アカペラ
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目を覚ます

記憶がはっきりしない


寝ぼけた頭に高い音の電子音が響く


伸ばしきれない腕を音のする方へ


AM9:30・・・


もうこんな時間かと軽くため息が出た


寝た気がしない


昨日のことも特に思い出せない


そう、何があったわけでもないから


とにかく今はそう思っていたい


もういちど軽いため息をしながら身体を起こす


口に出さないでカウントをする


幼い頃からの癖だ


これがないと起きるタイミングを自分で計ることができない


レム睡眠の最中に起こされてしまったようだ


頭ははっきりしているのに身体は重い


砂利に足を奪われた浅瀬を進むように、散らかった部屋を歩く


ペットボトルの間接飲みができないオレは周りからひどく潔癖症だと言い捨てられてきた


人間はなぜこんなに不思議な生き物なのかと自分を通して思うことが多い


部屋は汚いのに、人が飲んだペットボトルに口をつけることだけは絶対にできないなんて


灰の溢れた灰皿を横目に、サインペンを手にする


「今日しなきゃいけないのは・・・」


つぶやきながら書きなぐっていく


こうすると起きたてでも、脳が働くと知り合いに聞いた


書き終えたあとにタバコを咥える


深いため息に煙がまざり壁に掛けてあるテディーベアを包む


「頼子か・・・」


ふと学生時代に夜中に二人で布団を干したことを思い出して


煙がスタッカートを刻みながら小分けに口からこぼれた


生理にも関わらず身体を貸してもらった


親が旅行でいないというベタな理由で頼子を誘った


いつも背筋が伸びてる内股の娘だ


実家のある中部地方の田舎町に誰よりも先にルーズのソックスを広めた


ふっくらとした頬に目鼻立ちのはっきりした顔


気がつくと「・・・だね」とノートに書いていた


あいつの口癖だ


「何飲む?!やっぱなっちゃん・・・だね!」

いつもまだ悩んでいるくせにとにかく口に出した答えに無理やり自分をなっとくさせるこの言葉

兄と妹がいるからだとあいつは言う

「お兄ちゃんは勝手だからいつも先に決めちゃうの!でもさっちゃんはね、あ!ごめん、妹ね。さっちゃんは気持ちミエミエなのにわざと自分の好みじゃない方を選ぶの!!」

「それはね、自分の決めた方は好みじゃない方だから、誰かに取られても自分の好みだった方が回ってくるわけだから二度おいしいんだって!!意味分かんないね?!」

「その妹がいてなんでお前は優柔不断なんだよ」

「ん~なんだろね?!あたし幼い頃友達いなかったからね、ずーっとさっちゃんといたんだよ。だから今でもさっちゃんと一緒にものを分ける感覚が残っているというか・・・さっちゃんは本当はこっちがいいんだろうな・・・ってことはだから、あたしがこれを選べばさっちゃんにこれが回るでしょ?・・・だーかーら・・・これでいいっか?!」

「で、口に出したらもう言い換えれないからさ!もう私はこれ!!って。変でしょ?!」

「いや、別にいいんじゃないの。変じゃないと思うよ。多分・・・」

「キャー!!ちーちゃ~ん!!」

両腕に肩を抱かれたおれは何も言わずに口づけをした

「おれはちーちゃんじゃないからな」

「ちーちゃんはちーちゃんなの!!ふふ」


・・・今まで気に掛けたこともなかったが、二人で横になるとこんなに狭いんだな

仰向けで手を伸ばした頼子は手を箪笥にぶつけた

痛がるそぶりもせずに力の抜け左右に揺れる頼子のその腕を

腰を止めずにそっと抱き寄せて頬を当てた


コトが済んだときにすでに気づいていたが、そっと頭を抱いて頼子のオルガスムの衰退を待った

布団が血に染まったことはどうでもよかったが頼子は泣いて謝った

泣くことじゃないとなだめたあと、二人でシャワーを浴びながら洗濯をした

血のヨゴレがなかなか落ちないことにもびっくりしたが布団の柄も、そのときにヨゴレを目立たせないための模様だと知った


「血で身体を汚しても目立たない肌はどんな柄なんだろう・・・」


そんなことを思いながら血が排水溝に流れていくのをただじっと見つめた


「なんか・・・恥ずかしいな。そんなにじっと見られると・・・。」

「頼子の身体からこんなに赤が抜けちゃうと身体の色変わらない?!」

卑しい気持ちをのぞかれたようで焦って訳のわからないことを言ってしまった。

人の身体から流れたものをじっと見たのはあの時が初めてだったから。

「変わらないよ~!ほら?!・・・ね!」

恥じらいながら両腕を広げて見せたが、顔を向けるとすぐに距離を詰めて抱き寄せてきた。

「恥ずかしいならするなよ」

「いいじゃ~ん」

そのまま布団のないベットへ。

頼子のことはあと何十回抱いても抱き足りないと思いながらキツく抱き寄せた。


布団を干したまま親が帰ってきたために、窓から頼子を帰し

布団は寝小便をしたと言い訳したベタベタなオチの一日だった。


灰が落ちたのに気づいた。

「あ・・・」

ジーパンのロールアップの中に入っていくのをどうしようもできずに見届けたあと、苛立ちながらタバコを灰皿に突き刺しながら消す。

昨日から服も着替えず風呂も入らずに寝てしまっていた。

いつものことだが、こんな生活は嫌だな。

と何の解決にもならない気持ちをそのままにロールアップをめくり灰を床にこぼす。


「♪・・・♪・・・」

電話が鳴った。左手でロールアップを元にもどしながら左手よりも汚れている右手を出すのを躊躇しながら携帯を取る。

「はい。」

「はっはっは、ちゃんと起きてるのか?!」

「起きてますよ。ってかどうしたんすか、こんなに早く?」

「いやなぁ、久しぶりにお前に会いたいな~と。近々時間作れんか?」

「あ、いいですよ。え~っと今日はミッドタウンで会社が記者会見なんで、ん~そのあとも多分打ち合わせがあると思うので・・・明後日の夜はどうですか?」

「明後日はいかん!甥っ子がこっちくるんよ。土曜日はどうだ?」

「土曜日・・・ドヨウビ・・・どようび・・・は、、、あ、はい。夕方からなら大丈夫です。」

「アホ、昼からだ!空けろよ!」

「え、ちょっ・・・」

「ツーッツーッツー・・・」

「はぁ、何だよ!全く!!」

長さんらしいといえばらしいが、いい加減迷惑だ。

とはいえ、別に土曜日予定があった訳じゃないし。ただ、土曜日はゆっくりしたかったな。

まいいっか!と軽くため息をしながらかばんを手に玄関を出た。