手にしても手待ちの意味合いが強く、好きな時に仕掛けられる居飛車側に局面の主導権があると見るのが普通です。

 

現代将棋と言うかアマチュアの早指しにおいて、少なくとも自分はあまりそういう指し方をオススメできません。

 

振り飛車で急戦を受けるにしても、振り飛車側が何らかの明確な狙いを持った状況で受けるべきだと思います。

 

そこで次回は、第四図で△54歩と突き、振り飛車が先に歩をぶつける手を検討してみたいと思います。振り飛車の狙いは、5筋で歩を交換した後、△35歩から桂頭攻めする事です。

 

さて、振り飛車から攻める手段が生じた時、局面はどうなるでしょうか?