そんなこんなであっという間に夏休みに突入し、夏のコンクールではなっちゃんたちオーケストラ部も県大会入賞を果たした。
「エリー、おはよう」
「あ、なっちゃんおはよー」
夏休みだが、なっちゃんとは部活の時間が一緒なのでよく顔を合わせる。
よっぽど夏休み前のほうが、顔を合わせる機会は少なかった。
クラスメートだというのに、おかしな話だ。それだけ部活に熱を入れていたと思うと、たった数週間前のことがひどく懐かしかった。
なっちゃんから四月島で「ほら、エリー。ノートの返却、代わりに受け取っといたよ。昼休みにいないから、英語係の子が困ってたよ」と、宵山衿歌と書かれたノートを渡されたときはありがたいやら申し訳ないやらで。
そのなっちゃんを巻き込む形で、オーケストラ部と合唱部が合同合宿をすることになったのは、先週のことだ。
† † †
「ねえねえ、オケと合唱と、どっちとも県大会突破したらさ、合同合宿しようよ」
ことの発端は、私がそんなことを言った、夏休み前にさかのぼる。
合同合宿したーい、とは、合唱部の1、2年生からの提案でもある。それに3年生が便乗する形で、するするとうちの部のほうは話がまとまっていった。
『先輩、だって合宿って言っても、合唱部って女子ばっかりじゃないですかー』
『オーケストラだったら男子もいるし、副部長さんもかっこいいよね』
『こら、あんたたち、合宿に出会いを求めるんじゃないの』
『副部長さんは女の子ですー』
『言い訳するんじゃない!』
『でも、合同合宿、楽しそうだよね。ねえねえエリちゃん、オケの副部長さん、友達だよね?』
そんな仲間たちの期待を一身に背負い、オーケストラ部の副部長さんであるなっちゃんとクラスメートである私が、なぜか交渉役に任命(?)された。
私の言葉を受け、なっちゃんは、そうだねと頷いた。
「同じ音楽系の部活だし、定期演奏会は合同でやるし、その前に親睦を深めておくのもいいかもね」
なっちゃんが乗り気でそう言ってくれたので、私はガッツポーズで頷いた。
「うん、うん! 私もそう思ってたの!」
そんな会話をなっちゃんのほうが覚えていたかどうか。実は覚えていなかったということは、その後数日経って発覚した。
夏休みに入って数日が経ち、部活の練習のために学校へ来た朝、靴箱の近くでなっちゃんとばったり会って、「で、合同合宿の話なんだけど…」とあいさつがてら言うと、なっちゃんはふああとあくびをかみころしながら答えた。
「合同合宿? って、合唱とオケで? 今までしたことあったっけ?」
覚えてないなぁ、と頭をかくなっちゃんに、「今までしたことはなかったけど、部長からOK出たよ」と私は答えた。
「部長って、どっちの部長?」
きょとん、と首をかしげるなっちゃんを前に、私のほうも首をかしげた。
「どっちって、両方だけど。え、だってなっちゃん、この前のコンクール前に、二人で話したじゃん」
「え、なんだっけそれ…?」
「だから、両部ともコンクール県大会突破したら、合同合宿してもいいよね、って話。なっちゃんも、『同じ音楽系の部活だし、定期演奏会は合同でやるし、その前に親睦を深めておくのもいいかもね』って言ってくれたじゃん」
「ああ、そういうこと言った気もするけど…」
夏休み一日目は、オーケストラの方の大会前日だった。最終練習の休憩時間に音楽室を出てきたなっちゃんに出くわした。
その時に、なっちゃんが合唱部のコンクール地区大会進出のお祝いを言ってくれて、私のほうは明日の大会の応援を言った。
そのついでに、せっかくだから、と交渉役を任されていた合宿のことを話したのだった。
「忘れてたの? 参ったな…。オケの副部長とも打ち合わせしてOKもらった、って部長たちに伝えちゃったんだけど」
「まじで?! いや、部長が大丈夫って言うんなら良いけど…有坂先生のほうは知らないよ」
本当に忘れていたらしいなっちゃんに、先に話を進めてしまった私は申し訳ない気分で答える。
「有坂先生にはうちの部長から言ってあるよ。有坂先生の名前で、学校の合宿所借りれることになったらしいよ」
「聞いてないけど?!」
こういうことは、たまにある。とんとん拍子で話が進んでしまって、当事者が置いてけぼりになることが。
というか、置いてけぼりの原因を作ったのは自分なので、私はがばっと頭をさげた。
「ごめんなさい! 今度会ったら言おうと思ってたんだけど!!」
そうして、我が合唱部と、なっちゃんたちオーケストラ部は、八月の終わりに両部初の夏休み合同合宿を開催することになったのだった。