「はじめまして。
   外科の与田(よだ)と言います。」
   

   やはりちゃんと胸のネームプレートを
   示してくれた。


  「あ、はじめましてって言うか
   執刀したんですけどね」と
   はははっと照れ笑いをしていた。


   本当にこの人が
   5時間にも及ぶ手術をしてくれたのか?!
   と疑ってしまうほど
   (いや、偏見ですよね、すみません)
   


   穏やかな物腰の与田医師。
   
   
  
   
   「それでですね。
   基本の主治医は
   消化器内科の 武藤先生なんですが
   なにぶんとてもお忙しい方で
   入院中の海山さんの様子は
   私が診ると言う事になりまして、、」

   ちょっと申し訳なさそうに首を傾げて
   照れ笑いを浮かべた。


  「あ、でもですね
   開腹してびっくりしたんですが
   なかなか稀に見る症例でして
   私も注意深く海山さんの経過を
   見させて頂きたいと思っています。」
 

  「わかりました。
   よろしくお願いします。」

   
   私の返事を聞いて
   少しホッとした表情を浮かべた与田医師は


  
  「あ。食事は明後日からになります。
   少しの間
   ほかのみなさんの食事の匂いが
   気になってしまうと思いますが
   点滴で必要な栄養は摂れているので
   ちょっと我慢してくださいね。
   あと気になる事、何かありますか?」


   「あー…特に、大丈夫です。」


   「そうですか。
    私は多分、午前中か夕方
    こんな風にお邪魔すると思いますので
    その時いろいろ聞いて頂いて
    構いませんので。」


   「わかりました。
    ありがとうございます。」


   「では
    また明日お邪魔します」と
    ぺこっと頭を下げて
    与田医師は通路に出て行った。



    うん。あたりの柔らかい先生だ。
    
    武藤先生って
    あのバカ凄い内視鏡の名手?
    
    あんまり顔とかわからないけど
    なにかと忙しいって言うのは
    分かる気がする。
    けど退院までにはお礼言いたいなぁ。
    

    そんなことを思いながら
    その日は就寝した。




    次の日。
    午前中は先生方の回診があるそうで
    担当医ではない医師が
    研修医や看護師数人を連れて
    各患者の様子を診て回る。


    私のところにも知らない医師が
    (知っているのは与田先生だけ)
    やって来て
    看護師さんのノートパソコンを
    確認しながら


    「はい。おはようございます
     術後の経過ですね〜
     お腹のキズ見せてくださいね」


    そう言ってささっと看護師さんが
    私のお腹のガーゼを剥がした。


   「うん 、いいですね。
    傷口は問題ないですね〜」
    と大きめのピンセットで
    消毒液を含ませた
    大きめの綿球を取り傷口を消毒した。


    その医師は次の患者へ移動した。
    看護師さんが傷口に
    ガーゼを貼っている後ろから
    与田医師がひょこっと顔を出した。


   「あ、海山さん。
    また後からきますねー」と
    口の横に手を広げ
    コソっと必死に伝えて来るのが
    妙におもしろくて笑ってしまった。
   
    いっっ痛〜、、、
    笑うと傷が痛いって!
    と思いながら私は不思議な安心感に
    包まれていた。