宝珠を左手にのせたお地蔵様の様に、ボクはお家の玄関の前で手のひらに100円玉をのせて立っていました。
ボクは大きなため息を吐くと100円玉をポッケに入れて玄関の扉を開けました。
お家にはお母さんは居ませんでした。お姉ちゃんがテレビを観ながら言いました「お母さんね。練馬のお婆ちゃんちに行ってるの。もうすぐ帰って来るよ」
ボクはお母さんが居ない事にホッとしていました。
宿題をしていると夜ご飯の材料を両手にお母さんが帰って来ました。いつもよりほんの少しお母さんの顔が違いました。よくわからないけど、いつもよりほんの少しだけ何だか違うと感じました。
夜ご飯の用意を始めたお母さんの顔はいつもと同じでしたので、いつもよりほんの少しだけ違った事などすぐに忘れてしまいました。
「ご飯の前にお風呂に入ってね」
そう言われるとボクは洗濯機の前で洋服を脱ぎました。ズボンを脱いだ時「コトッ」とポッケから100円玉が落ちました。スローモーションの様にゆっくりと100円玉は転がると、洗濯機の下に消えていきました。
落ちた時は心臓が口から出てしまうくらいビックリしましたが洗濯機の下に消えた時、もう誰にも見つからない場所に100円玉があることに少し安心しました。
でも今日の100円玉は消えても次の100円玉はまた必ずやって来るのです。きっと。
「嘘吐きは泥棒のはじまり」
土曜日。土曜日は学校が早く終わります。土曜日は児童館で映画の上映会があります。
お友達が言いました「お昼食べたら迎えに行くからな?」