1章 アドマン夜の部vol.2「叱責」
(接待が終わり、帰りのタクシー車中)
時刻は深夜3時を回っていた。
結局あの後、さらに2軒をハシゴし、
最後はカラオケBoxで
一番下っ端の亘が恒例の“裸踊り”で盛り上げ、
接待は無事に終わった。
亘は方角が同じ先輩とタクシーに同乗、
心身ともに疲れ果てて、
お酒がかなり入っていたこともあり、
いつもの自暴自棄スイッチが入りつつあった…
亘「あぁぁ、、またやっちゃいましたよ、いつもの裸おどり…」
先輩「・・・」
亘「ホント俺、あの部長との接待が苦痛です…
終わった後、残るのは自己嫌悪だけ…」
先輩「・・・」
亘「先輩はあの部長と長いんですよね…?
凄いですね。俺まだ3ヶ月ですけど、
もうギブです…ギブアップ!戦意喪失!!」
先輩「・・・」
亘「あの人からは、何も得るものがないし、
自分のキャリアに汚点が残るだけですよ…」
さっきまで窓の外をぼんやりと眺めていた先輩が
初めてこちらを向き、亘と目線を合わせた。
その目は、酔っている人間のそれではなかった。
瞬間、亘の酔いは一瞬で吹き飛び、
事の重大さに気づく…
その先輩は、まったく酔っていなかった…
相当、いやあの場にいた全員の中で、
まちがいなく一番飲んでいたはずなのに…
水割りを作り続けた亘だからこそ、
完全にそう思い込んでいた。
先輩「じゃあ人事に泣きついて、他の部署にでも逃げるか?
それとも・・会社やめるか・・?」
驚くほど静かなのに、
不自然なくらいよく通る、
クリアでしっかりとした声だった。
亘「い、いや、別にそこまでは・・」
容赦なく決断を迫る彼の口調、
こちらを真っ直ぐに見つめるその目線から、
この車中では逃れる術がないことに、
亘は今さらながら後悔した。
先輩「お前、確か5年目だったっけ?
ヒヨっ子が軽々しく上司批判するのはやめとけ」
亘(まずい、本気で怒ってるかも。どうする?どうする!?)
謝罪すべきか、言い訳すべきか、
必死に脳内ソロバンを弾くも思考能力は戻らず。
結局、中途半端に言い訳してしまう…
亘「いや、でもあの部長は・・」
先輩「部長の何を知ってる?お前に見えているのは、部長のほんの一部分だけだ。
お前は視野が狭すぎる」
だが、その一言が、亘を開き直らせた…
実はプライドが異常に高く、
自分への批判に対して常に敏感。
そういったものに対する耐性が、
まだまだ蓄積されていないのだ。
亘(視野が狭い・・俺が?この先輩に俺の何が分かる?)
先輩「それにな、キャリアなんて言葉、口にするのやめとけ。100年早い。ホント恥かくぞ」
亘(何だよ、アンタに言われたくないよ・・どうせ部長の犬だろ!)
~~~
~~~~~~
~~~~~~~~~~
帰りの車中で、酔いにまかせて上司批判を展開した亘。
しかも、それを諭す先輩にも、逆ギレの気配…
しかし、この後の、
先輩との車中でのやり取りが、
亘に心境の変化をもたらすキッカケとなる…
今はまだ小さな糸口だったが、
それは後に、大きな風穴へと拡がっていく…
心から敬愛することになる大先輩との、
亘、これが初めての会話らしい会話だった。
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1章 アドマン夜の部vol.1「接待」
(赤坂のとある料亭にて)
「なぁるほどぉ~」
「さぁっすがですねぇ~!」
「いやいやぁ~スバらしいぃ!」
もう止まらない、溢れだす美辞麗句。
ホント耳につく。
ってか、大げさ!
意味もなく誉めすぎ。
50過ぎたオッサンが、恥ずかしくないのか?
こいつが俺の今の上司、しかも部長。
今夜はクライアント上層部との接待で、
彼の得意技“誉め殺し”(自称)
が展開されている…
接待部長、
高速ゴマすり、
ペコちゃん…
社内でついた数々の異名にも、
彼はまったくひるむ様子はない。
不名誉なあだ名は、たぶん
彼の耳にも届いているはずなのだが…
そして今夜も連発される彼の決めゼリフが…
「で・す・よ ねぇ~!」
もう完全服従である。
クライアントは神なのか?
それともこの人にプライドが皆無なのか?
そして今の俺は、この人の圧倒的な部下…
しかも今日の役目は、
ひたすら“酒づくり”…
場の酒を切らさず、スムーズかつ自然に、
丁度いい水割り制作マシーンになりきる…
なんともクリエィティブだこと。
はぁぁ~、こんなはずじゃなかったのになぁ…
俺はこんな事するために、
広告代理店に入った訳じゃない…
この部署に来てから、こんなネガティブな思考が多くなった。
社内でも指折りの弱小営業部。
何も得るものがない屈指のダメ部長。
恥ずかしくて、最近は同期会にも行かなくなった。
社内で同期とすれ違うと、つい伏し目がちになる自分…
かつては期待の若手ホープと囁かれていたのに…
大手スポンサーとの契約を次々とゲットするはずだったのに…
~~~
~~~~~~
~~~~~~~~~~
そんな亘の深~い嘆きを知る由もなく、
今宵も部長の決め台詞が
夜の赤坂にコダマするのであった…
「でぇ・すぅ・よぉ ねぇ~!!」
赤坂の夜は、ながく、ふかい…
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「なぁるほどぉ~」
「さぁっすがですねぇ~!」
「いやいやぁ~スバらしいぃ!」
もう止まらない、溢れだす美辞麗句。
ホント耳につく。
ってか、大げさ!
意味もなく誉めすぎ。
50過ぎたオッサンが、恥ずかしくないのか?
こいつが俺の今の上司、しかも部長。
今夜はクライアント上層部との接待で、
彼の得意技“誉め殺し”(自称)
が展開されている…
接待部長、
高速ゴマすり、
ペコちゃん…
社内でついた数々の異名にも、
彼はまったくひるむ様子はない。
不名誉なあだ名は、たぶん
彼の耳にも届いているはずなのだが…
そして今夜も連発される彼の決めゼリフが…
「で・す・よ ねぇ~!」
もう完全服従である。
クライアントは神なのか?
それともこの人にプライドが皆無なのか?
そして今の俺は、この人の圧倒的な部下…
しかも今日の役目は、
ひたすら“酒づくり”…
場の酒を切らさず、スムーズかつ自然に、
丁度いい水割り制作マシーンになりきる…
なんともクリエィティブだこと。
はぁぁ~、こんなはずじゃなかったのになぁ…
俺はこんな事するために、
広告代理店に入った訳じゃない…
この部署に来てから、こんなネガティブな思考が多くなった。
社内でも指折りの弱小営業部。
何も得るものがない屈指のダメ部長。
恥ずかしくて、最近は同期会にも行かなくなった。
社内で同期とすれ違うと、つい伏し目がちになる自分…
かつては期待の若手ホープと囁かれていたのに…
大手スポンサーとの契約を次々とゲットするはずだったのに…
~~~
~~~~~~
~~~~~~~~~~
そんな亘の深~い嘆きを知る由もなく、
今宵も部長の決め台詞が
夜の赤坂にコダマするのであった…
「でぇ・すぅ・よぉ ねぇ~!!」
赤坂の夜は、ながく、ふかい…
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2章 初訪問篇vol.4「社内No.1」
だが勿論、初訪問の位置付けはそれに限らない。
実は、沖田は社内ナンバー1の
新規スポンサー獲得数を誇る。
そして亘はその事実を調べあげて知っていた。
大手ナショナルスポンサーを担当していない沖田が
良くも悪くも社内で有名な由縁はその辺にある。
亘はそう睨んでいた。
その実績の裏には、間違いなく
独自のノウハウとスキルがあるはず。
それを必ず盗んでみせる
亘は闘志に燃えていた。
2章 初訪問篇vol.3「解釈」
“初訪問の位置付けと目的とは?”
亘は漠然と考えていた。
多分、それは、、
次の訪問に確実につなげるための“印象”づくり。
いかに良い印象を、しっかりと相手に残せるか?
まあ、印象の残し方は色々ある訳だが。
そうしておけば、再訪問のアポも取りやすくなるし
あわよくば先方が何か困った時に、
お声がけいただけるかもしれない。
そして何回かの接点を重ねていく中で
お仕事をいただけるチャンスが出てくる。
良好で継続的な関係を築いていくための
最初の一歩として無くてはならないもの
それが第一印象。
亘は自身に言い聞かせた。
