ある日『続日本紀』をペラペラめくっていました。

そしたら、三つ子ちゃんを生んだお母さんに、絁（あしぎぬ）とか、稲とか支給したり、乳母を1人を付けてあげるっていう行政支援の史料を見つけちゃったの。

※あしぎぬ…太めの糸で織った目の粗い絹。

ほかにもいくつか多胎出産の女性への補助がありまして、

これは、面白い！

集めてみよう！

そう思ったわけです。

というわけで、六国史から多子出産の記事を集めてみました。

六国史とは…

『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『文徳天皇実録』『三代実録』の６つの歴史書ですね。

検索に使ったのは↓のサイト。

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www.kikuchi2.com

「菊池眞一研究室」というHPです。

大変お世話になりました。ありがとうございました。

思ったより壮大な表になりました💦

全部で37件。

典拠となった六国史のうち、一番多いのが『続日本紀』の18件。

『日本後紀』10件、『続日本後紀』4件、『三代実録』3件、『日本書紀』と『文徳天皇実録』が1件ずつ、という内訳。

三つ子以上

基本三つ子ですね。四つ子もいますので、支給対象は三つ子以上となります。

ただし、1件だけ、双子を3回出産した女性も対象となっています。

諸国

都はもちろんですが、常陸や下総、備後から、土佐、佐渡、壱岐など、ずいぶん遠いところからも出産情報が伝わってきています。

しかし、東北（奥羽、出羽）はないですね。

東北はやはり、律令的な社会の範疇じゃないんだなと感じました💦

つまり、ガチで朝廷の支配下に入っているわけではないってことかな。

いかんせん37例しかないので、なんとなくですよ。

四国は土佐と阿波。九州は壱岐の情報がかろうじて上がっている…。

ちなみに、飛鳥時代の「都」は藤原京。

奈良時代の「都」は平城京。

乳母

三つ子さん以上を生んだ女性には、乳母をあてがってもらえる。

これ、めっちゃありがたいですよね

ちなみに、829年因幡国の場合、

「充乳母一人三箇年粮料。」

とあって、乳母1人、3年分の粮を充当するってあるのよ。

つまり乳母を1人用意するじゃない？

その乳母への食事代（つまり賃金）を国が支払いますよってことでしょ。

834年の加賀国の場合には、もっと明確に、

「及乳母一人公粮。」とある。

「公」の「粮（食料）」よ？

公費負担、国が払ってんのよ。

つまり3年間、乳母、使い放題よ！

なんて素敵な行政サービス

現代で、こういうサービスは無理かなぁ。

自治体によっては、保育・お手伝いママみたいな制度があると思うのですが、

なんか、使いずらかったな。

保育ママのリストを見て、

（当然なんだけど）こちらから連絡しないといけないとか、

あまり気軽には頼めない感じとか、

自治体から配布してもらったチケット（当時は1枚800円分で20枚くらいもらったかな…）も上限ありますし。

特定の保育ママさんと関係を構築できれば、気さくに頼めるのでしょうが、

その境地に至るには、なかなか大変。

結局、アゲハは1度しか使えなかった。

上の子の卒園式のときに、下の子を見てもらっていた。

800円のチケットは3枚使いました。

それだけ。

とはいえ、アゲハも双子を生んだことないので、その大変さは想像できない。

しかも、三つ子って…。上の表には四つ子もあったよね…。

乳母3年間使い放題はとっても素敵だけど、

三つ子じゃないと支給されないのは、ちょっと残念。

支給品目

当初は、絁(あしぎぬ)や綿、布など支給する品目が複数ありましたが、

次第に稲に収斂していきます。

とりわけ801年の三河国のケース。

300束の稲を支給していますが、それ以降、ほぼ300束に収束したと推測できます。

（例外はあるけど💦）

乳母の記載がないことも多くあり、本当に乳母を付けてあげていないのか、

記載漏れの可能性はないのか、色々疑問もありますが、

アゲハとしては、

平安時代に入ってから、多子出産手当として稲300束と乳母1人（3年分）がスタンダードになっていった

…と、ざっくり考えています。

ちなみに、706年の山背国の双子3回のケース、
初回の双子ちゃんが、すでに大きくなっているので、
その子らに「大舎人」というポストを与えたとのことです。
初期にはこういうイレギュラーな対応もありました。

675年以前は？

初出は675年。

史料だと「相模国言、高倉郡女人。生三男。」と、

なにを支給したのか、まったく分からない（笑）

だから何？っていう、超絶シンプルな史料です。

672年が壬申の乱なので、675年といえば、乱に勝利した天武天皇の治世。

次の段落でも書きますが、この行政支援は戸籍・計帳の作成と密接な関連があると思うのです。

で、天武天皇と戸籍といえば、690年の庚寅年籍。

675年は庚寅年籍の15年前ですな…。

でも！！

それに先立って、天智天皇が庚午年籍（670年）を作っているので、

可能っちゃ可能だよね。

天智天皇時、多子出産への支援は確認できないけれど、

天武天皇の治世から、なんとなくスタートしたと考えたいと思います。

律令を本格的にスタートさせた天武・持統夫婦の政策って、思えてきますね！

その後は？

六国史しか見ていないので、10世紀以後、どうなっていくのか分かりません。

でも、あえて推測するならば、消滅したと考えています。

多子出産を見つけるには、戸籍や計帳の作成が前提となると思うので、

それらの形骸化・消滅と同時に、消えたのではないかと。

戸籍や計帳がいつ消滅したのかは、よーわからん。

なんか、自然消滅って感じ？

「廃止」という明確なタイミングがない。

ある程度目安を付けるなら、10世紀はもう終わってる感、ありますね。

まして中世では皆無だと思う。

（中世の史料をすべて読んでわけではありませんが💦）

なので、冒頭で言ったように「面白い」と思ったんですよね。

中世では、地方の三つ子情報が中央にまで届くことは、ない。

かつ、公家も幕府も、そんな情報は求めてない

情報があっても、そんな行き届いた行政サービスはできないし、

そんな発想もない（笑）

だからね、多子出産した女性への行政支援の史料を見つけて、

なんて律令的なんだ！

「自力救済」の中世にはムリ！

と、アゲハは思ったのでした。

たかが多子出産への公的補助を示す史料、しかもたった37件なんだけど、

中世と律令期の違いを如実に感じるな～と思ったのでした。

古代の多子出産支援