絵巻などで、都に牛車がいるのはみんな知ってるじゃないですか。

牛って、しますよね。

行列の中に騎馬の武官や武士、いますよね。

馬も、しますよね。

というわけで、糞（ﾌﾝ）にまつわる一場面をご紹介します。

使う史料は『花園天皇日記』です。

鎌倉時代後期の、持明院統の花園院の日記です。

鎌倉時代中期ぐらいから、天皇家の血筋って2つに分かれてましたよね。

いわゆる「両統迭立期」ってやつです。

その一方の血筋の方を「持明院統」と呼びました。

ちなみにもう一方は、「大覚寺統」と呼びました。

今回ご紹介する日記を書いた花園院は、

一般的にはマイナー天皇ですが、玄人間では有名です。

真面目で学問好きな天皇、そんなイメージです。

持明院殿という御所で、花園院はお兄さん(後伏見院)と同居してました。

持明院殿は「持明院統」の由来になった邸宅名です。

具体的には、相国寺の西側。

花園さんと後伏見さんの兄弟、けっこう仲がいいんです。

そんなお2人が、一緒にお出かけした時の史料です。

どこにお出かけしたかというと、祖母（玄輝門院）のところ。

場所は衣笠殿。立命館の衣笠キャンパスとかあるじゃないですか。あの辺。

細かくはよく知りませんけどね…。

『花園天皇日記』の元応3年正月25日条（西暦1321年）です。

正中の変（1324年）がもうそろそろっていう時代感ですね。

あるいは建長寺船が派遣された1325年も近いですね。

でも、日記はそんな時代感とは全く無関係です。

（さっくり現代語訳）

路上で（牛を）掛け替えていたら、牛のが上皇の牛車に付いてしまいました。召使を呼んで、四条隆蔭に柄杓の水を持ってこさせた。大宮季衡大納言が下馬して、その水を牛車に懸けて差上げた。

（原文）於路頭懸替之間、牛糞付上皇御車、以召次召隆蔭、被召水、隆蔭持参杓、大宮大納言下馬、奉懸御車水。

（１）

路上、というのが往路か復路かわかりませんけど、まあ「途中」ですよね。

牛を交換するときに、をしちゃって、それが牛車に付いちゃったというわけです。

牛車のどこでしょうかね。

轅（ﾅｶﾞｴ）の可能性が高いかな。輪や前板の可能性ある？

wikipedia「牛車」より　関根正直『宮殿調度図解』六合館書店、1905年

（２）

そして、柄杓の水を持ってくるのに、

召使・隆蔭・大宮大納言という3人が介在してます。

召使には具体的な名前が記載されてない。

花園さんに名前を認知してもらえるような身分ではないのは明らかです。

そして四条隆蔭から大宮大納言へ、きっちり身分順に水は手渡されている。

予想外なのは、大納言が自ら水をかける点です。

そんな汚い仕事、なぜ召使にやらせないのか。

そう思いませんか。でも実際には、

花園さん兄弟のお出かけのお供衆のなかで、最も身分が高い大宮大納言が水をかけている…。うーん。どういう論理なのか。

上皇さんの牛車に直接触れるような仕事は召使ごときにはやらせない、とか？

じゃあ牛車の掃除やメンテナンスは身分の高い方々がやるのか？

そんなイメージもないなぁ。

ひょっとして、ただ単に上皇所有の牛車というよりも、

今、まさに牛車のなかに上皇さんがいることがポイントなのか？

だから、大納言がもっとも牛車に近付くのにふさわしい人物ということか？

うん、そういうことにしておこう。

（３）

また、

1杯の柄杓の水をかけただけで、牛車に着いた糞は取れるのか？？？

どう思いますか？

それっぽっちの水で糞が取れるのかどうか…。

まぁでも、「水を懸けてさしあげた」とあって、その後「取れなかった」とか、

水追加した感じもないから、取れたと思うのが妥当だよね。

ホヤホヤ、新鮮なヤツなら取れそうだよね。

記主の花園さんも隆蔭も大宮さんも、慌ててる風情はないから、

おそらく、そんなに珍しいことではない。

しかし、牛車に付いた牛の糞が1杯の柄杓の水で取れるかどうか、なんて、

本当、どうでもいい史料だよね。

鎌倉末期なんだから悪党とか、訴訟とか、荘園とか、色々大事な史料があるのにね。

でも、どうでもいい史料ほど、頭に残っちゃう。

やっかいだよね。

そういえば、フッと思い出したんです、子供の頃の父の話を。

どんな話かっていうと、

私が生まれる前は、馬車も牛車も通っていた(田舎だったので…)。

当然、それらのは路上にあるわけです。

とても身近なんですね。

一応、ご存命なので、本人に確認しました！

結果。

牛の糞は、そういう状況なら1杯の水で取れるって！

ただし、衣類にかかったらアウト。

本当にどうでもいい話題なのですが、最後にもう少し続けてもいいですか。

牛の糞って、水分多いんですよ（wikipedia「牛糞」）。

逆に馬糞って、水分少なめらしい。

馬糞（馬ふん）肥料とは？成分や使い方を解説馬糞は戦前、農耕馬が多い時代では農家の方にとって主要な肥料の原料でした。現在では、戦前に比べて利用は減少していますが、競走馬の生産地や厩舎、競馬場の近くでは広く使用されています。馬糞肥料について知っておきたいことをまとめて解説します。

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同じ糞だけど、微妙に違うんですね。

牛糞は水分が多いから水を懸けたら取れた、ということも言えそうです。

牛のフン