ウクライナ暫定政権、軍事力を投入し占拠派排除へ

     飛行場を奪還、銃撃戦で親露派の四人が死亡した

宮崎正弘

 ウクライナ暫定政権は軍事力を投じて、東部ルガンスクなど占拠のつづくスラビャンスク飛行場や政府庁舎に進撃を開始し、反政府活動家の強制排除に乗り出した。暫定政権は、選挙している親露派を「テロリスト」と読んだ。

 

 日本のマスコミのウクライナ報道は、すこしおかしい。

いや、あまりに欧米の基準に立脚しすぎである。プーチンが悪魔のように報道されているが、民族自決の原則から言えば、クリミアの住民が決めたことを欧米が露骨に介入した内政干渉であり、欧米の論理の鵬がおかしいのである。

 欧米スタンダードに従えば、東チモール、コソボ、南スーダンの住民投票による分離独立は正当で、クリミアの独立はそれなら何故いけないか論理的整合性のある摂理は一切開示されていない。

もっともロシアの強権的なクリミア併呑はいささか帝国主義的ではあるが、もともとクリミアはフルシチョク時代の「ボタンの掛け違い」からウクライナ編入の経緯があり、地もと住民はウクライナ国民というアイデンティティに乏しい。

率直に言えばシリア空僕をドタキャンしたように、オバマ外交は失策につぐ失策である。

プラス面で作用したのはウクライナの中央から西半分のウクライナ人が、より欧米寄りになったこと。中国が他国の領土を侵害した場合、国際社会から、制裁を受けるという現実を認識できたこと等だが、依然としてウクライナは親露派と西欧派にわかれ、内戦に発展する危険性が残る。

EUがウクラナイ問題でプーチンを激しく非難しない。理由はウクライナ支援に最大で13兆円程度が必要(最低でも三兆円強)とわかって、欧米はもうこの辺で介入をやめにしようと悲観的なことが挙げられる。

これ以上ロシアに楯突くより、ウクライナが希望の高まりをもってEUと米英の支援に経済を依存しようとしているのは明瞭であり、それがもはやお荷物という判断にEUは傾いた。

▲ウクライナ経済の未来に青空がみえてこない

ほかにもマイナス面はウクライナの暫定政権にネオナチが多数混入していて、どうやらまともな政権とは言えないことが欧米メディアでも明らかになっていることだろう。

ガス供給中断をちらつかされてEUの結束がはやくも乱れ始めたこと、とりわけドイツは制裁に距離をおいて米国とは宙ぶらりん。つまりウクライナのユーロ加盟は格段の明瞭さで遠のいた。

また産油国の米国離れが加速している現実に対してオバマはほとんど無能である。ケリーは中東で「失言」ばかり繰り返し、イスラエルも彼の和平仲介に迷惑顔となった。

サウジアラビアとの関係改善のため、急遽リヤドを訪れたオバマはサウジ国王と二時間会見したが、イランをめぐる意見の相違は埋まらず、ついに晩餐会に国王は欠席するという事態が出来した。

欧米寄りの論調で「アルジャジーラ」を放送するカタールは産油国の中で鼻つまみ、エジプトは事実上の軍事政権が復活した。

リビアは部族対立の内乱に解決の見通しは薄く、トルコはトルコで、エルドアン批判をそとから繰り返した欧米情報機関とマスコミの「希望」を覆してエルドアンが圧勝。イスラエルは米国の介入を意に介せず、独自の中東外交を展開するに至った。

気にくわないナショナリストが当該国のトップにたつと攻撃を加えるのも欧米マスコミの癖、安倍首相を「危険なナショナリスト」「靖国参拝に失望」と酷評した欧米ジャーナリズムが立脚するのは要するに左翼リベラリズムの延長にある「グローバリズム」である。

だからトルコのエルドアンは「チンピラ首相」となり、次期インド首相に最先端のモディ師には「ヒンズー至上主義」の危険人物というレッテルを貼るのである。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

平成26(2014)年4月16日(水曜日)通巻第4205号    

 弱腰オバマ政権はフィリピン防衛にどこまで本気か?

  アキノ政権、米国と防衛条約の再改訂を討議、4月末に発表か

宮崎正弘

 フィリピンはスカボロー岩礁を中国に奪われた上、南方のセコンド・トーマス環礁に駐屯するフィリピン海兵隊への輸送船を中国海軍に妨害され、その中国への怒りは高まっている。

 アジアタイムズ(327日)に拠れば、すでにフィリピン政権は米軍と「米比安保条約の改定を討議しており、四月末のオバマ訪問を前に概要が発表される政治日程にある」と伝えた。

 

 スビック湾の海軍基地とクラーク空軍基地から撤退した米軍は、2002年の対テロ戦争宣言以後、空白状態のフィリピンに500名前後の特別チームを派遣している。これは「太平洋特別作戦」の一環で、ミンダナオ周辺に盤踞するアルカィーダ系の「アブ・サヤフ」(武装組織、イスラム過激派)との軍事衝突に対して、防衛装備品や武器提供とテロ防止の軍事訓練が目的だ。

 そのうえ、昨秋フィリピンをおそった台風被害の救援を名目に米国は空母を筆頭に多数の軍人を派遣し「友だち作戦」を展開した。

 現在検討されている米比安保条約改定の内容は、これまでの「フィリピン国内での危機対応」という主目的が、近年の中国の侵略的行為を目の前にして「対外敵対勢力との対応」へと焦点が移されているという。

とくに「敵海軍への偵察情報の共有、海軍施設のシェアと装備強化」などが唱われているとされる。現存の米比安保条約は米軍の国内駐留を認めていないが、これも「臨時的に駐留を認める」と条項が変更される手はずだと前掲アジアタイムズが伝えた。

 米国は「ピボット」「リバランス」を打ち出して海軍の60%を太平洋に移管するとしたものの、実現には至らないばかりか大幅な国防費カット、アジア諸国はオバマ政権への不信を募らせている。

 ▲オバマの外交不在の空白に乗じる北京

そのうえ、オバマ大統領自身がこれ以上の南シナ海の領海係争に関与したくないという姿勢であり、ペンタゴンが密かに進めている米比安保条約改定に乗り気ではない。ペンタゴンはオバマ政権の防衛戦略に不快感を示しており、関係は険悪でもある。

オバマはあきらかに中国を重視して、フィリピン、韓国、日本を訪問する前にミッチェル夫人を一週間も中国に親善訪問させてバランスをとる等、外交戦略がはちゃめちゃである。

米国内ばかりか国際社会でもオバマ大統領への評価は最悪に近いが、その無能力を中国はチャンスととらえ隙を突いているのだ。

これらの情勢をふまえてフィリピンは日本への接近を急速に強めてきたが、直近の情報ではベトナムとの協同も視野に入れており、就中、三月に訪日したベトナム主席と安倍首相との会談で防衛協力が討議された事実に着目し、フィリピンは将来的に「日越比」三国の防衛協力をも視野に入れたと分析されている。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

平成26(2014)年3月31日(月曜日)通巻第4193号

分断・クリミアの衝撃:/中 

軍港維持、譲らぬ露 「力」への信仰、実現

毎日新聞

 白青赤のロシア国旗がポールに掲揚されると、黒海から吹く潮風になびいた。クリミア半島南部セバストポリ特別市にある海軍学校施設。ソ連崩壊翌年の1992年からウクライナの管轄にあったが、クリミア編入を決めたロシアのプーチン政権は20日、ロシアの海軍学校として“復興”させた。市内に幼年陸軍学校を創設することも決定。ロシア軍参謀本部に所属したこともある軍事評論家、イーゴリ・コロチェンコ氏は力説する。「セバストポリは軍人養成の理想的な場所となり、愛国心をはぐくむ源泉となる」

 ロシアがクリミア掌握に乗り出した背景には、2月にウクライナで親欧米政権が誕生した直後、セバストポリにある黒海艦隊基地を失うかもしれないとの恐怖に見舞われたともみられている。世界一の国土を誇るロシアだが、地中海を望む「南への出口」となる大規模な軍港はセバストポリに限られる。ロシアはシリア北西部タルトスに旧ソ連諸国以外で唯一の軍施設を持つが、ここへのアクセスも黒海艦隊基地が拠点となる。

 「クリミアはロシア軍の栄光を象徴している」。プーチン大統領は18日、クリミア編入方針を表明した演説の際、セバストポリの重要性を強調した。

 冷戦終結の象徴ともいわれるベルリンの壁の崩壊(89年)時、プーチン氏はソ連国家保安委員会(KGB)の職員として旧東ドイツのドレスデンで勤務。東ドイツが崩壊していくプロセスを目の当たりにし、2年後には母国ソ連まで解体した。「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的な悲劇だった」。プーチン氏は2005年の年次教書演説でこう述べた。

 プーチン氏が国際政治における「力」の信仰を強めていく過程では、米国がロシアなどの反対にもかかわらず強行したイラク戦争(03年)が影響を与えたといわれる。軍事評論家のアレクサンドル・ゴルツ氏は「当時のブッシュ大統領は『力があれば何でもできる』と行動で示した。今のプーチン氏には十分な力がある」と指摘する。

 ソ連崩壊で混乱した経済も豊富な資源をてこに回復し、原油収入を積み立てた戦略的予備費の基金は計1740億ドルに上る。最大の貿易相手国である中国との経済連携も進んでおり、欧米との“制裁合戦”でエネルギー輸出に影響が出た場合でも「数年間は持ちこたえる」(ゴルツ氏)との見方もある。

 ◇欧州、相互依存で制裁限界

 「欧州にはロシアに思い切った制裁などできない。自分たちの首を絞めるだけだ」。ロンドンの国際金融街・シティーの金融コンサルタントの男性(64)は冷ややかに語る。「プーチン氏もそれを見越している。冷戦期とは違う」

 ロンドンは1991年のソ連崩壊で流出した資金の受け皿となり、新興財閥などの台頭後は資金調達の場としてロシアと結びついてきた。ロンドン証券取引所に上場・証券預託するロシア企業は約70社に上り、英国以外では最多。市場調査会社によると、2013年までの10年間でロシア企業が調達した資金は約4000億ドル(約40兆円)に達した。

 ロシア経済と欧州の結びつきは金融だけではない。英BPなど資源大手が開発プロジェクトで露国営ロスネフチなどと提携しているほか、自動車業界も独フォルクスワーゲンや仏ルノーが大型投資を実施。仏食品大手ダノンはロシアに20以上の生産拠点を持ち、売り上げの11%を稼ぐ。

 こうした事情を反映し、欧州連合(EU)は20日の首脳会議で対露追加制裁を決めたが、経済制裁には踏み込めなかった。スウェーデンのラインフェルト首相は「ロシアに投資する企業が400もある。影響を見極めないと実施できない」と経済制裁に異議を唱えた。ロシアへのエネルギー依存度の高いブルガリア、ロシア人の高額預金者が多いキプロス、ルクセンブルクも経済制裁に反対し、ロシア側の思惑通りになっている。反ロシアの東欧の外交官は「欧州は弱みを見せた」といらだちを隠さない。

 米国の金融市場でも先週、衝撃が走った。米連邦準備制度理事会(FRB)が外国中銀や国際機関から管理を任されている米国債の残高が、12日までの1週間で1045億ドル(4%)も急減したのだ。これまでの過去最大は昨年6月の324億ドル減で、市場では「資産凍結を回避するため、ロシアが他国にドル資産を移したのでは」との観測が広がった。ロシアは政府・民間で世界12位の1318億ドル(1月時点)の米国債を保有しており、動向次第では米国金融市場にも動揺を与えかねない。

 ソ連崩壊から20年あまり。相互依存を深めたロシアに対し、米欧は難しい対応を迫られている。

分断・クリミアの衝撃:/上 

ウクライナ政変3カ月前 EU、デモ隊に資金 ロシアの不信招く

毎日新聞 20140321日 東京朝刊

 ロシアがウクライナ南部クリミア半島の編入を決めたことは、武力を背景に他国の領土を併合する「21世紀にあり得ない」(ヤツェニュク・ウクライナ首相)出来事として欧米に衝撃を広げた。冷戦終結後の国際秩序を揺るがし、新たな「分断」の構図ができつつある事態に、世界はどう向き合おうとしているのか。

 「なぜ失敗をしたのか。反省する必要がある」。クリミア半島での住民投票の結果が発表された17日の欧州連合(EU)外相会議。こうした指摘が相次ぎ会議は沈黙に包まれた、と外交筋は明かす。「ロシアが軍事的選択肢を取るとは思ってもみなかった」。EU外交官は誤算を認める。

 先月末にロシア軍とみられる部隊が半島に展開し、編入を問う住民投票が16日に実施されるまで半月余り。ロシアの速攻に欧米は右往左往した。なぜ目算を誤ったのか。ヘント大(ベルギー)のエルスウェヒ教授は「ロシアの不安を考慮しなかった油断」を指摘する。

 ウクライナの首都キエフで反政府デモが激化したのは昨年11月。親ロシアのヤヌコビッチ大統領(当時)がEUとの「連合協定」への署名を拒否したことがきっかけだった。EUにはウクライナを加盟させる合意はなく、協定は改革を促すためのものだが、ロシアは「ウクライナをEUの勢力圏に置くのでは」と受け止めた。さらに、ロシアの疑心暗鬼をかき立てた水面下の動きが明らかになった。

 EU本部のあるブリュッセルの住宅街。ここに本拠を置く「民主化のための欧州基金」は昨年11月以降、デモ隊に計15万ユーロ(約2000万円)の活動資金を提供した。非政府組織(NGO)だが、ポーランドなどEU12カ国とスイスが資金供給する。ポミアノフスキー事務局長は「EUでは動きにくいがNGOなら準独裁のヤヌコビッチ政権への抵抗勢力を支援できる」と毎日新聞の取材に話す。

 2月中旬になるとデモ隊と治安部隊の衝突で多くの犠牲者を出し、EUを代表した独仏ポーランド3カ国の外相とヤヌコビッチ大統領、野党指導者が同21日、大統領選前倒しなどで合意した文書に署名した。しかし、市民に拒否され、過激派が大統領府を占拠、ヤヌコビッチ氏はロシアに逃走した。「崩れかけた家の礎石が引き抜かれた」(EU加盟国高官)と形容される合意崩壊に、ロシアは「裏切られた」(エルスウェヒ教授)と思い強硬策を決断したとの見方が有力だ。ロシアのプーチン大統領は今月18日の演説で「欧米は一線を越えた」と批判した。

 だが、欧米は勝利感に酔い、ロシアが警戒する極右勢力も加わった新政権の承認と支援を急いだ。在任中にロシアと蜜月関係を築いたシュレーダー前独首相は「ロシアを知らなすぎる」とEU外交を非難する。

    ◇

 「第二次世界大戦前夜を振り返るべきだ」。ケリー米国務長官は18日、クリミア編入を戦前のファシズム台頭になぞらえ「再び頭をもたげないよう努力したのが大戦後の歴史」と述べた。1989年の冷戦終結後、旧ソ連の崩壊や東欧諸国のEU加盟など世界の構図の変化では欧米の価値観が優位にあった。今回の事態は、米国には「冷戦の敗者」であるロシアが歴史に逆行し、「帝国の復権」をかけた戦いに打って出たと映る。その視点はロシアの痛みに鈍感な「勝者のおごり」と表裏をなすものだ。

 東西冷戦下でソ連に対処した米政治家は後手に回った欧米の「失政」を指摘する。19日、ワシントンでのシンポジウムで、カーター政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたブレジンスキー氏は「状況を沈静化させないと、(ウクライナ全土介入など)次の段階に進むかもしれない」と警告した。フォード、ブッシュ父政権で同補佐官だったスコウクロフト氏は、プーチン大統領の欧米への不信を理解せずにウクライナ問題に対応してきたと批判し、こう切り捨てた。「怠けてきたツケが回ってきた」

WSJのナショナリスト報道で連想したことと本当の軍国主義国家

元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一

 本田悦朗内閣官房参与が、米紙ウォールストリート・ジャーナルとのインタビューで「日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙(たいじ)できるようにするためだ」と語ったと報じられた。

 彼とは旧知の仲なので、直接尋ねたところ、「そういうことは言っていない」と話していた。

 また、インタビューをしたアンドリュー・ブラウン氏は、北京支局勤務だが、本田氏の親切心があだになったのではないか。例えば、靖国問題について本田氏は「担当ではないので担当者に聞いてくれ」と言ったというが記事には書かれていない。

 筆者は、本田氏からの話を聞いて、陰謀論を唱えるつもりはないが、中国が力を入れている対日プロパガンダのすさまじさを連想した。先月には、英国BBCで中国の駐英大使が日本批判を行い、日本の駐英大使が猛烈に反論する事態も生じている。

 中国は、日本のことを「軍国主義」というが、それは69年前までの話だ。その後、日本は全く戦争をしていない。しかも、憲法によって交戦権を放棄したのは、世界ではかなりよく知られている。

 国際政治の理論として、民主主義国同士では戦争をしないという「民主的平和論」がある。そのルーツは、カントの「永遠平和のために」(1795年)などだ。そこで多くの人は自衛以外での戦争を望まないとしている。

 民主主義国同士で戦争が起こらないのは、共通の価値観を持ってイデオロギー対立がなくなること、複数政党を背景にして議会主義的交渉能力が発達していること、マイノリティーの言論の自由が保護されていること、情報がよく公開されていること、民主主義国では戦争の大義がないこと-などがあげられる。

 ここでいう民主主義国とは、男女普通選挙、複数政党制、報道の自由の確保などが基準になっている。中国は共産党の一党独裁、報道は共産党の広報で自由が確保されていないので、民主主義国とはいえない。

 一方、日本は曲がりなりにも民主主義国だ。「民主的平和論」からいえば、中国のほうにより大きな問題があるとなる。

 ちなみに、軍事費を見よう。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所のデータでみると、日本の軍事費の対GDP比は1%であるが、これはデータのある世界139カ国中30番目の低さである。一方、中国は2%と日本の倍である。

 しかも、中国の軍事費の伸びはすさまじい。日本の周辺国だけをみても、中国の軍事費の伸びは突出している。冷戦後の1992年を100として2012年をみると、日本は113、韓国は192、ロシアは125、米国は137であるのに対して、中国は623である。いわば中国だけ桁違いの伸び率になっている。

 世界の良識的な人は、こうした中国の事実を冷静に見ているだろう。そして、中国が日本を軍国主義だとレッテル貼りをすればするほど、ブーメランとして自国に返ってくるだろう。

教育委員会を牛耳る地方の教職官僚 自民改革案は小さな第一歩

元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一

 教育問題に関心を持つ人は多い。誰もが教育を受けた経験があるので、いじめや体罰などの問題についてひとこと言いたくなるものだ。政治家も同じで、教育問題に力を入れる人は多い。選挙で教育問題を公約に掲げることもしばしばだ。

 ところが、今の教育制度は、政治による民主主義をなかなか受け入れにくい。教育行政において、文科相や地方自治体の首長など政治家の役割はあまり多くはなく、ほとんどは教育委員会が主体になっている。

 教育委員会は首長から独立して、5人程度で構成されていることが多い。現行の制度で首長が教育に関与できるのは、「教育予算」と「教育委員会委員の議会の同意を得ての任命」である。ただし、予算ではある程度のことはできるが、委員の任命はうまくいかないことが多い。というのは、原則5人で5年任期の委員の交代の時期は重ならないようになっており、事実上毎年1人ずつが交代するようになっているからだ。

 一方、教育委員会の実態は、役所の審議会と似ており、教育長をトップとする事務局が実質的なことを決めている。ちなみに、市の教育長の報酬は、教育委員長の約8倍、教育委員の約10倍であり、町村の教育長の報酬は、教育委員長の約15倍、教育委員の約20倍。いかに教育長のほうが実権者であるかがわかる。市町村の教育長の7割が教職経験者で、学校寄りという批判もある。

 こうして、教育に関して政治的中立性が重要との理由で、政治家を排除して地方の教職関係の官僚が牛耳っているのが実態である。

 いじめ問題などで今の教育委員会制度がうまく機能していないのは、誰の目にも明らかであろう。ただ、その改革の方向性には大きく分けて2つある。

 1つは、教育行政を一般行政に組み入れて、政治的な関与を図ろうとするもので、首長や経済界から打ち出されている。教育委員会制度の本家である米国で、メイヨラル・テイクオーバー(教育委員会を廃して首長に教育の統制権を付与する)と呼ばれているものだ。米国では既に1990年代半ばから、ボストン、シカゴ、ニューヨークなどの代表的大都市でメイヨラル・テイクオーバーが行われつつある。

 もう1つは、今の政治的中立のままで、教育委員会を強化・拡充するものだ。具体的には教育委員会の公選制復活、予算権の付与などで、教育関係者から打ち出されることが多い。

 結果的に自民党は、教育委員長と教育長を兼務する新ポストを設けるなど教育委員会制度の改革案を了承した。背景にあるのは、当然前者である。

 しかし、それを先鋭的にしないために、2つの方向性のどちらにもくみしないように教育委員長と教育長の兼任にとどまっている。

 教育委員長も教育長もともに教育委員会委員から選ばれている。この意味で、自民党案は、大きな改革に向けての無難で、小さな第一歩になっているといえよう。

日米関係に影を落とす不用意発言と中韓に呼応するメディアの網

元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一

 昨年末の安倍晋三首相の靖国参拝に対して米国が「失望」を表明したほか、NHK会長や経営委員の発言に絡んで、キャロライン・ケネディ駐日米大使が同局の取材に難色を示したとも報じられている。一連の歴史認識問題が今後の日米関係の悪化につながるのだろうか。

 米国は従来、靖国参拝については不干渉が基本姿勢であったが、昨年には「失望」を表明した。同盟国の米国から厳しめの「失望」というコメントが出るのは正直いってありがたくない。「失望」は「懸念」「遺憾」より批判の程度が強く、「非難」よりはまだましだが、それでもあまり使われたくない言葉だ。

 世界のどこの国でも、戦没者追悼施設があるのは当たり前だが、日本の靖国神社については、特別の意味合いが付いてしまっており、米国からは敬遠されているようだ。戦勝国として戦争裁判を行い、有罪にした「A級戦犯」が合祀(ごうし)されているからだろう。東京で昨年10月開催された外務・防衛の「2プラス2(日米安全保障協議委員会)」の際、米閣僚2人は靖国神社ではなく千鳥が淵を参拝した。

 この意味で、戦争裁判を否定するような行為は、基本的に米国には受け入れられない。オバマ政権では、安倍首相が靖国参拝するかどうかを見誤ったバイデン副大統領、中国重視のケリー国務長官、外交経験のないケネディ大使と、日本にとってはあまり恵まれているとはいいがたい布陣だ。日米の外交レベルでぎくしゃくしているようだが、それを嘆いても仕方ない。

 「キジも鳴かずば撃たれまい」ということわざがある。国際関係が微妙ななか、中韓の対外広報戦略が功を奏していることもあり、日本のイメージは落とされている。そうしたときに、日本にとって対外的に都合悪く使われるような国内の発言が多すぎる。発言している本人にとっては、発言しないとストレスがたまるのだろうが、一定の立場になったら節度ある態度は当然求められる。

 逆にいえば、中韓に呼応する一部の国内メディアは、そうした発言を引き出すかのように、網を張って待っているようなので、その手に乗らない方が得策だ。

 率直にいえば、中国の台頭に伴って、米国のアジア太平洋地域における最大の関心は中国にシフトしている。筆者が1998年にプリンストン大に留学したとき、その前年までは、東アジア研究部門で、日本経済という単独の講義科目があったが、翌年には東アジア経済に名称変更され、日本、韓国、中国の3カ国の経済をカバーするようになった。留学生も日本人が減り、その代わりに中国人が急増していた。そうした状況で米国の中国シフトはやむを得ない面もある。

 これを逆転させるには、長い目で見れば日本経済の復活しかない。米国が日本経済を無視できなくなれば、日本との関係悪化もありえない。短期的には、米軍普天間基地問題の早期解決、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の進展が必要だろう。その上で、日米間の外交レベルでの目詰まりも除去し、4月のオバマ大統領の訪日を成功させてほしい。

「成長鈍化」の判断は早計 尾を引くデフレ、円高の後遺症

元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一

 内閣府が17日発表した2013年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0・3%増、年率換算では1・0%増だった。名目GDPは前期比0・4%増、年率1・6%増で、名目成長率が実質を下回る「名実逆転」がやっと解消した。

 実質成長率0・3%増の寄与度をみると、内需が0・8%のプラス、外需は0・5%のマイナスだった。今回は1次速報なので、例えば設備投資では、法人企業統計の結果によって、さらに変動があり得るものだ。

 しかし、現時点でいえば、消費増、建設投資増、設備投資が若干増、政府消費増、公共投資の伸びは低下(12年度の補正予算が切れたため)、輸出微増、輸入大幅増となっているのは、方向としてはいいだろう。それで4四半期連続のプラス成長となっているわけだ。もちろん、消費や建設投資は消費税増税による駆け込み需要も大きいが、これも当初から想定されていることだ。

 ここで、輸出の増加が足りないことを、日本産業の競争力の観点で説明するエコノミストがいるが、そうでもないだろう。輸出の遅れは「Jカーブ効果」(通貨安でも当初は輸出が減る現象)も知られているが、長い間の円高で生産拠点が海外展開したことの影響が大きいと思う。

 つまり、20年間にわたるマネーの過小供給、その結果であるデフレ、円高の後遺症は1~2年では治癒できないほど大きいわけだ。

 成長率はプラスを維持しており、この程度の数字で「鈍化」というのは、ちょっと気が早い感じである。いずれにしても、来月の2次速報やその後の展開を見ないとなんともいえないだろう。

 もっとも、これを奇貨として追加金融緩和を行う手はあるのかもしれない。18日の日銀金融政策決定会合では、金融政策の変更はなく、現状維持だったが、黒田東彦日銀総裁は記者会見でちょっとサービスした。

 今年度のGDP成長率が日銀見通しの2・7%に届かないなど「下振れリスクが顕在化すれば、躊躇(ちゅうちょ)することなく量的・質的緩和の調整を行う」と追加緩和に言及したのだ。

 これまでは抽象的に「上下双方向のリスクに対応する」と説明してきたが、今回は数値を示して発言し踏み込んでいる。来月のGDP2次速報が判明すれば、今年度2・7%になるかどうかはほぼわかる。その時点で日銀は追加緩和するかどうかを判断するはずだ。

 筆者は、今年度2・7%を達成できるかどうかは、いい方便だと思っている。金融政策には効果ラグがあり、政策を行ってから2年程度のラグで本格的な効果が発揮できる。もちろん、2年より前でも効果はあるが本格的ではない。

 そうした意味で、金融政策には明日にでも効果が出るという即効性はない。この点が、多くの政治家が金融政策に理解を示さない原因であろう。さらにいうと、政策の当事者は日銀なので、政治家が「自分がやった」と言えないことも不人気の原因かもしれない。

 いずれにせよ、黒田総裁の下振れリスクへの言及は市場に快く受け入れられただろう。

やはり高い国家公務員給与 官民格差是正なら3割カットせよ

元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一

 政府は国家公務員給与を平均7・8%減額している特例措置を今年度末で終了する方針だという。国家公務員の給与は東日本大震災の復興財源を捻出するためとして、2012年度から2年間、減額されていたが、来年4月から以前の水準に戻ることになる。ただし、来年4月から消費税増税が実施されることを配慮して、中高年層の上昇を抑制する方針も併せて出されている。

 そもそも国家公務員の給与水準についてどう考えればよいのだろうか。政府には「利潤」という考え方がほぼないので、民間給与と比較して考えざるを得ない。

 この比較を行うのが、公務員改革で抵抗勢力になっている人事院だ。国家公務員はストライキを行うことができないなど労働基本権の制約を受けているため、その代償措置として設けられている中立的かつ独立性の強い機関が人事院である。そのためなのであろうか、その調査は公務員に「やさしい」ものだった。

 というのも、比較の対象が優良大企業に偏っている。事業所従業員数50人以上の企業を調査しているというが、調査した約1万社の内訳は、従業員数500人以上の企業が4000社程度、100~500人の企業は4000社程度、50~100人の企業は2000社程度となっている。

 国税庁でも同じような調査(民間給与実態統計調査)を行っているが、そこでは従業員1人以上の企業を調査しており、調査した約2万社の内訳は、従業員数500人以上の企業は8000社程度、100~500人の企業は3000社程度、100人未満の企業が9000社程度と、小規模の企業の比率が高い。その結果、人事院調査の民間給与は国税庁調査より高くなっている。

 今年8月に出された人事院勧告では、民間給与は月収40万5539円、国家公務員給与は減額前で月収40万5463円、減額後で月収37万6257円だった(除くボーナス)。ベースとなる民間給与は、年収換算すると486・6万円となる。

 一方、9月に出された国税庁の民間給与実態統計調査では、年収349万円だ。本当に官民格差をなくすなら28%のカットでもいいはずだ。

 人事院調査の対象は、正規職員給与だが、国税庁調査では非正規職員給与も含まれている。政府は正規と非正規を均等扱いすべき立場なので、人事院調査が正規だけを対象としていることはおかしい。

 さらにいうと、国家公務員の場合、会社がつぶれる心配がないので、民間給与より低い水準でもいいかもしれない。となれば、3割以上カットしてもいいくらいだ。

 しばしば公務員給与をカットするとなると、「景気に悪影響が出る」などという的外れの議論が出る。マクロ経済の有効需要の観点から言えば、公務員の給与がカットされた分は、他の公的支出に回ったり、増税額の縮小になるので悪影響は少ない。そもそも公務員の給与が民間より高い水準だということ自体がまったく正当化できないので、その是正を行うのが先決である。

やはり「ゆとり教育」には弊害 学習到達度調査の結果で判明

元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一

 経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに行っている学習到達度調査(PISA)の2012年度調査で、日本(高校1年生)が順位を上げたと報じられた。

 この調査は、2000年度から5回目で、各回の日本の順位は、数学で1位、6位、10位、9位、7位、読解力で8位、14位、15位、8位、4位、科学で2位、2位、6位、5位、4位と推移している。03年度と06年度調査の結果が悪くなっている。それぞれ1987年度と90年度生まれの生徒だ。

 ただし、03年度と06年度は新たに調査対象になった非OECD国が増えているので、その影響で順位を下げている。それをもって日本の学力は低下していないという反論もあるが、比較可能なOECD各国で見ても、日本は順位を下げている。実は、ほかの国際調査でも、日本はそのあたりに生まれた生徒の成績が芳しくない。したがって、87~90年度に生まれた生徒に対する日本の教育に原因があると思う。

 やはり、02年度から本格的に実施された「ゆとり教育」が原因ではないだろうか。87年度生まれは、中学3年(02年度)の時に強烈に「ゆとり」を体験している。90年度生まれは、小学6年(02年度)から中学3年(05年度)まで本格的なゆとり教育だ。その上で、高校1年の時にOECDの学習到達度調査を受けて、成績が悪かったという説明は一定の説得力がある。

 09年度以降の調査で日本の順位が盛り返しているのは、93年度生まれ以降は、ゆとり教育の影響が少しずつ弱まったからだろう。93年度生まれは、小学3年(02年度)から中学1年(06年度)まで本格的なゆとり教育であったが、中学2年(07年度)から全国学力調査の取り組みが成果を上げてきたことなど、ゆとり教育見直しの影響を受けている。

 12年度の調査は、96年度生まれが対象になっているが、この世代は、小学1年(03年度)から小学4年(06年度)まで本格的なゆとり教育、小学5年(07年度)と6年(08年度)は見直されたゆとり教育、中学1年(09年度)から3年(11年度)は脱ゆとり教育への移行期間で、本格的な脱ゆとり教育を受けていない世代である。

 次回の15年度の調査は99年度生まれで、小学1年(06年度)のみ本格的なゆとり教育、小学2年(07年度)と3年(08年度)は見直されたゆとり教育、小学4年(09年度)と5年(10年度)は脱ゆとり教育への移行期間、小学6年(11年度)から中学3年(14年度)までは本格的な脱ゆとり教育なので、大いに期待が持てる。

 今後もさらに学習到達度を上昇させる取り組みをすべきかどうかは、15年度の調査結果を見て判断すればいい。次回の調査結果が、今回より良ければ、今の取り組みはそのまま継続すべきである。もし悪ければ、その結果をよく分析して、見直して正しい方向へ向かうべきだろう。