ここへ来る汽車の窓に、曼珠沙華が一ぱい咲いていたわ。 あら曼珠沙華をごぞんじないの?
あすこのあの花よ。 葉が枯れてから、花茎が生えるのよ。
別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。 花は毎年必ず咲きます。
ー川端康成 化粧の天使達 花
男の人に花を贈るというのを
ずっとやってみたかった
女の子は結局花が好きだけれど
私は男の人にもプレゼントしたかった
電車や街中で花束を持っている男の人を見ると嬉しくなった
その花束が誰かに貰ってたものでも
これから誰かに贈るものでも
どちらにせよとっても素敵だと思う
ところでこの川端康成の詩は
非常にメンヘラだと思う
別れるくせに、毎年思い出して欲しいなんて
凄く女々しい思考
曼珠沙華というのは彼岸花のことで
そこそこ不吉な花言葉もついてる
彼岸花には毒があるし墓地に植えられる不吉なイメージがあるけど、外国人には人気だし
その赤い色から情熱っていう花言葉もついてる
ま、そんなのはどうでもよくて
きっと共感され続けるだけの理はある
私が次に付き合う男の人には
秋が来るたびに金木犀の香り大好きアピールをして
別れても毎年あの甘ったるい香りで絶妙にエモくなってもらうことに決めている
そういうちょっと安そうな女で良い
ムーンダストっていうのは
青いカーネーションのことなんですけど
カーネーションにはもともと青の色素がないので
青いカーネーションを作るのには時間がかかったから
幸せを願うっていうコンセプトがあるんですよ
なんでちょっと詳しいのかって
花言葉とかを狂ったように調べていた
乙女の黒歴史時代を経て
今の私があるからなんですけど
昼過ぎの渋谷区で
若くてファッショナブルなお兄さんが
一人で花屋に立っていた
カーネーションやかすみ草は
長く持つと言うから選んだ
ニコリともせずに淡々と話すお兄さんは
ちょっと東京の色をしていた
Y3の可愛いスニーカーに
デザイン性の高い黒のトップスを着て
身長が高いからカーネーションを引き抜く仕草すら様になって
勇気を出して降りた表参道のおしゃれさと
おんなじ匂いがしてた
一昨日買ったヒールの靴擦れを気にしながら歩く私は
そんな場所には似合わない気がした
それで
私が選んだのは青いカーネーションだった
永遠の幸福
もうその日で終わりにするつもりのその人に
渡すには少し酷な花言葉で
4度目の銀座 20時 A13出口
別に付き合っていたわけじゃないのに
煩わしかった時間の方が多かったはずなのに
いざさよならになると
なんとなくさみしい気もした
20時半
その人から貰ったものはまだ私の手元にある
タイのお土産の匂いの強いハンドクリーム
仕事で扱っていた商品のサンプル
いつ使い切るかもわからない
私があげるはずだったのは
明日からどんどん萎れていくこの花
なのに
21時
やられた
してやられてしまった
まさかと思っていた
一時間経っても連絡は無く
右も左も分からない銀座に
私は1人だった
あまりに私が忙しいと言っていたから?
ずっと曖昧なままにしていたから?
頭の中はハテナでいっぱいだった
先手必勝
最後に負けたな〜
勝ち負けじゃないとわかっているけど
思った時に行動しないと、
いろんなものを逃すし
今わたしに残ってるのは
今日渡すはずだった花と
話すべきだった話
話さなきゃいけなかったこと
このカーネーションは
ドライフラワーにして燃やそう
めんどくさいこの気持ちと一緒に
仲良くなりたかった新人のバイトに連絡先を聞かないまま次に出勤したら
辞めていたとかそういう
全てはタイミングなんだぞ
と言わんばかりの教訓
わたしはあと何度経験するのだろうか
困った
汚い言葉を借りれば
わたしが捨てるはずだったのに捨てられた
切ろうと思っていたのに切られた
当たり前のことなのかもしれない
こんな私だから
そうされて当然の報いなのかもしれない
甘えてはいけない
優しさに
つけ込まれてはいけない
人はそこまで待ってくれない
後回しにしている全てのこと
もう待てないとか
手遅れになる前に
清算しなくちゃな
『チャンスの神様には前髪しかないんだよ』
高校の時の可愛い先生のことを思い出した
全然器用に生きられないねえ
風がとても冷たかった