じかんざぶとん④

ときちゃんはまだ小さなこどもなので、それがどういうことなのかを理解することができなくて、魔法をつかって帰ってきてくれたらいいのに…と、またおばあちゃんと一緒にお家のことをしたくてお話したくて、会いたくて、毎日しくしく泣いていました。

ときちゃんの悲しみが続くだけ、雨の日が何日も続きました。そんな様子をみて心配したお母さんは、毎朝目を覚ました時には、ぎゅうっとときちゃんを抱きしめ、背中をポン、ポンと優しくリズムをとるように手をあててくれたり、寝る前にはいつも横になって素敵なモノガタリのお話をしてくれました。

そうしてスウスウと寝息をたてて眠りに落ちたあとには、お母さんは彼女の髪をやさしくなでながら、お空の神様に、どうかときちゃんの心に晴れ間が広がりますように、そして素敵なお友達ができますように…と、いつも心の中でお祈りしていました。

その思いがつうじたのでしょうか、

ときちゃんに少しずつ笑顔がもどってきた雨上がりの朝に、ようやく家から1歩を踏みだしてお散歩をしていると、ところどころに大小様々な大きさの水たまりがいくつもできていることに気づき、それがときちゃんには、なんだか地面に貼り付けられた模様のように見えて楽しくなってきて、水たまりの上をポンポンと飛び跳ねたり、まわりをなぞるように歩いたりして遊びはじめました。そしてとりわけ大きな水たまりの前で立ち止まり、映りこんだ綿菓子のような雲に顔を近づけてのぞいて見ていると、中から突然ポコンっ！とひょっこり、ふかふかのざぶとんが現われたというわけなのです。

色や大きさはまったく異なっていましたが、その寝ごこちといったら、かつておばあちゃんのざぶとんのうえに横になった時の心地のよさとあたたかさに、とても似ているなぁと思いました。そして不思議なことに、なんだか元気になって、ときちゃんの好奇心が外に向かってぷくぷくと湧いてくるのです。だからときちゃんは、それからというもの、このざぶとんと一緒に暮らすことに決めました。もちろんお母さんも、このざぶとんをとても大事にしてくれます。ときちゃんが学校に行ってるあいだは、太陽のひかりにあててくれ、ほころびができた時には、オーロラ色の破れたところと同じ色の糸を探して縫ってくれたり、

同じ色が無い時には、いくつかの糸を撚って色をつくってくれたりしました。

だってときちゃんの大切なお友達は、お母さんにとっても大切。そしてときちゃんが帰る時間になると、太陽のひかりをいっぱいに浴びたふかふかのざぶとんを、お庭が見えるいつもの場所においていてくれるのです。

さあ！、今日は何をしようかしら？そういえば森のみみずくおじいさんに、お茶のつくり方を教わったことだし、お茶を淹れる美味しいお水は、もくもく先生に習ったから…。そうね、今度は誰かをお招きしたいわね。そうそう、あとはテーブルとイスに、美味しいお料理に楽しい音楽、そしてお客様をお迎えするために、失礼のないように何かお作法なども習っておいた方がいいかしらね。ときちゃんは、いろいろな考えをめぐらせながら、森で見つけたタラヨウの葉っぱに、これからやるべき事や、頭の中でイメージした家具のスケッチなどを順番に書き留めて、それをポケットにいれると、さぶとんにのって、まず最初に樫の木おばさんのところへ向かいました。(つづく)