いつでも微笑みを | World End Tea Room

いつでも微笑みを

「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」

「うん。僕だってそうだ。」



 渋谷に着くなり一目惚れった。

 蒼井優に似た女の子とエスカレーターですれ違った。

 ああ、神様! なぜ出会わせてくれないのだ!

 ただすれ違うだけの人生なんて酷だぜ。もっと素敵な出会いを演出してくれないか。

 ぼくのカルマがそうさせるのか

 ああ、この世界のどこかに素敵な出会いはないものか

 つい先々月、奇跡的な出会いがあったばかりだから無理なのかな

 いや連鎖する可能性だってあるのでは?

 そういう時期だと思いたいのです

 


World End Tea Room


 渋谷の「ちえの木の実」でターシャ・テューダの絵本を買って友人宅を訪ねる。引越しの準備で所狭しと段ボールが並んでいた。その中の一つにキミカちゃんはすっぽりと納まっている。大好きなぬいぐるみと一緒に。

「はこんでもらうのー」

 と笑顔を段ボールの中からのぞかせた。

 それから赤い風船のフォンダンフロマージュを御馳走になる。

 とろける幸せのチーズケーキ。

 ぼくが絵本と逆チョコをプレゼントするとキミカちゃんはお返しにと、テレビのリモコンや電話の子機やらをプレゼントしてくれた(もちろんあとで友人に返却しておいた)

 それから帰る時もマンションの入り口まで出てきてくれて、扉をあけてくれた。

 すべてが愛らしい年頃だ。

 

 帰り道

 ぼくは口笛を吹きながら駅までの道を上機嫌に歩いて行く

 なんのメロディだろう

 ああ、思い出した

 「いつでも微笑みを」の間奏に流れる口笛のメロディだ

 

 素敵な蒼井優似の少女

 可愛らしいキミカちゃん

 ぼくの大切なあの娘

 願わくば

 未来の彼女たちの手に握られているのが

 銃でもナイフでもなく

 花束であることを

 世界が平和であることを

 せつに

 


「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。

「僕わからない。」カンパネルラがぼんやり云いました。

 


 ぼくは今幸せだと思うのです

 ちょっと遠くに離れてしまったけど大好きな人がなんとか幸せに過ごしていて

 ニュースは暗い話題ばかりだけどぼくのまわりはおおむね元気でやっていて

 家族は温かい家庭を築いていて

 友人たちは皆それなりに楽しい日々を満喫していて

 誰も泣いてなくて

 皆笑っていて

 そんなことを話せる相手がいないのはちょっとさみしいのだけど

 でも気分は上々

 ご機嫌な足取りで歩いていける

 蛇が出ようと夜道で口笛も吹きたくなるわけさ

 


(どうして僕はこんなにかなしいのだろう。ぼくはこころもちをきれいに大きくもたなければいけない。あの岸のずうっと向こうにまるでけむりのような小さな青い火が見える。あれはほんとうにしずかでつめたい。僕はあれをよく見てこころもちをしずめるんだ。)

 


World End Tea Room


 幸せを抱いたまま眠ろう。

 と、

 いやいや、やることがあるんだった。

 メアドを変更して、朝までにDVDを一本見て、小説を書いて、早朝ジョギングのついでにDVDを返しいにいくのだ。

 つまり徹夜である。

 幸せなまま夜が明けて

 綺麗な朝を迎えられたらいいな

 誰かの声を聞きたかったりするけれど

 誰かと幸せについて語り合いたかったりするけれど

 皆はもう夢の中だろう

 たぶん今夜は幸せな夢をみているに違いない

 きっときっと

 だからしかたない

 しかたないから今日は静かに一人で過ごそう

 コーヒーでも淹れて 

 そんな夜もいいさ

 


「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中のできごとなら峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」

 燈台守がなぐさめていました。

「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。」

 青年が祈るようにそう答えました。



World End Tea Room