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ブラジル時代のカズを追って
~サッカー王国での7年半を知る人々の回想録~
(後編)
「うまくて速かった。両足が同じように使えるからマーカーは大変だった」――トニーニョ・パラナ
トニーニョ・パラナは、80年代にキンゼ・デ・ジャウーで右サイドバックとして活躍した。88年3月19日のコリンチャンス戦にも先発フル出場している。
「カズは、ブラジル人好みのテクニシャン。うまくて速かった。それに、ウインガーには珍しく、両足が同じように使える。練習の賜物だろうね。コリンチャンスの右サイドバックのエジソンはすばらしい選手だったけど、あの日のマッチアップはカズの完勝だった。エジソンに限らず、カズをマークする選手はとても苦労していた」
キンゼ・デ・ジャウーでの活躍が認められて、1988年9月、カズはパラナ州の強豪コリチーバに移籍する。
コリチーバは、パラナ州の州都クリチーバに本拠を置く総合スポーツクラブ。パラナ州を代表する強豪で、ブラジル全国リーグ1部に参加していた。
それまで着実に実績を積んできたカズは、コリチーバでもレギュラー。ホームに名門フラメンゴを迎えた試合でも先発出場し、フラメンゴの英雄ジーコから「スセッソ」(直訳すれば「成功」で、「頑張っているな」といった意味)と声をかけられた。
また、この年のサッカー専門誌「プラカール」によるポジション別投票で、左ウイング部門の3位に選ばれた(当時、ブラジルのトップクラスの選手の多くは国内でプレーしていたから、国内3番目という評価はブラジル代表とほとんど遜色ないレベルにあることを意味した)。
カズが出場したブラジル全国リーグの試合を取材した西山幸之カメラマンはこう語る。「国内最高の舞台で、並み居る強豪クラブと対戦し、しっかり活躍してみせた。以来、カズは国内トップクラスの選手と認められたんだ」
1990年の初めには、パラナ州リーグに出場して優勝した。
「ブラジル人の日本人選手に対する固定観念を覆した」――評論家ジュッカ・キフーリ
コリチーバで結果を残したことが認められ、1990年2月、かつて出番がもらえず一度は退団したサントスに復帰した。
サンパウロ州リーグに出場し、4月29日の強豪パルメイラスとの試合で1得点1アシストの大活躍。さらに、5月5日のグアラニー戦でも決勝点をあげた。
評論家のジュッカ・キフーリ氏はこう語る。
「86年とはちがって、カズは試合経験を積み、本物のプロ選手になっていた。サントスでも、実力でレギュラー・ポジションを掴み取った。彼の活躍で、『日本人はサッカーが下手』というブラジル人の固定観念が覆された」
サントスとの契約は7月末まで。その後、日本へ帰国して読売クラブに入団することが決まっていた。帰国直前のラストゲームでは、腕にキャプテン・マークを巻いてプレーした。サントスからカズへのオマージュだった。
試合後、スタンドへ向かって両手を掲げるカズに対して大きなカズ・コールが起きた。それは、7年半に渡る苦闘の末、小柄で痩せた少年が「本物のプロ」になったことの確かな証だった。
「ぜひ、2014年ワールドカップに出場してほしい」――パウミーロ元会長
44歳にしてまだ現役を続けていることについて、取材に応じてくれた人々は「素晴らしい」と口を揃える。
キンゼ・デ・ジャウーのジョゼ・アントニオ現会長は、「ぜひともキンゼ・デ・ジャウーで現役を終えてほしい。その後は、自分を継いでクラブの会長を務めてもらいたい」と熱烈なラブコールを送る。
カメラマンの西山幸之氏は、「ブラジル時代から、カズの夢はブラジルサッカーの聖地マラカナン・スタジアムでプレーすることとワールドカップに出場することだった。2014年ワールドカップの日本代表に選ばれたら、その二つの夢が同時にかなう」と期待する。
この言葉をパウミーロ氏に伝えたところ、大きくうなづいた。
「1998年ワールドカップの直前、カズが登録メンバーから外されたと知らされたときは、自分の耳を疑った。それが事実とわかると、強い怒りを覚えた。長年に渡ってあれほど日本サッカーに貢献してきた男が、あのような仕打ちを受けていいはずがない。
カズには、まだまだ現役を続けてほしい。そして日本代表に復帰して、2014年ワールドカップに出場してほしい。彼が第二の母国ブラジルで行なわれるワールドカップに出場することになれば、日本中が大騒ぎになるだろう。しかし、それ以上にブラジルをはじめ世界各国で大きな話題となる。
彼の豊富な経験は、若い選手たちに計り知れないプラスをもたらす。47歳の選手をワールドカップに出場させろというのは、非常識に思えるかもしれない。彼に対して特別な贈り物を要求していることになるかもしれない。でも、カズには、世界中でカズだけには、その贈り物を受け取る資格がある。なぜなら、これまで彼は日本サッカー界に対してそれを上回る贈り物を与えてきたからだ」
このパウミーロ氏の言葉を一笑に付すことができる人が、はたしているだろうか。
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