今回は嬉野流が▲46銀型を作ってから、▲35歩とする仕掛けを見ていきます。

基本図は下図(△52金左まで)です。

 

 

ここで▲35歩と仕掛ける手は、早仕掛けに対して△35同歩と応じない指し方と合流しますので、前回の記事をご参照ください。

 

今回は、ここで▲79角とします。

 

▲79角に対して、本当は仕掛けられる前に△42角と指しておきたい気持ちがあるのですが、居飛車には▲76歩で居角のラインに戻る余地があるので、迂闊には指せない事情があります。

 

ただし、▲76歩+▲79角+▲46銀+△33角型の状態で後手の手番なら、△45歩が銀と香の両取りになる事もあり、振り飛車が△33角型の状態を維持するなら、居飛車も迂闊には▲76歩を突けません。

 

居角のラインと引き角のラインを使い分けられるのは振り飛車にとって厄介ですが、居飛車にとっても何も考えず好き勝手できるわけではありません。

 

▲79角には、△94歩と端をついておくのが無難でしょうか。△82玉から囲う手もありますが、61の金が瞬間的に浮いてしまいます。

 

この△94歩に対して、▲35歩と仕掛けてみます。

 

 

嬉野流側が居玉の時は、ここで△45歩と反撃するのが最善の対応でした。今回も悪い手ではありません。

 

ただ、今回は▲78玉型のため、(「嬉野流 #2 ~最強の居玉棒銀 part2~」の記事もご参照いただきたいのですが)部分的に△88銀のような手がなくなっていたりします。

 

また、△45歩▲34歩以下の変化の時、△34飛を防ぐのに▲35銀と打った局面について、居玉の時と▲78玉型の時を比較して見てもらいたいのですが、明らかに▲78玉型の方が安全な位置にいるのがわかると思います。

 

 

居飛車が囲っている間に、振り飛車も△94歩や△54歩を指せてはいるのですが、将棋AIによると、上の居玉の局面の評価値は300点ほど振り飛車に振れますが、下の▲78玉型の局面は20点ほどしか振り飛車に振れません。

 

わずか二手を玉の移動に費やしただけで、ここまで変わります。

 

これは振り飛車の△94歩や△54歩が悪手というわけではありません。例えば、△94歩や△54歩に代えて、美濃囲いを完成させた局面の評価値を見ても、似たような値になります。

 

つまり、居飛車が78まで玉を移動させた手の価値が、めちゃくちゃ大きいのです。対抗形では、最低限は囲わないとダメらしいですね。

 

このように、居飛車の陣形が強化されていますので、▲35歩に対して△45歩と反撃する手は、ない手ではないにしても、戦い方がやや強すぎます。

 

こうした事情で、今回の課題局面では、▲35歩に△42角と引いて、▲34歩の取り込みが角に当たらないようにしておくのが最善の対応になります。

 

 

次に振り飛車からは、今度こそ△45歩があります。

 

ここで居飛車の候補手が広いので、1つずつ見ていきましょう。

 

(1)▲76歩

 

振り飛車が△45歩と指してきた時に、▲88角と戻る手を準備した手です。

 

ただし、△45歩の前に▲88角と戻ると、振り飛車に△35歩と普通に取られてしまいますので、ある意味では振り飛車に手番を渡した手です。

 

振り飛車は手待ちする手もありますが、△45歩と△35歩が本線でしょうか。

 

(A)△45歩

 

▲同銀△35歩▲88角△33桂で互角。振り飛車は銀が取れそうですし、いいところで△64角もありますが、居飛車にも▲24歩や▲11角成が見えているので、油断なりません。

 

 

(B)△35歩

 

▲同銀に△45歩が狙いの一手。▲46角や▲46銀のような符号を消しつつ、△33角と戻った時、先手になります。

 

 

居飛車は止まれなくなったので、▲24歩△同歩▲同銀と出ますが、そこで△64角が入ります。以下、▲26飛△19角成▲23銀不成△31飛▲22銀不成△34飛▲23飛成△64馬が一例。形勢は互角です。

 

 

 

(2)▲55歩

 

5筋から来るのも嬉野流の常套手段です。ただ、危険度がわかりにくい部分もあり、実戦的に迷いやすい局面という印象です。

 

(A)△45歩

 

▲同銀△35歩に▲54銀と出る手を許します。これでも形勢は互角ですが、こういう手を許すと嬉野流のペースになってしまうと思います。

 

 

(B)△55同歩

 

居飛車が▲同銀なら△35歩と取れます。そこで▲46銀と戻るなら、△36歩もありますが、今度こそ△45歩が有効です。▲同銀は△55歩と打ち、銀挟みの形になります。

 

 

よって、△45歩には▲35銀ですが、△53角と覗かれると痺れます。▲38飛には△34歩で銀損が部分的に確定ですし、▲26銀や▲36歩なら、△64角と出て振り飛車が好調。

 

▲34歩には△同銀▲同銀△同飛▲35歩△54飛(△同角は▲同角△同飛▲44角でダメ)▲26飛(△64角を緩和して、△64角に▲65銀を用意)に△82玉と手を渡す感覚が大事なようです。

 

 

歩切れの居飛車は指す手が難しくなっています。もし▲65銀と銀を手放してくれれば、△55飛▲56銀△85飛のようにかわし、▲24歩△64角のように攻め合って十分です。

 

 

(3)▲34歩

 

△同飛は▲35銀でダメですので、△同銀と応じます。

 

ここで▲35歩△43銀なら、互角ですが、ひとまず嬉野流の攻めは止まります。

 

よって、▲38飛と3筋に力を溜めてくる手を今回は深堀します。この場合、△43銀で飛車交換を目指すのが振り飛車の常套手段。

 

居飛車陣も▲58金右を保留しているので、飛車交換後に▲39金のように指しておけば、すぐに悪くなるわけではありませんが、普通は交換を拒否するところでしょうか。

 

△43銀以下、飛車交換を拒否する順について、分岐を考えていきます。

 

(A)▲28飛

 

△45歩▲35銀(▲同銀は△44歩)△64角▲37歩△36歩▲26飛△37歩成▲同桂△53角で居飛車が困るようですが、じっと▲36歩と耐えて、△34歩に▲45桂△62角▲24歩△35歩▲23歩成△34飛がAIの示す一例。

 

最善の応酬が続けばいい勝負ですが、振り飛車の方が指し手がわかりやすいでしょうか。

 

 

 

しかし、ごちゃごちゃしてて難しい戦型ですね。自分の棋力が低いだけかもしれませんが。

 

 

(B)▲35銀

 

 

この局面で振り飛車が一番気を付けるべき手は、▲34歩(押さえ込み志向)だと思います。

 

▲34歩に代えて、▲24歩△同歩▲28飛(△64角に▲24飛を用意)も警戒すべき手で、このように△64角を牽制されると、案外手に困ります。△34歩には▲24銀です。

 

ただし、そのように▲28飛型になったからと言って、すぐに▲24飛と走れるわけではありません(△同角▲同銀△26飛で振り飛車よし)。

 

▲28飛型では、▲34歩は当然△同銀で問題ありません。また、すぐに▲24銀と出るなら、▲24飛が消えるため△64角が有効になる構造になっています。三間飛車の利きが直通してくるので、▲37歩と受けても△36歩が強烈です。

 

 

 

よって、▲24歩△同歩▲28飛には、落ち着いて△45歩(後の△64角に対する▲46角を消す)~△22飛のように指すくらいでも振り飛車的には戦える局面でしょう。

 

 

こうした状況を鑑みて、戻って▲35銀と出てきた局面では、▲34歩を最も警戒するべきではないかと考えます。これを打たれると、振り飛車が押さえ込まれてしまい、実戦的に明らかに勝ちづらくなると思います。

 

そこで、(B)▲35銀の局面では「敵の打ちたいところに打て」で単に△34歩と打ち、▲24歩△35歩▲23歩成のように攻め合うくらいが、実戦的な落としどころではないかと思います。

 

ただし、▲35銀に対して、AIの示す最善の手順は△64角▲46角(▲46歩なら△34歩)と居飛車の角を出させてから、△53角と戻り、△45歩(角に当たる)を狙う順のようです。単に△53角では先手でないので、▲34歩や▲24歩△同歩▲28飛を指せるところでした。

 

 

△53角以下、▲57角△45歩に▲34歩なら△64角。▲24歩△同歩▲28飛には△35角です。

 

通常の対抗形と違い、角が向かい合っていないため、小技を駆使する順が多く、非常に複雑になっている印象です。

 

ただ、もし局面がよくわからない場合でも、焦らないことが大切な気がします。

 

「わからない」という事は、ある意味、明らかにすぐ悪くなる順がない可能性も高いと思いますし。

 

実際、候補手を見ていると、最善手はともかく、第三、第四候補手くらいなら、△95歩とかが挙がってくる局面も多く、それを指しても評価値があまり変わらない感じもあるのです。

 

特に早指し戦であれば、下手な手を指さずに、手待ちする勇気も実戦的には必要かもしれませんね。

 

ここまでで、この嬉野流の仕掛けについては、概ね見れたような気はしているのですが、ここから少し何となく気になる局面について、補足的に調べていきます。

 

 

①▲26銀+▲46銀型から▲35歩

 

 

二枚銀で35に力を更に集めてきたケースです。見た目的には押さえ込まれる感が凄いです。

 

しかし、仕掛けまでに手数がかかりすぎており、振り飛車の美濃囲いが間に合います。

 

また、右銀が上ずっている分、△64角も刺さりやすくなります。

 

▲35歩以下、△64角▲37銀右△45歩▲同銀△35歩▲46銀△44歩で駒得が確定し、振り飛車よしです。

 

 

 

②▲37銀型から▲35歩

 

 

△42角に▲36銀と出るのが狙いで、以下、△72銀▲34歩△同銀に▲37歩(△64角対策)と我慢しておき、次に▲35銀左から攻めていこうという方針です。

 

▲37歩には、3筋はもはや支えても仕方ないので、△22飛とじっと寄っておくくらいでしょうか。▲35銀左△同銀▲同銀の後の▲24歩には△同歩▲同銀△同角▲同角には、△35(15)銀があるので、簡単には潰れません。

 

 

 

 

③▲58飛型から▲55歩

 

 

居飛車が5筋に回ってから▲55歩と突くケースです。これにも△45歩と反撃します。

 

以下、▲同銀△55歩▲35歩△同歩▲34歩△42角▲35角△44歩▲同銀△34飛▲43銀成△同金▲79角△56銀が一例で振り飛車よし。

 

 

銀交換になっても、居飛車に有効な使いどころがなければ大丈夫です。△34飛のように▲41銀を手順に回避する手が有効なようです。

 

 

 

以上で、嬉野流については一区切りとしたいと思います。

 

実際この形を調べてみると、この検討を始めた当初の予想よりも、変化がごちゃごちゃしていて難しいと感じたのですが、案外、振り飛車の反撃手段は、△45歩を突いたり△64角と出たりするくらいのため、わかりやすい部分もあります。

 

振り飛車側の陣形としては、美濃を目指す事よりも、△43銀、△72玉、△52金左、△54歩のような手を優先する方が良さそうです。最低限、振り飛車舟囲いまで囲えれば、十分戦えると思います。

 

あとは可能な限り、▲41銀(割銀)を喰らわない+飛車を捌くために、「△34飛」のような符号を作る事を目指すべきかもしれません。この符号が出てくれば、おおむね振り飛車ペースのような気がします。

 

あとは読みの能力と根気でしょうか。実戦的には粘り強く指す気持ちが大事な将棋なのかなという印象です。