「そういう事っ。今日はウチらのイベントだし、楽しんでってよ!Lilyちゃんっ」

「Lilyちゃんって言うの?早いなぁお前は。よろしくね、Lilyちゃん。俺はMCしてますNobです。」
そういうと、Nobと名乗る男性が握手を求めてきた。

「いや、私はLilyちゃんとかじゃなくて…」
握手をしながら、自分の名前を訂正しようとしたが、すぐに遮られた。

「楽しんでね、Lilyちゃん。ワタシは嫁パンツ!可愛い名前でしょっ?」
反対の手も奪われ強めの力で握手され、抱きつかれた。

「おー!ヨメぇ!遅刻ぅ!」
訂正する間を完全に失った空気の中、荷物を踏まない様に、奥から男性が大きな声で歩いてきた。
薄暗く、ネオンやブラックライトで光る場所を抜け、カーテンを潜ると、そこは荷物が地面に無造作に置かれた場所だった。
顔はしっかりと確認出来ないが、男性が普通に着替えていて、三人組の女性が並んで同じダンスをダルそうに踊っていた。

「オハヨー!ごめーん遅刻だぁー!」

「おいーリハ終わっちゃったぞー?大丈夫なんだろうなぁ?」

「ゴメンゴメン~言い訳はしないっす!任せてよ!ブチあげてくからっ」

大きな音の中の会話で、聞き取り辛かったが、彼女と相手の男性の声も充分大きく、私の耳を通ってグワングワンと頭を揺らした。

「お?この子は?知り合い?初めて見るねぇ」

「あぁ、何かね、エントランスでcheckされてたからさっ一緒に入ってきちゃった~」

「お前なぁ…また…」
「あー!ゴメンゴメン!わかってるから!言わないで!でもさぁ、なんかほっとけなくなっちゃってさ。」

「あの…すいません。迷惑かけちゃったみたいで…今からでも、私出ていきます。」

「あーいいよいいよ。もうコイツのこれは今に始まった事じゃないし。せっかくのイベントだから、楽しんでいきなよ。」
男性が近くに来て目線で彼女を促して笑いながら言った。
「Leukクン~この子、ウチのcrewのスタッフなのよ~。だから一緒に入るけど、いいよね?」

肩を掴まれ、男と私の間に、フワリといい香りのする綺麗に整えられたパーマ頭が飛び込んできた。

「ホントかぁ?頼むよ?最近はオマワリもうるさいんだからな。」

「ホントホント。悪いね、いつも。後で下の子に差し入れさせるからさ。」
男と複雑な握手をし、肩を当て、こちらに振り替えったその姿に、私は目を奪われた。

水着に近いくらい肌を露出して、首にはキラキラと大きなアクセサリーが光り、独特の香水の香りがする女性は、私とたいして身長の差がないはずなのに、何故か一回り大きく見えた。

数秒のあいだ、その姿に目を奪われていると、彼女は焦ったように私に顔を近づけてきた。

「ちょっと、何ボーッとしてんの!【Lilyちゃん】!荷物半分持ってよ~遅刻してんだから~」

自分が【Lilyちゃん】なんて名前じゃない事はわかってたし、目の前の女性が知り合いじゃない事もわかっていた。
しかし、突然の事で身体が反応を遅らせていた。

肩を再度掴まれ、入り口の大きなドアを、半ば強制的に抜け、カウンターに座る女性に挨拶を交わし中に入っていく。