雄一と智恵は、毎日のように連絡をとってはいるものの、互いに家庭もあるため、なかなか逢うことはできなかった。
唯一、堂々と逢える場所が、智恵の店だった。
しかし、そこであまりにもプライベートな会話ができるわけもなく、互いのフラストレーションは高まるばかりだった。

「今日、お店休んで、雄一に会いにいく」
智恵は突然、雄一に電話をした。
雄一は困惑した。智恵が逢いたいという気持ちもわかるし、自分だってそうだ。
しかし、その日の雄一は、月末の多忙な日々の中でも最も処理業務の多い日で、とても時間をつくることは不可能だった。
それが、好意を持った女性のためであっても、仕事に穴はあけられない。
「智恵、今日は無理だ。追って逢える日を決めよう」
「そう言って、いつまでも逢えないじゃない・・・」
智恵は泣く。
雄一にも、どうにもできなかった。ただ、智恵の気持ちは理解していたから、近々必ず時間を作ることを約束した。

5日後に、雄一と智恵は外で逢う約束をした。
充弘と祥子は二人ともマイカー通勤のため、途中の駐車場でとりあえず待ち合わせ、祥子の車に二人で乗り換えた。
「どこ連れてってくれるの?」
と、無邪気に充弘が言う。
「充弘さんこそ、どこ連れてってくれるんですか?」
祥子もそう返す。
子供のように騒ぎながら、着いたのは普通の居酒屋だった。

「で、祥子ちゃん、新婚生活はどうよ?」
祥子は半年前に結婚したばかりだった。
夫とは共通の友人を通して知り合い、意気投合し、一気に同棲、結婚、と、その間半年だった。すなわち、知り合って1年ということになる。
夫とはそれなりに上手く行っていた。
特に大きな不満もなく、幸せに過ごしていた。

充弘は、2人の子供がおり、会社でも有名な「家族自慢屋」だった。
奥様も聡明で美しい。
誰もが憧れるような、幸せを絵に描いたような家庭を持っていた。

互いに、自分の家庭の自慢をし、ここでも子供のようにはしゃいだ。
充弘は不思議な空気がある。何故か人を素直にしてしまうのだ。
祥子も、思うままに笑い、思うままに照れ、おおいに話しをした。

その日は車だったので、酒は飲まず、次回は酒を飲めるところにしよう、と、次回の約束までしてしまった。
なぜか、悪い気はしなかった。
そして、充弘を車をおいてある駐車場に送り届けた。
次の日。
ランチの時間が来てしまった。
今日ほど、この時間が楽しみで不安げな時があっただろうか。

昨日のチャットで、二人は、どうにも気まずいままの時間を過ごし、互いの会社の話しなどを当たり障りなくし、ログオフした。
今まで、いろいろ話しをしてきた相手と、明日会おうとは思いもしていなかったのだから、仕方ない。
あさみは、会社をずる休みすることまで考えたが、俊彦を嫌なわけでもないのに、気恥ずかしさだけで、そんなことをするのは、あさみらしくない、と考え直した。

ランチタイム。
このビルのほぼ全員が同じ時間に食堂に集合する。
週に1回、あさみの会社では、昼休みの電話番があるのだが、この日はその当番でもなかった。
一人で食堂に向かうと、一人で席を取っている俊彦がいた。
あさみは決死の覚悟、というくらいの勢いで言った。
「ご一緒してもよろしいですか?」
仕事柄、人と接することには慣れているはずなのに、あさみは不覚にも少し震えていた。
「どうぞ」
俊彦も、ややうわずった声で答えた。

この日が二人の初めてのランチになり、それは段々、日常の出来事となった。
浩昭は、曲作りに関するセンスがとても良かった。
真希も浩昭の作る曲の世界が昔から気に入っていたし、しかし、学生当時では年齢の差を感じていたことから、一緒にバンドをできるとは思っていなかった。
社会人になってしまうと、5才の差は、たいした差ではないのだが。

この日は、浩昭と食事をし、曲の世界観の説明をうけ、それについてを話し合った。
詞は真希に一任する、ということだったが、真希は、詞を作る時は曲の世界観をしっかり掴んでから、それをイメージに変え、言葉に変換していく、という方法だったので、浩昭の世界観を知ることが必要だった。

浩昭は、青年であり、少年でもあった。
とても無邪気な曲もあり、シビアな曲もあり、オリジナル作成からしばらく離れていた真希にとって、創作意欲を持たせるには充分なものだった。

その日は3曲分の音源をもらい、次週までにある程度の骨組みを作って、真希が浩昭に歌って聴かせる、という約束をし、その日は別れた。

一人になって、真希は何度も浩昭の曲を聴いた。
曲を聴くほどに、浩昭という人間がわかってきた気がするし、浩昭に触れている気がしていた。
そして、言葉は考える間でもなく、曲にのせて、生まれてきた。
自然な流れの作詞だった。
通常、曲を聴き込んで、実際に詞をのせるまでに数日かかってしまう真希にとっては、恐ろしいほどの早さだった。
それだけ、浩昭の曲は真希にとって魅力的で、また、真希を様々な面からそそるものだったからだ。
そして、浩昭自身の魅力にも、惹かれている真希がいた。
自分に言い聞かす。人間としての、作曲者としての浩昭に惹かれているのであって、男性としての彼に惹かれているのではない、と。
次の日、またしても、亜由美は本社に行くはめになった。
正直、洋之に会うのが憂鬱だ。
「あなたが相手だと緊張する」なんて、意味深でもある。
そして、その方向に脳が動いてしまっている自分が嫌だった。

案の定、本社に入ってすぐに出くわしてしまったのが洋之だった。
「おう、昼飯、くった?」
唐突な言葉に、考えるヒマも無く、
「いいえ・・・」
と答えた。
「じゃさ、俺今からだから、一緒に行かないか?店長には俺から言っておくから」
半ば強引な感じではあるが、洋之と亜由美はランチを一緒にとることとなった。

「今さ、部下探してるんだよ。俺一人じゃ手が足りなくてね・・・」
近くのカフェで座り、ドリンクを飲みながら洋之は言った。
洋之の仕事は、次の店舗の候補を探したり、交渉をしたり、という、亜由美の仕事とは全く違う、管理部門の仕事だった。
「キミさ、店終わってからでいいから、やってみない?新人研修の時からね、キミと働いてみたいと思ってたんだよ」
あまりに唐突で、返す言葉も無かった。
洋之は続けた。
「店舗開発ってね、難しいけどやりがいあるよ。俺は好きでやってるけどね。もし少しでも興味あったら、残業扱いでやらないか?」

洋之と、亜由美の店の店長は、部署は違えど同期で、かつ仲が良かった。
店舗での亜由美の誠実な働きぶりも、店長の口から洋之に伝わっているのだろう。
亜由美も、正直、興味がないわけではなかった。大学で学んだのはマーケティング論だったし、現在の仕事も続けながら、違った仕事に携われるのは、キャリアアップのチャンスかもしれない。
「店長と相談してもいいですか?」
亜由美は届いたパスタをフォークに絡めながら、聞いた。
「店長はいい、って言うと思うよ」
洋之はまた、意地悪そうな顔で笑った。

そうして、次の週から、週1回、残業時間を利用して、洋之の店舗開発のアシスタントをすることになった。
そうですね、全てに満足できるパートナーがいれば、複数恋愛や不倫は起こらないのかもしれません。

しかし、一部では、止められない何かがあるんですよね。
「隣の芝生は青い」ではないけど、配偶者のいる人に惹かれる性癖を持つ人もいるのが不思議なんですが・・・。

私の物語の中では、様々な主人公が不倫をしています。
私の脳内や、実体験や、友人からの話しがモチーフになっている訳ですが、元ネタがある、ということは、それだけ不倫がある、っていうことですよね・・・。

今日はそれぞれのカップルの「出会い」について書きました。
今後は、それぞれのカップルがどのように進展していくのか、または壊れていくのか、見てみてください。
テーマがテーマなだけに、ハッピーエンドは期待できないことが多いですね・・・。
ぐちゃぐちゃに壊してしまった。
じっくり育てれば良かったものを、智恵は自ら、ぐちゃぐちゃに壊した。

雄一は、智恵の店の客だった。
初めての水商売で、緊張している智恵に優しくしてくれたのが、雄一だった。
客が店の人間に気を使うというのが、もうおかしな話しだが、雄一のその優しさに智恵が惹かれていくのに、そう時間はかからなかった。

智恵は、夫とのセックスレスに悩み、一人暮らしをしていた。
雄一は、家族との不和から、家庭に居場所を見いだせないでいた。
そんな状況も手伝ったのか、二人は急速に接近していった。
毎日のように電話をし、もう、店のホステスと客の関係ではなくなっていた。
プライベートでの接触の方が、多くなっていた。

智恵は、それまで、男性を信じることができなくなっていた。
過去の不毛な恋愛の結果、男性に依存するわりには、心を許すことはなかった。
雄一に対しても、それは変わらなかった。
雄一がいないと、不安でたまらないのに、雄一を心から信じることはなかった。
どうせ、いつか、自分からは離れて行く男だと、諦めの気持ちを最初から持っていた。

そんな智恵に対しての雄一の態度は、誠実だった。
堅く閉じこもった智恵の気持ちを、少しでも凝りほぐすように、ちょっとでも智恵が不安になると駆けつけ、その不安を解決するようにしてくれていた。
そして、智恵は、雄一を信じる、信じない、の間で毎日揺れるようになり、徐々に信じる気持ちになって行った。
その頃には、智恵にとって雄一はなくてはならない存在になっていたし、雄一にとってもそれは同じだった。
彩は短大を出、とある会社に就職した。
会社、というより、小さな事務所、といった感じのそれは、社長をはじめ、アットホームな雰囲気で、社会人1年生の彩には心地よい場所だった。
5月病にかかることもなく、伸び伸びと仕事をしていた。

彩の主な仕事は、来客応対と電話応対。小さな事務所の看板受付嬢である。
やっと、お得意様の名前と顔が一致してきたころである。

来客には、いろいろな業種の人間がいる。
彩の会社は、広告を募集、編集する会社で、それ関係のお得意様が来社するのももちろんだし、その他に業者達も出入りする。
最初は、誰が直接の仕事相手で、誰が業者なのかもわからなかった彩だが、最近はもう、「彩ちゃん」と呼ばれるまでになっていた。

会社には、保険会社の人間も出入りする。
社長が気に入っていることから、保険会社はG社と決まっていた。
G社以外からの売り込みがあった場合には、電話も飛び込みも断るように、と社長から言われるほどの徹底ぶりだ。
G社の営業マンは、弘樹という青年だった。
25才という年齢のわりには、落ち着いており、50代の社長をうならせる、敏腕な営業マンである。そこに社長も惚れ込んでいる。

彩も、例にもれず、弘樹の保険に入ることになった。
「彩さんだったら、まだお若いから、保険料もお得だよ」
と、当然のような営業トークに営業スマイル。でもそれが嫌みでもわざとらしくもない。
彩は保険のことには疎く、社長も、弘樹に任せておけば安心だ、ということから、弘樹の勧める保険に加入した。それは保険料が異様に高いものでもなく、彩が必要と思われる、最低限かつ充分な補償がついているものだった。

ある日、彩は銀行におつかいに出かけた。
そこで偶然弘樹に会う。弘樹も銀行での用事を足しに来ていた。
「あ、弘樹さん、こんにちは。先日はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる彩に
「いえいえ、こちらこそ信用して加入してくれてありがとうございました」
と、丁寧に弘樹は返した。

ふと気がついた。
彩は弘樹が好きだった。
彩は、自分の気持ちに対して、鈍感だった。
弘樹から会社に電話がかかってきた時、なぜかうれしかったこと、弘樹が来社した時にはなぜか心が踊ったこと。
それらが恋心とは、彩自身が気づいていなかった。
充弘と祥子は同じ会社の他部門で勤務している。
仕事の内容上、顔を合わせる機会が多く、祥子は充弘に兄貴分のような信頼を寄せていた。

その日もいつも通り、仕事で顔を合わせ、とりとめのない雑談の中、充弘は、
「俺ね、前から祥子ちゃんのファンなんだよ」
と言った。
もともと、充弘は、軽い感じがするため、祥子も、
「私も充弘さんのファンですよ」
と、同じく軽く返した。
そのうち飲みに行こうね、という、祥子にとっては社交辞令の言葉を残し、それぞれの部署へと戻った。

そんなことも忘れていた数日後、社内メールに充弘からメールが入った。
「今日、かみさんが実家帰っててメシないから、一緒にどうですか?」
祥子も結婚していることから、気軽な返事はできない。
しかし、
「いいですよ。主人には別に済ませてもらいます」
という返事をだしていた。

そして、仕事が終わった後、メールで連絡をとり、充弘と祥子は食事にでかけた。
「誰か、歌える子、探してるんだけど。」

5年ぶりに見た浩昭だった。
最後に会ったのは、真希が所属する音楽サークルで卒業ライブをした時の打ち上げだった。
「あれ?真希ちゃん、まだ歌ってる?」
その日は企画ものの一回限りのバンドのミーティングで、スタジオを終えた後にファミレスで話していたところだった。
メンバーの中に、浩昭の親友がいて、浩昭を呼んだようだった。

5年ぶりの浩昭は、5年前のままだった。
とても30を越しているとは思えない、若々しい風貌で、真希が密かに好きだった笑顔も、そのままだった。
浩昭は、ワーキングホリデーでカナダに行っており、1ヶ月前に帰国したらしい。

「真希ちゃん、歌ってるんだったら、今オリジナルで曲つくってるんだけど、一緒にやってみない?」
思わぬ誘いに、真希は躊躇したが、サークル内でも姉御肌の真希は、心の中の動揺を隠し、
「いいんですか?私で。オリジナル、あんまり経験ないんですよ~」
と笑顔で答えた。

その日は電話番号を交換し、後日、再度、曲作りやメンバー集めについて話し合うことにし、その場を後にした。
真希の心に動揺は走ったが、それは恋にはならなかった。
なぜなら、浩昭の左の薬指には、プラチナの指輪がはめてあったから。