幼い頃、病院の待合室で母がひらがなの描き方を教えてくれた。キャラクターの描き方を教えてくれた。「あなたはとても優しい子に育つのよ」と嬉しそうに話していた母は昨夜も今夜も家には帰らない。


幼い頃、学校のグラウンドで父がキャッチボールの仕方を教えてくれた。バットの振り方を教えてくれた。「お前は誰よりも優しい子になるよ」と楽しそうに話していた父の背中には綺麗な龍が舞っていて今日も僕の首を絞める。


肌寒い外気に触れながら目を細めると見えた霞む蛍光灯や車のライトが好きで、あの光に吸い込まれたらって願っていた。首の痣も切れた素足も割れた爪も口や鼻から生まれた血塊も、あの光の前では無に等しかった気がする。


誰もが苦しみ嘆き彷徨うこの世界では、僕らが抱える悩みなんてちっぽけなもので。そうやって教えてくれたのもお前ら大人達で。口に出せばそれ以上の苦しみを掲げる人間がいて、口に出せばまた負の連鎖が生まれ。誰かに頼ることは依存だと罵ったのは誰かに依存している人間で。人の幸せがなんだと語る奴らほど僕らを搾取して。優しい子を育てようとした母は血塗れの部屋で我が子に刃を向け。優しい子を育てようとした父は冷えた部屋で自らの罪を手紙に添え。


あの光の中に吸い込まれたら良かった。

「この世に必要ない 特別だと思うな 今すぐ終わらせろ クソ野郎」と枕元で囁くこの声は、割れたTVと燃えたカーテンを眺める自分だ。


幸せになりたかった。憎むという感情なのか、憎むって何だろうか。ただただ愛されたかっただけなのか、愛されるって何だろうか。存在意義が欲しかった。今いなくなれば世界は変わったのか、誰も見ないし見ていないか。誰かに認めてもらいたいのは罪か、この存在そのものが罪か。

何の為に生きてるって聞かれたら僕は僕が分からないから上手く答えられない。


あの光の中に吸い込まれれば、蠢く虫もろとも燃やし尽くせるのに。