社内不倫
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#002

「好きな女ができた」

テレビドラマで良く耳にするフレーズが脳で再生され、
大きな流れとして舌につたわってくる。

唇がそれを音にコンバートしようとする寸前で、
音になる前のそれを喉に向かって反射させて飲み込む。

代わりに

「子供が生まれてから、恋人ではなく父親と
母親になった」

「僕は一生恋愛していたいんだ」

「君とはそれができなさそうだ」

と後づけの理由を妻に向けて投げつける。
言葉を重ねれば重ねるほどまともな理由なんて
1つもないことを自覚する。

「好きな女ができた」

ただそれだけだった。

#001

プロローグ

数年前に終わったことだが、家庭を持ってから一度だけ恋をした。
子供が生まれて1年ほど経過していただろうか。

「子供が独立したら離婚をするつもりだ」

十年以上先のどうなるかもわからない話を、
その時の僕は全身を小刻みに震わせながら
机をただただ見つめる妻に向けて断言していた。

その時、妻を体の内側から揺さぶっていたのが、
怒りなのか、哀しみなのか、それとも絶望だったのかはわからない。
でもそれは激しく彼女を揺さぶっていた。

まだ夫婦になる前に、一度別れ話をしたことがあった。
その時も、彼女は喫茶店のテーブルに置かれた
コーヒーカップのどこかを、唇だけを独立した
生き物のように震わせながら見つめていた。

「どうして?」

あの時と同じ言葉を妻はしぼりだす。