納期に向け僕達はデザインを完成させる為に頑張った。
ただあれ以来、余計な会話や空気はそこには存在しなかった。
ようやく佐野さんも納得いくデザインが完成し、そこで宮田さんとは一旦お別れとなった。
僕は吉田さんと打合せを重ねつつ、工場でサンプル用の印刷作業に入った。
そして、サンプルも完成し、佐野さんが前田製菓と最終段階の打合せをしに行く日がやってきた。
会社には僕と牧さんが会議室でその結果を待ち、吉田さんも合流していた。
「水嶋、いよいよだな」
牧さんがいつもの調子とは違う真面目な顔で言った。
さすがの牧さんも緊張しているようだった。
吉田さんも初めて自分で立ち上げる商品だから凄く緊張しているようだった。
「失礼します」
三人が待っている会議室がノックされ、宮田さんが到着した。
「!!」
吉田さんが椅子から転げ落ちた。
「沙織?恵介、なんで・・・」
宮田さんは何も言わず吉田さんの元に進み、名刺を差し出した。
「今回デザインをさせて頂きました、宮田真帆です」
吉田さんも我に返り、名刺を交換した。
緊張した時間は続き、廊下から会話しながら近づいてくる声がした。
ドアがノックされ、二人の男性が入ってきた。
佐野さんと前田製菓の福井部長だ。
「部長!」
吉田さんが驚いた。
「話は終わったんだが福井さんが直接結果を伝えたいと仰るもんやからわざわざ来ていただいたんや」
テーブルにサンプル商品が並べられて若い4人は緊張がピークに達した。
福井部長が低い声で話し始めた。
「わが社で今回吉田が立ちあげた新商品を社内会議で検討した結果・・・」
4人は一斉に唾を飲み込んだ。
「その結果、静岡に回す事に決定しました」
僕と吉田さん、宮田さんがお互い顔を見合わせる中、牧さんが飛び上がった。
「やった~!おい、水嶋、やったな!」
「どういう事ですか?」
牧さんは緊張から解放されて饒舌に語り始めた。
「いいか、静岡に回すってことは販売決定、ていうかテスト販売決定ってことなんだよ」
佐野さんと福井部長は満面の笑みで牧さんの話を聞いた。
「静岡県ってのは日本の真ん中だろ?関東の味も関西の味も交わる場所なんだよ」
僕は牧さんの話に聞き入った。
「だから静岡県民てのは味の固定概念がないから静岡でテスト販売してそれから全国に回って行くんだよ!」
「おお!」
僕は立ち上がって無意識に宮田さんの手を取った。
「宮田さん!」
彼女もびっくりした感じでただただ手を取り合った。
「おいおい」
牧さんが素早く切り替えて僕達をおちょくった。
「やった~!!」
吉田さんがようやく事の重大さを理解し、大きな身体で万歳をした。
「まあ皆座れや」
佐野さんの一声で室内は冷静な空気に戻った。
「味も良いし、デザインも目に留まる。吉田、いいもの作ったな」
福井部長が吉田さんをねぎらった。
「水嶋、宮田さん、お前たちもよく頑張ったぞ」
佐野さんが僕達を褒めてくれた。
「会社はこの商品が将来エース級の売り上げになるだろうと期待しているぞ」
吉田さんが何度も福井部長に頭を下げた。
「こんな若い人たちがこんなにも素晴らしい商品を考えてくれたなんて、直接お礼が言いたくてね」
そういうと福井部長は会議があるのでと僕達を残して先に部屋を出た。
「やったな水嶋」
牧さんが僕の頭をくしゃくしゃにした。
落ち着いた後に佐野さんがそれともうひとつ・・・と切り出した。
「これを機会に水嶋には正社員として働いてもらおうと思うがどうや」
「えっ、本当ですか?」
佐野さんは僕と、そして宮田さんを見て優しく言った。
「それに、これからお前も守らなきゃいけないものが増えてくる、それにはちゃんとした生活もしていかなきゃな」
僕は目線を宮田さんに移した。
彼女はただ下を向いているだけだった。
あの夜以来ちゃんとした会話は無かったから僕には彼女が何を思っているのか想像できなかった。
「まあ、あとは自分で、自分たちで考えろや」
牧さんがニタニタ笑いながら僕達を見ていた。
僕は何ともいえない気持ちになって部屋を飛び出した。
「お、俺早速正式な発注書作ってきます」
「私も上司に報告しに社に戻ります」
宮田さんも逃げるようにその場から立ち去った。
「全く、煮え切らないやつらやな」
「そういう奴なんですよ、恵介は」
佐野さんが笑いながらいうと吉田さんも僕達が出て言ったドアの方を見ていた。
「ところで牧」
「なんすか?」
「頑張らんと、水嶋に追い抜かれるかもな」
「へいへい」
牧さんの調子のいい返事に会議室に大きな笑いが起こっていたのを僕は1階のオフィスで聞いていた。