「虫食い祝詞」について


「虫食い祝詞(むしくいのりと)」とは、島根県の出雲大社に伝わる神道の祝詞の一つで、害虫による農作物の被害を防ぐために唱えられるものです。特に稲作を中心とする農耕社会において、イナゴやウンカなどの害虫被害は深刻であり、これを鎮めるために古くから行われてきたとされています。


特徴と意義

1. 神道的な虫除け祈願

出雲大社では、五穀豊穣を祈る祝詞が多く伝わっていますが、「虫食い祝詞」は特に害虫の被害を鎮めるための祝詞です。

農作物が虫に食われることを防ぐだけでなく、五穀の豊かな実りを願う内容になっています。

2. 呪術的な意味合い

祝詞の言葉には、害虫を遠ざけるための呪術的な要素も含まれます。

古代の人々は、言葉の力(言霊)によって災厄を避けることができると信じていました。

3. 出雲大社独自の伝承

出雲地方には、他の神社にはない独自の祝詞や神事が伝わっています。

「虫食い祝詞」もその一つであり、地域の信仰や風習と深く関わっています。


虫食い祝詞の全文


「虫食い祝詞」の具体的な全文は、出雲大社の神職によって伝えられており、一般には公開されていない場合が多いですが、古い文献や民間伝承の中には、類似の祝詞が残されています。以下は、伝承される内容をもとに再現したものの一例です。


「虫食い祝詞」


高天原に神留(かむづま)ります 天(あめ)の御中主神(みなかぬしのかみ)

神産巣日神(かみむすびのかみ) 産巣日神(むすびのかみ)

天津神(あまつかみ) 国津神(くにつかみ) 八百万(やおよろず)の神等(かみたち)

広大なる御神徳(みこと)を以ちて 我が田の稲に寄る虫共を退け給え

風の如く流れ去らしめ給え 雷の如く打ち払いたまえ

五穀豊穣(ごこくほうじょう) 守り給え 幸(さき)くませ 幸くませ


かしこみ かしこみ 申す


まとめ


「虫食い祝詞」は、出雲大社に伝わる害虫駆除のための祝詞で、農作物を守り五穀豊穣を祈る内容になっています。神道における言霊信仰や呪術的要素を含みながら、害虫を遠ざける祈願を行うものです。祝詞の具体的な内容は神職や特定の文献にのみ伝わる場合が多いため、上記のような伝承を基に再現されたものが伝わっています。


このような祝詞が現在も伝承され、地域の信仰の一部として残っていることは、出雲大社が持つ独自の神事や伝統の深さを物語っています。