大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然


家主と借家人とは実の親子と同然の間柄である。

江戸時代、借家人には公的な権利・義務がなく、家主がその保証・責任を負ったところからいう。

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 昔、私たち夫婦がハワイで最初に借りた家の大家さんはお金持ちだった。まあたいていの大家さんはお金持ちだと思うが、大家さん夫妻は特別に鷹揚だった。

私は彼らのことを考える度に「金持ち喧嘩せず」という言葉を思い出す。


同じようにハワイで家を借りていた人たちは、みな少なからず大家とのトラブルを抱えていた。

トイレが詰まったので配管工を呼んでほしいと頼んだら「紙おむつを流しただろう!」と決め付けられたとか、そんな類の揉め事だ。

しかし、そのハワイの大家さんは違った。

浴室のシャワー管から水が漏れるので相談したところ、自ら日曜大工道具の箱を片手に我が家に現れ、鼻歌とともにまたたく間に直してくれたのだ。

あとで聞いたら、彼は建築関係のエンジニアだったというが、ウン億円の邸宅の主が、手が濡れるのも厭わずに貸家のシャワーを直す姿に私は感動した。

奥様も、家を訪ねた私に、手作りのマーマレードをお土産に持たせてくれるような人だった。「インベントリー・チェック」といって、退去時に、部屋や家具・借りていた食器などの数や状態をチェックするときも、普通は皿のキズの分まで、戻ってくるデポジット(敷金)から差し引かれると聞いていたのに、大家さんときたら、何も見ずにOKを出してくれた。

思わず「見なくていいの?」とこちらからチェックを勧めたほどだ。

やっぱり金持ち喧嘩せずだね。


この素晴らしい大家さんと私たちを結びつけてくれた不動産会社の人は、「こんなに店子さんと仲良くしてくれる大家さんは珍しいんですよ」という。
何しろ、大家にしてみれば、法律が店子の側に有利にできているせいで、家賃を取りっぱぐれることも少なくなく、裁判に持ち込んでも負けてしまったりするので、そうそう仲良くなれるものでもないらしい。 そんな殺伐とした関係が当たり前の大家アンド店子。 私たちが快適な賃貸生活を送ることができたのは、本当に幸運なことだったのだ。

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