絡ませた腕から伝わる、男の体温が 気恥ずかしい。


なんで、急に声をかけてしまったんだろう?


ふと、疑問に思う。



そもそも、私はMISTを口説こうとか、思ったんじゃないんだから!



単純に久しぶりの友人と見間違えたのである。




・・・まあ、よかったのかしら?


人違いだと気付いた時、少しうろたえてしまったのだ。




瞳が重なった時、吸い込まれてしまったのだから。




恋愛に言葉は要らないと思う。

理由も。

時間も。




お互いが惹かれたのであれば。



障害があったとしたら?


それも燃えるのかもしれない。




そもそも、RAINは欲しくて手に入れた男なんて いなかったのである。


いつも、勝手に現れたのだから。



自分から、望むとは、こういうこと・・・

なのかしら?



ちょっと、戸惑いながら、

降って湧いた出逢いを 純粋にかみ締める。




やだ、私にもこんな一面があるのね?



ミュールから覗く素足がやけに艶かしい。




少し足早になったRAINの腕が解けそうになると、


MISTは驚いて、こちらに顔を向ける。



当たりはすっかり、夕闇である。



街灯は少なく、空気はぬるい。




風に吹かれて、湿気とRAINの首筋からの香水が交ざる。





「この香り・・・?」


「知ってるの?」



RAINを引き寄せ、抱きしめる。



鼻に抜ける香りは、甘く、儚い。



抱き締められて、男の付けた香水と、汗の匂いを吸い込む。




イヤじゃない。いい香りだわ。





「Nuit d' ete 、JOOP!だろ?」


「え? 知ってるの? これ、珍しいのに・・・」




寄せた顔が近付いて、唇が重なった・・・・・・




辺りは静かである。


ここは、日本ではない。




誰も二人を見ていないし、

二人を知らない。



二人の影も闇に溶けている。




「ねえ・・・MISTの香水も・・・JOOP!でしょう?」


抱き締める、力は強い。




「当ててみなよ」


「・・・・・・NIGHTFLIGHT、かな?」




既に、恋に落ちてしまったのだから、いいのだが、


全てが好ましいような、心が浮き立つような。





この男と、あとどれくらい一緒に居られるのだろう?


少し苦しい気持ちになった。




しかし、今は、これから始まる恋に身を委ねてみよう。




もしかしたら、私の気持ちを乗せてもいいかもしれない

相手かもしれない・・・



そんな気持ちを胸にしまう。




MISTは、私の事を、どう思っているのかしら?


見上げると、強い眼差しとぶつかった。







静かな通りを抜けると、ビーチに出た。



RAINの長い髪が風に揺れる。




「美しいな・・・ここは」


「うん・・・・・・」



「RAINもな・・・、謎だらけの不思議な女だけど」





誰もいない空間で、恋に落ちる二人を知るのは、

潮騒だけである。






そして、月だけが知っている。








気が付くと、頭上にあった太陽が 翳り始めた。


どうやら、うたたねしていたらしい。 ここは、海外である。


ようやく取れた長期休暇は、連れもいない きままな一人旅である。




・・・・・・! 落とした視線の向こうから、流暢な? フランス語か?



カチリと合わせた瞳は、ミステリアスなNOIRだった・・・



「あら・・・?おかえり」



「・・・・・・ただいま」


オレはこの女を知らない。

どうして、「ただいま」 と言ったのか?


「あは。東洋人だと思ったから、つい日本語 使っちゃった。

貴方、日本人なんだ」


「なんで、おかえり、なんだ?」



「つい、口が滑ってね・・・。デジャヴかもよ」


ヘンな女。

でも、凄い美人だ。そして、オレより年上のようだ。



「せっかくだから、私もお酒、頂くわ」


優雅に伸びた腕が、ウエイターの気を引く。





女は、キールを飲んでいる。

そんなに美味いのか? と思うくらいに美味そうだ。


「オレのコロナより、そんなにキールって、美味いか?」




「ふふ。お酒は、美味い、不味いじゃないのよ。

誰とどういったシチュエーションで飲むかで、味が決まるのよ」


ふーん、そういうものか・・・




ガラスの様にキラキラに磨かれた爪が

マガジンをめくる。


「なあに? 退屈?」


「いや、あんたって、ヘンな女だな。

用もないなら、何でここにいるんだよ」





ふふ、と微笑んで、サングラスを外した。


「なくもないわよ。でも、つまらないなら、友達になる?」


「・・・・・・よくわからないが」




「ここは、日本ではなく、海が美しい異国だから・・・

RAINって、呼んで」


「外国だから、名前変えるのか?」


「その方が新鮮でしょう? 貴方の名前は?」



オレは、答えに詰まった。

そんな簡単に、漢字じゃない名前って思いつくのか?


「あ、悩んでる、困ってる~」

笑い始めた。



なんなんだ?



「MIST」


「?」



「貴方の名前。付けてみたよ」


「MISTって、霧か?」



「そう。ミステリアスで、いいでしょう?」


「あんたの方が、ミステリアスだよ・・・」



「RAINだって。私のここでのニックネームなの。

一緒にいる人によって、雨にも、RAINBOW、虹にもなるよ」


ケラケラ笑った。ちょっと、勝てないような、やばい気がした。




「で、何でオレが、MISTなの?」


傾けたグラスの液体が煌く。


「貴方はいつか私の前からいなくなるから」




ライムを落とし込んだコロナは、既に空である。


なんなんだ? この気持ちは?


オレは、渇いた喉をRAINのキールで潤した。


「たった今、会ったばかりなんだぜ?」


「そう。出会いって、いつだって突然で、

偶然を装って、忍び寄る。

凄い確率なんだよ、だから、乾杯しよう」






殆ど、会話らしい会話は交わしていない。

だが、そんなことは、関係なかった。




まるで、昔からの知り合いのように、

自然に飲み、食事をし、そして 恋に落ちた。


年齢も素性も、どんな人間なのかも分からない。


いいや、と思った。



ここは外国だからな。



10日後に帰国だが・・・




RAINが何を考えているのか、全く分からない。


酔っているのか、瞳を閉じると、



波の音が聞こえる・・・・・・