今回は「一撃!対振り飛車へなちょこ急戦」で紹介されている、へなちょこ急戦側が5筋位取りから仕掛けを目指す作戦についてです。

 

この作戦の直接的な狙いは、▲56銀型にする事で△32銀型の四間飛車相手にも▲45歩△同歩▲同桂を実現する事になります。下図(▲45歩まで)が一例です。

 

 

「一撃!対振り飛車へなちょこ急戦」では、この作戦が「へなちょこ急戦 act2」と名付けられています。何か新しい仕掛けのような印象も受けますが、「5筋位取り」自体は古くからある作戦です。

 

ただ、従来は左銀が▲68銀型だったり、左銀を▲56銀型にして右銀を▲48銀型にするのが普通なのですが、へなちょこ急戦では▲79銀型になっています。この違いにより、定性的に違う将棋になる部分があります。

 

具体的には、▲79銀型(へなちょこ急戦)の場合は、従来よりも早く仕掛ける事ができるメリットがある一方、57の地点が薄いというデメリットがあります。

 

さて、具体的な検討に入る前に、まずは前提部分でわからない事がいくつかあるので、1つずつ解決していきたいと思います。

 

(1)なぜ5筋の位を取る必要があるのか?

 

▲56銀型を実現するだけであれば、▲55歩まで伸ばさずとも、▲57歩型のままで▲56銀型(腰掛銀)にすればいいように思えます。右四間飛車等で用いられる形ですね。

 

むしろ、▲55歩型にする事で居飛車は角道が止まってしまうため、ぱっと見はデメリットに見えます。

 

では、実際に▲57歩型のままで▲56銀と出て▲45歩から仕掛けるとどうなるのでしょうか?

 

 

△同歩は▲24歩△同歩▲33角成△同銀▲45桂△44銀▲24飛で居飛車よしですので、振り飛車は△54歩と待ちます。

 

次に振り飛車は△45歩と取る事ができます。△54歩型にした事で前述の変化の▲45桂に△55歩と突けます。

 

 

▲同銀は△45飛で振り飛車優勢ですので、▲33桂成△49飛成▲47銀△33桂くらいが相場ですが、次に△46歩、△37角、△45桂などがあり、一人終盤状態で攻めが続くため、振り飛車よしです。

 

よって、△54歩は攻めを催促している意図もあり、居飛車はすぐに▲44歩と取り込みますが、△同角▲同角△同飛が先手のため▲59金寄のような受けが入ります。そこで△35歩のように反撃すれば、まだまだこれからですが、振り飛車もやれる感触があります。

 

 

対して、5筋位取り(▲55歩型)で同様の変化に進むと、▲44歩と取り込んだ手に対して△同角▲24歩△同歩▲45銀△33角▲44歩といった手順で押さえ込まれます。これは形勢以上に、振り飛車が勝てる気がしないでしょう。

 

 

ここでポイントなのが、△44同角が居飛車の角に対して交換を迫る手になっていない点です。

 

つまり、5筋位取りには、5筋の位を押さえる事により、振り飛車が角交換を挑みづらくしている意味もあります。

 

 

(2)△54歩を突くタイミング

 

となると、次の疑問として、△54歩を突くべきなのか?突くとしたらいつなのか?という疑問が生じます。▲55歩の前に△54歩を突けば、居飛車は5筋の位を(少なくとも簡単には)確保できないからです。

 

ただ、振り飛車的には、△43銀~△54銀の余地を残しておきたい気持ちもあり、△54歩をすぐに突くのはあまり気が進まない部分もあります。

 

また、例えば△64歩のすぐ後に△54歩を突くと少し危険な筋が部分的にあります。#2でも少し言及したと思いますが、下図のような▲45歩の仕掛けを誘発してしまいます。

 

 

以下、△同歩▲33角成△同銀▲31角△41飛▲64角成で居飛車十分。▲31角を放置して飛車を取られても飛車角交換なので、すぐに飛車を打ち込まれて困るような局面でなければ、大した事がない筋だと言えなくもありませんが、普通はいきなり飛車取られるのは嫌でしょう。

 

この筋があるため、特に▲46歩型に対しては△54歩を突いたら△64歩を突きづらくなり、△64歩を突いたら△63金のような手を指さないと△54歩を突きづらいという事情があります。

 

ただし例外として、例えば下図のような局面であれば、△64歩を突く事ができます。▲45歩と仕掛けられても、△同歩▲33角成△同銀▲31角に△55角が刺さります。これは▲47銀型で37の桂にひもがついていないために生じた筋です。まあ、普通は▲56歩くらいはたいてい突くので、上述の△55角が実現する事は少ないとは思いますが。

 

 

とかなんとか考えだすと、やっぱり将棋って細かい部分が大きな違いになるんだなとしみじみ思うわけですが、要するに、△64歩~△63金を指していれば△54歩は安全に指せるはずで、例えば下図の△54歩は有効手で、居飛車からの有効な仕掛けがなくなります。

 

 

 

これらの考察から、ようやく「想定すべき5筋位取りの局面」が見えてきたので、具体的に検討していきたいと思います。

 

 

今回のスタートは基本図(▲46歩まで)です。

 

 

この手に△54歩もありますが、実戦的には形を決めすぎな感もありますし、今回の記事では5筋位取りをしてもらわないと困る部分もあるので、△64歩としておきます。

 

この手に▲47銀は前述の「例外」の局面に当たり、振り飛車は△54歩を突けます。居飛車が5筋位取りを目指すのであれば、銀上がりの前に▲56歩を突くところです。

 

振り飛車は△64歩の後に△54歩を突けないのも前述の通りです。よって、△63金と指しておきます。

 

振り飛車は次に△54歩を突けますので、5筋位取り志向であれば▲55歩の一手のはず。

 

 

振り飛車としては5筋の位を取られた時点で、△54歩で位に反発する手を指すために、△82玉は指しておきたいところでしょうか。△71玉型のままで△54歩を突くと、玉のコビンのラインが開くため実戦的に危険な意味があります。

 

この手に▲57銀と上がった局面が下図です。

 

 

振り飛車は手が広いところです。

 

セオリーで言えば、△74歩は指しておきたいでしょうか。△73桂や△73角、△84角の角の転換を可能にする等の意味の他に、高美濃に対する定番の▲75桂の攻め筋に備える意味もあるので、高美濃にしたら突きたい歩です。

 

また、5筋位取りの仕掛けに備えるという意味では、△41飛(▲45桂に対して角を51に引く余地を作る)や△12香(▲11角成の緩和)も有力手に見えます。

 

自分の使っている将棋AIでは、なんと△54歩と早々に反発する手を推奨してきます。これはこれで面白そうな手です。

 

となると、何をどう検討すればいいのか迷ってくるわけですが、逆に言えばどの手を選んでもそれなりには戦えるという事かと思います。

 

では実戦的に何を選ぶべきか個人的な価値観で判断しますと、やはり▲75桂を消す△74歩は指したいところであり、▲56銀で仕掛けの形を作るなら、先程は△32銀型のままにして押さえ込まれたので、△43銀と上がって上部に備えるのも自然な手だと思います。

 

下図(△43銀まで)を第三図とします。

 


次回、この第三図から、居飛車の応手ごとに変化を見ていきたいと思います。